クリエイティブRPG

大和妖奇譚 ―妖魔行―

リアクション公開中!

 0

大和妖奇譚 ―妖魔行―
リアクション
First Prev  29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39  Next Last



芦谷導満2


 当然のこと。
 式神に応対しているのはななみ達だけではなかったが、彼女らが苦心しながら、導満を「倒すため」に式神を攻略しようとしているのなら、導満を「説得するため」に邪魔になる式神を排除しようとしていたのが、草薙 芽衣子シエラ・ルクサリスの二人である。
 式がそうしたように、式神の陣の中へと飛び込むと、静と動それぞれの呼吸を使い分けながら、倒すことよりも注意を引きつける意味で大げさに立ち回り、一撃を食らわしては一歩を引いて、追い打ちを許さない。そして、その背中を互いに守りあうようにして合わせ、シエラは逆に、接近してくる式神達が重なるタイミングを見計らって総留を放ち、その連続する抜刀術によってその場に踏みとどまる形で式神達を撃退していた。
 そうやって、芽衣子が式神の注意を引きつけている隙に、更に式神達へと追撃をかけるのは半月 未宙星野 蚕奈だ。
「未宙の氷の技を見るがいい! なのです!」
 水の妖気を氷結符で凝らせ、氷刀と化した爪でその体を引き裂き、反撃に出ようとする式神の攻撃は、蚕奈のがわりこんで、その大太刀で受け止めた。
「未宙ちゃんは……傷つけさせないっ」
 気合一声と共に、何とか攻撃を弾き返した所で、その瞬間を見計らった未宙の爪が再び式神へと襲い掛かる。
「風ちゃんの邪魔は、させないですよ~ッ!」

 そうして、未宙達が式神相手に大立ち回りし、仲間達のための露払いをしている間、僅かに導満と式神との間に生じた隙間に飛び込んだのは、メリナ・フィッツジェラルドだ。時間としてはほんの数秒。無防備な状態で相対できる、その僅かな機会に、メリナは伝えたいことの全て――人生の最後にやらかしちゃった人への、等身大の反応をその動作ひとつにありったけ込めた。
 そのポーズ、行動を端的に表現するならば、こうである。

m9(^Д^)

「…………」
 対して、導満の反応はと言えば、怒るでも呆れるでもなく、首を傾げていた。壮大なジェネレーションギャップ、どころではない、異世界規模のギャップなのでしょうがない。
 とはいえ、視覚を失っているのが逆に幸いか、動作や場の空気でなんとはなしに、伝えたいことの雰囲気は察知したのだろう。「滑稽に映るのも、無理もなかろうな」と肩を竦めて見せた。
「笑いたくば、笑うが良かろう。だが、笑うだけでは、何も変わらぬぞ?」
 何処か挑発的とも思えるその言葉に、神白 風花は軽く眉を寄せた。
「あ……ふーか……」
 パートナーの神白 鈴が、心配げな顔をするのに、笑って大丈夫、と伝えながらメリナの前へと一歩を踏み出して、導満へと相対した。
「芦谷さん、清明さんに勝てずに悔しかったのは分かります」
 堂々と正面から声をかけてくる度胸に興味を持ったのかどうか、導満が耳を傾けている様子なのに、風花は続けた。
「でも、貴方がしたかったことは、本当にこんな事だったんですか?」
 その問いに、導満は「さてのう」と、メルバックに応じた時と同じように、笑うような声で軽く肩を竦めて見せた。
「元々、判ってもらおうとは、思ってはおらんよ。私は私の目的を果たせれば、それで良いのだ」
「その……目的、とは何なのですか?」
 導満の言葉に、声を上げたのは天見 百合だ。
「それは僕も聞きたいな」
 続いたのは、ようやく一同に追いついてきたメルバックだ。
「さっきは、きちんと答えてもらえていなかったからな。聞かせてもらおうか。ただ、大和の民は知るだろう――その言葉の意味を」
 それを訊ねるために、わざわざここまでやって来たメルバックの姿に、導満も意外そうに見えぬ目を軽く瞬かせると、喉を軽く震わせるようにして「言葉通りの意味よ」と静かに言った。
「最早先の無い人生だ……その最期の様を、大和の民は知るであろう。それだけだが、それで良い」
 その言葉にメルバックがその感情を読み取ろうとするかのように目を細めていると、御影 太郎が「駄目だ、駄目だ……」と口を挟んだ。
「人生の晩年が、こんな形で良いはずがないだろう」
 言いながら武器から手を離し、無抵抗をアピールする太郎に、導満もとりあえずは自身での攻撃を控えて、言葉を聞く気にはなったようだ。そんな導満に向かって、太郎は熱を込めて続ける。
「どうせ、知らしめるのなら、あの鵺を使ってヤマタノオロチと戦うべきだ」
 京を、人々を苦しめる敵と戦って勝つ。そうすれば、感謝を持って人々の心に残る筈だ。
「そのほうが断然、人生の最期としては格好良いぞ!」
 太郎の熱弁に、くく、と導満は笑った。
「格好良い、か。面白いことを言う」
 その声には馬鹿にしているといった響きは無く、どこか太郎の言葉を楽しんでいる節がある。だが同時に、その言葉を聞き入れるつもりはない、ということも、その声からは感じ取れ、風花は軽く眉を寄せる。導満が覚悟の上なのは判った。だが、その結果導満は、これほどの力を持ちながらも、京を襲った悪の陰陽師として人々の記憶に残ってしまう。そんなのは可哀想だ、と風花はぎゅっと拳を握り締めた。
「大和の人々に知ってもらうのなら、こんなやり方では無くて、力で示すのではなくて、もっと別の方法があります」
 その陰陽師としての力もそうだが、法力でもって視力や聴力を補うその術は、多くの人を救うことが出来るような素晴らしい術だ。こんな風に、終えさせるべきものではない、と風花は語気を強める。
「その知識を、後世に伝えるべきです……!」
 そう訴える風花に「そうだ」と声を上げたのは霧生 真也だ。
「そもそも、あんたは鬼に騙されてるんだ」
「ほう?」
 その言葉を面白がるように、先を促すように首を傾げて見せた導満に、真也は続ける。
「清明は京にはいない。いるのは、希一――清明の息子だけだ」
 そう言って、真也の向けた視線の先では、希一が反応に困ったように導満を見ていた。お互いに顔も知らないような相手だ。だが同時に、互いにとって因縁浅からぬ存在と繋がる者同士、必然、暫し互いを注視した後、導満が「ほう」と溜息のような声を漏らした。
「……あやつに息子がおったとはのう」
 呟くように漏らし、導満が希一へ向けて一瞬投げた視線は、憎悪ではなく、どこか懐かしむような目線だった。希一の中に、かつての清明の姿でも見たのかもしれないが、それにしては敵意が無い。違和感に眉を寄せた希一は、一瞬して、その目を大きく見開いた。
「……、あ」
 希一が何事かを口に出そうとしたのを遮るように「それならそれで、構いはせぬよ」と導満は寧ろ笑うような声で言った。
「若気の至りとは言え、互いに術を交えた相手……最期に見えるも良しと思うたが、居らぬならそれも仕方無し」
 言って、
「あやつが戻り、悔しがるを思うも、一興……あやつの息子を、倒しての」
 語気に、僅かに好戦的な色を滲ませる導満に「それでは駄目だ」と真也はめげずに首を振った。
「それで、何を残せる? 何を示せる? ……俺には、あらゆる世界で、その強さを証明するための手段がある」
 そう言って語ったのは、特異者と言う存在のこと、そして異世界と、それを渡る手段のことだ。自分がその力を継承し、世界を渡っていけば、あらゆる世界にその存在も強さも示し、残すことが出来る――そう言ったが、山道での千尋とのやりとりでもそうであったように、導満も、この世界の大多数の者達と同じく、異世界というものを認識することは出来ないようで、世界を大和の外であると思ったのか、「鬼の世では、それも意味のないことだ」と首を振った。
「ふふ……しかし、面白い話であった。主にそれが出来るというなら、せめて奪い取ってみるが良かろう」

