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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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芦谷導満1


 小さな山寺だ。
 普段は、参拝しに来る者も殆どいないだろう、山道からにしても、古びて人気を失った寂しい寺だ。
 だが、踏み込んだ希一達は、その瞬間から漂う空気に圧されていた。

「よう来た……と言いたい所だが、のんびり立ち話をしに来たのではなかろう?」

 立っているのは、法衣を纏った一人の老人だ。小柄で、特に際立ってどうこう、と言うことは無い。だがその纏う空気は、かつて清明とその雌雄を争ったと言うだけのことはある。視覚も聴覚も失ったはずの目は、真っ直ぐに特異者達を見据えていた。
「どうした、突っ立っておるだけではどうにもならんぞ?」
 笑うような声がして、その手が軽く動くと、特異者達を取り囲むようにして、式神が姿を現した。どれも、山道で見た式神と同程度の強さがありそうだ。

「それなら、こちらから行くとしよう」
 
 その一声を合図に、戦いの火蓋は切って落とされた。

 
 まず飛び出したのは、叉沙羅儀 式たち、対式神組だ。抜き付け一閃、式の体は導満自身ではなく、彼を守る式神達の中へと飛び込んだ。激突は双方痛み分けとなり、互いの肩から血が吹いた。だが、それで怯むことなく、式は踏み留まると、式神の攻撃が来る前に二撃目。鞘を後方へと突き出し、背後から接近してきた式神を突き上げて牽制すると、そのままくるりと鞘を翻して、抜き放った太刀が正面の式神の足を裂いた。
「まぁだ、まだ……!」
 そうやって、正面から突っ込み、派手に立ち回っているのは、倒すため、と言うより、陣形を攪乱し、注意を自身に引きつけるためだ。その間に、寺の中に罠が仕掛けられていないかを確かめた立花 衣更が「式殿」と声を上げた。
「寺の中には、罠は無いようだ。遠慮はいらない」
 思い切りやると良い、と言外に告げる衣更の言葉に式が頷いた、その時だ。導満を取り囲んでいた式神の一体が、寺内を動き回っていた衣更の動きを、奇襲をねらったものとでも思ったのか、突然襲いかかってきたのだ。
「……っ!」
 衣更は身構えたが、遅い。ガギンっ、と鈍い音が響きーーやって来ない衝撃に目をあけた衣更の前へ飛び込んでいたのは、如月 晃の太刀だ。ギャリリ、と鍔競る音と共に、式神が飛び離れると、レーグ・アージャーが更にその前へと出て、二撃目を妖術が弾いて逸らさせた。
「助かる」
「俺にできることは……これくらいだ」
 短いが、深い謝意のこもった言葉に、晃は僅かに表情を緩めると、すぐさま視線を戻し、レーグと共に式神達へと向き直った。目標は、式たちと同じく、導満の式神の排除。そして、仲間達を万全の状態で導満と対峙させることだ。
「行くぞ、レーグ」
「よし、行くか。晃。我が相棒、我が主よ」



 そんな彼らに、式神との激しい攻防の繰り広げられる前線を任せ、後方から戦況をじっと見つめ、衣更は「式殿、皆も、全てを倒す必要はない」と一同に声をかけた。
「いかに導満と言えど、操れる式は既にここが限界に近い筈。ならば、倒すより動きを封じる方が得策」
 たとえそれが叶わなくとも、式神は召還のタイミングこそが最も力を消費するのだ。一体一体を確実に倒していくことで、手数を減らせれば良し、新たに式神を使役するにしても、導満の力を着実に削っていくことが出来るはずだ。
「……それならー」
 衣更の言葉に、小さく口を開いたのは黄牛 瞳だ。
「あの中のどれかがー、知覚を補ってるはずー」
 倒すにしろ封じるにしろ、狙うのならば導満の能力的な部分を優先的に削っておくべきだ、と言うのに、一同が頷くと、瞳はその目で周囲にぐるりと見渡した。視覚も聴覚も失った人間にとって、それを補助するものを失うということは、世界との隔絶にも近い。となれば必然、わざわざそれを危険にさらそうとは考えないはずだ。
 果たして、瞳の想像通り、式神たちの中で最も外周に位置する式神が、これだけの激戦でまるで前線へと動こうとしていないのを発見した。あれだ、と瞳が目配せするのに、一同は、式神と導満がその行動を察するより前に、一斉に動き出した。
「全く……個人的な都合で、災害級の事件を起こされちゃ迷惑よ!」
 憤りと共に、まず伸びたのは、桜井 ななみの腕だった。言葉通り、伸ばされた触手の先に、狙われた式神は直ぐに退こうとしたが、そもそも外周に位置していたのが仇になった。晃、レーグが飛び出し、更にその退路を断つと、神無月 司が起爆符で追い討ちをかけ、畳み掛けるように瞳の薙ぎ払いが式神を襲った。
「逃がさないわ、よ!」
 そこへ、更にななみの触手が伸び、貼り付けられた起爆符が、どんっと弾けて、その足を折らせた。
「…………!」
 そのタイミングを過たず、動いたのはシア・クロイツだ。衣更の合図と同時に、式神に向かって妖縛符を放った。度重なるダメージを受けた式神は、それに抗えずに動きを止め、がくりと更にその膝を床へ突く。
「……今の、うちです……」
 シアの声に、応えたのは司だ。動けなくなっている式神を、更に念を押して同じく妖縛符で抑えると、司はふう、と息をついた。
「出来れば、このまま抑えていられればいいのですが……」
 口には出したものの、それが難しいことは判っていた。感覚の一部である式神を、いつまでも抑えられたままにしておくはずもないからだ。それでも、式神を縛っておける、という事実は、一同の士気を上げるには十分だった。

「次……っ」

 その意気のまま、成功の感慨に浸る間もなく、晃たちは次の式神に狙いを定めて飛び出したのだった。




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