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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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山寺へ向かえ!5 


 山道への侵攻開始から暫く。山から見下ろせる京の戦いも、佳境であるのが見て取れる時刻。
 それぞれが、それぞれの目的の元で、道中は順調……のように見えていた。
 が、それを支えていたのは、先陣を行く悠人やマーヴェル、そして罠を排除して回る勲や、希一、春緒を守る快人たちだけの力ではなかった。激しい前線での攻撃の一方で、その最後方でもまた、戦いは行われていたのである。

「やっぱり、お出ましになったわね」
 ユーディット・シュヴァルツの言葉に、そうだな、と答えながら飛び出したのは八神 流司だ。
 希一や春緒の合流した本隊が、侵攻を開始してから暫く。間をあけ、距離をあけながら山道を進んできた流司達が、警戒していたのはこの状況――通り過ぎた一行を、後ろから挟撃しようとする式神の存在だ。ある程度知能があるならそうするだろう、と睨んだとおり、一行が通り過ぎるのをわざと素通りさせた式神たちが、殿が視線を逸らした隙に飛び出してきたのだ。
 そこへ――
「ふわーーはっはぁぁぁぁぁぁぁぁ! 拙僧が御仏の教えを説いてしんぜよう!」
 腹の底から響くような声で、中津 浄源が式神たちへと突撃した。尚、余談では有るが、浄源における御仏の教え=物理である。
 動の呼吸からの飛天蹴で飛び込んだ勢いそのままに、浄源が式神たちに当身を食らわせると、奇襲をするつもりが逆に奇襲されて、混乱の極みとなった集団の中に、その混乱に乗じて、流司は虎走りで一気に距離を詰めると、浄源が更に芯崩しでバランスを崩させた所へ、容赦なく斬り込んだ。
「――遅い」
 当然、式神たちも直ぐに流司を倒そうとしたが、力任せの一撃は受け流され、反転と同時に柄を背後から襲い掛かる一体の顎へとぶち当てると、そのまま抜き払った一撃が前方の式神を斬ると、二体の攻撃が振り下ろされたころには、流司の体はすり抜けて、式神同士の同士討ちの格好となった。そこへ、更に追撃をかけたのはユーデットだ。
「お出でなさい、ユーディットちゃん自慢の式神ちゃん、可愛い可愛い兔ちゃん♪」
 流司が飛び込んだタイミングで、式神を解き放っていたのだ。呼び出された首狩り兔が、殺気だった目で式神たちへ向かっていく。
「兔を甘く見たら、首と胴体が離婚しちゃうって事を教えてあげなさい♪」
 そうして、自身の式神と流司達が戦っている間、式神たちの気がそちらに削がれたと見るや、ユーディットは起爆符や氷結符で追撃する。そこへ、更に浄源の拳が降りかかるのだから、式神のほうはたまったものではなかっただろう。
「我が悟りに一片の曇りなし!」
 式神たちの断末魔の間で、浄源のやけに爽やかな声が響いたのだった。
 

 そうして、流司達の攻撃のおかげで、挟撃は阻まれたものの、式神の攻撃が止んだわけではない。
 寺が近くなるにつれて、式神の数も質も上がってきているように思われた。
「やはり、易々と通してはくれないか」
 信道 正義が呟くと、これまでの道程で先陣を切ってきた偲達の前へ出ると「交代だ」と剣を抜いた。
「ここは引き受ける。式神がこっちに集中していれば、隙間も出来るはずだ」
 だから、希一達を頼むぞ、と仲間達に告げると、空中から周囲を伺っていたカイル・アークライトも降りてくると「寺まではあと少しだ」と希一の肩を叩いた。
「ここまで体力温存してきたんだ。ここでそれを台無しにさせるわけにはいかないだろ」
 だが、と言いかけた希一に、ミルドレッド・リンドバーグが希一や仲間達の経穴を押して回復を試みた。元々ここまで怪我人は少なく済んできてはいるが、用心に越したことは無い。まだどこか躊躇っている様子の希一に、正義がその背中を明るく叩いた。
「構わず先に行け、ってな……おいしい所は任せたぜ?」
「ここは俺たちに任せろ。これは多分、お前がつけるべきけじめだ」
 カイルもまた希一に言葉をかけたが、それにはミルドレッドも浅見 朱鷺子も呆れ顔だ。
「バカイル、それ死亡フラグ!」
 ミルドレッドが端的にその呆れを口にしたが、行動自体は責めるつもりは無いようだ。気を取り直すように息をついた朱鷺子は、春緒の手をとってその手に破魔の札を握らせた。
「大丈夫……境内から寺までは『罠はありません』……導満さんと、必ず相対できるでしょう」
 神懸りの神託を受け取った朱鷺子の言葉に、春緒は目を瞬かせた。
「後のことは、お任せください」
 その微笑みに、春緒は頷くと、希一や特異者たちと共に駆け出した。
 そして、それを遮ろうとする式神たちの前に、正義たちが立ち塞がる。朱鷺子の神楽舞が彼らの周囲に清浄な空気を生み出す中で、カイルは札を取り出して、正義と共に不敵に笑って見せた。

「ここは通さないぜ……」
「死ぬわけにはいかないが……通すわけにも行かないな!」



 そうして、正義たちが式神たちを相手に奮闘している間。
 薄くなった戦線を、希一たちが突き抜けて、先を急いでいるその横を、マイペースに、ゴーイングマイウェイに。希一達を追い抜かさんばかりの勢い(いや、実際途中から追い抜いていた)で、全力で駆け抜けていくのは、アベル・アウディ霞 銀牙だ。
「負けねェぜ、アベの字ィ!」
「さっさと諦めろ、クソ銀牙め……!」
 互いに罵り合いながら、何故彼らが走っているのかというと、銀牙がアベルに「どっちが先に導満の元へ辿り付くか」と勝負を持ちかけられたのだ。そんな場合ではない、とは判っていつつも、何かと突っ掛かってくる銀牙に対して、ここで白黒付けるのも悪くない、という考えが、アベルの心によぎったのだ。結果。
「妙な道具使ってんじゃねェ、反則だろうがァ……!」
「あんたこそ、式神の盾に使ってるだろ!」
 スピードにあかせて罠を振り切るアベルに、式神の対応を丸投げする銀牙の戦況は五分五分だった。相手に負けたくない一心で全力疾走中の二人は、体力の温存も何も、念頭に無いようだ。どういうことかと言うと。
「……た、勝った……ぞ?」
「ち……くしょ」
 辛うじて、境内へ一歩を先に踏み込んだアベルは正面からばったりと、そして焦った銀牙は足がもつれて地面に膝が崩れた。要するに、目的を完全に見失ってしまっているといって良かったが、結果オーライ、誰より早く到着することには成功した。戦力的には、明らかに枠外になっているであったが。

「なんとも、賑やかなことだ」

 そんな慌しい来訪者の前へ、静かに声が響いた。
 追いついてきた希一達は、山中にひっそりと佇む、古びた山寺とはとても思えない、重く深い空気に軽く息を呑んだ。
 芦谷導満。
 まだ姿も見えない内からのその存在感に、春緒は朱鷺子から渡された札を、思わずぎゅっと握り締めた。
 その背中を軽く叩き、希一は仲間達に頷きながら、山寺へと足を踏み入れた。

「ようやく、ご対面……だね」


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