 その言葉と共に、圧力を増した気配に真也が構えを取ると、ついに導満も攻勢へと転じたのだった。


「わたしたちが後方支援するから、希一くんは攻撃に集中してね!」

 それぞれの思惑がぶつかり合う中、猫宮 織羽リルテ・リリィ・レリッサは、仲間達の攻撃から漏れた式神や、導満の放つ術から、希一が攻撃に移るまでの間を守るようにして戦っているところだった。だが、肝心の希一は、先ほどからどうもその表情が優れない。
「……、希一くん?」
 呼びかけてみたが、返答もそぞろだ。訝しんで、織羽が更に呼びかけようとした、その時だ。
「……しまっ!?」
 式神が一体、戦線を潜り抜けて希一に向かって襲い掛かってきたのだ。らしくなく集中が切れていたのか、希一の反応が間に合わない。あわや、と言うところで割り込んだのは、リルテの放った魔除けの札だ。バシッと目に見えない力が式神の攻撃を弾き、一旦その体が離れた所で、織羽が割り込んで起爆符をお見舞いし、事なきを得たが、危ない所だったのには違いない。
「希一様、気をつけて下さい」
「……ごめん」
 リルテの心配そうな様子に、希一は申し訳無さそうな顔で眉を寄せた。
「希一くん、どうしたの?」
 明らかに様子のおかしい希一に織羽が首を傾げると、希一は言い辛そうに口を開いた。
「……導満は、式神を使うたび、命を削っているみたいだ」
 その言葉に、百合が息を呑んだ。
「それじゃあ……」
 震える声に、希一は厳しい顔で頷く。
「鵺だけでも、相当負担だった筈だ。そこへ来て、今までの式神の数……もう、導満には、本当の意味で時間が、ないんだ」
 言葉を濁しても、意味は明白だ。百合の顔が蒼白に変わるのに、希一には他にかけられそうな言葉は思い浮かばない。振り切るように頭を振って、その目を真っ直ぐ、導満へと向き直った。迷いも、躊躇いも、時間があるものだけに許された特権だ。導満は既に、意を決し、行動に出ている。ならば、後は――……
「……闘うしかない。それしか、止める方法は無いよ」
「そんな……そんなの……っ」
 風花や百合が苦しげに、そして無念に頭を垂れた中、木魚達磨からそれを聞いて、真也はぎり、と唇を噛んだ。が、そこでぐずぐずしている時間も、導満には残されていないのだ。真也は首を振ると、構えを直して導満を正面から見つめた。

「なら……言葉の通り、その技も、意思も……奪い取ってやろうじゃないか」


First Prev  29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39  Next Last