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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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山寺へ向かえ!3


 山寺までの侵攻を開始してから暫く。
 そうして先陣を切る者達が、罠を壊し、あるいは潜り抜けて戦端を切り開いている間、一行の中程では地道な防衛線が繰り広げられていた。
 道満の使役する式神たちには、それぞれ思考能力があるのだ。全てが馬鹿正直に真正面から襲い掛かってくるはずも無い。横腹を突く形で、潜んでいた式神たちが飛び出してきたのである。それは丁度、式神・大鳳から飛び降り、一行と合流した瑞野 春緒鴨 希一がいる場所だ。
「……!」
 先頭を行っていた者達が振り返り、春緒も一瞬身構えたが、それより早く飛び出した影がある。音羽 或斗と、ノエル・クレシェンド、そして式神の接近を感知していた水瀬 玲華シルヴァーナ・テニエルだ。
「……ッ、う」
 春緒の盾になるべく前へ出た或斗が、咄嗟に武器でなんとか式神の攻撃を受け止めたが、攻撃が重い。吹き飛ばされずにいるのがやっとと言う様子の或斗の背中をノエルがぐっと肩で支え、何とか弾き返すと、その間に、シルヴァーナが入れ替わりに前へ出ると、強靭な体を盾に二撃目を堪えると、出来た隙をつきて、芯崩しによるフェイントを仕掛ける。知能が仇になって、フェイントにかかって式神がバランスを崩したところで、狙い澄ませたように玲華が召喚した炎が式神を包み込んだ。そこへ、更に或斗の抜き付けが追い討ちをかけ、流石に不利と察したようで式神が距離を取ると、はぁ、とノエルは息をついた。
「無理はしないでください。春緒さんも」
「はい……すいません」
 或斗が頷く隣で、春緒が申し訳無さそうに頭を下げるのに、謝らないでください、とノエルはふるふると首を振った。
「或斗さんも、春緒さんも、かけがえの無い存在なんです」
 その言葉に目を瞬かせる春緒に、玲華が頷いて続ける。
「悲壮な決意は駄目ですよ。笑顔でなくなってしまいますから」
「笑顔が……一番。わたしも笑顔……勉強中……」
 春緒は一度、自分が生きて帰れないかもしれない、という迷いから一人命がけの決意を抱いたことがあるのだ。それを咎めるのではなく、励ますようにかけられる、玲華とシルヴァーナのやさしい言葉が春緒の背中を叩く。
「自分とシルヴィが必ず守りますから」
「皆で一緒に、無事で帰れるように頑張りましょう!」
 玲華と或斗の言葉に、春緒は「はい」と力強く頷き、その顔を綻ばせたのだった。

 一方で、同じく一行の中程。
 逆サイドにあたる希一達の方も、式神の襲撃にあっていた。

「鵺を使役してんの、芦谷導満って陰陽師かい?」
 散発的に現れては行く手を阻んでくる式神と戦いながら、その一体一体が簡単に倒すことの出来ないような強力な相手であることに対して、吹原 隆也が口を開いた。式神の強さはそのまま、術者の力の強さでもある。
「阿倍清明と対立……ライバルだった奴なんだろ?」
 京一番の陰陽師であった清明。そのライバルと言うに恥じない、カマイタチや餓鬼のような妖魔をこれだけ一度に操れるような術者だ。道中、あるいは山寺で何をしてくることか。油断ならないな、と呟く隆也に、希一は微妙な顔をしながら頷いた。
「そう言われてるけどね。実際には……あんまり良く知らないんだよ」
 その言葉に、篠原 ぱせるが意外そうに「そうなの?」と首を傾げた。
「希一にーちゃんのとーちゃんの、ライバルだったんでしょ?」
 その言葉に「そうなんだけどね」と希一は複雑な顔をした。
「憎しみあってた、ってわけじゃないみたいなんだよ。凄腕の陰陽師だった、とは聞いているけど」
「それでは何故対立した?」
 隆也のもっともな疑問に、少し考えるように首を捻って「何て言うんだろうね」と言葉を探しながら続ける。
「陰陽道を究めた者同士……どちらが優れてるか、って意識せずにはいられなかったんじゃないかな」
 勝手な想像だけどね、と苦笑する希一の横顔には、導満への敵意は余り感じられない。それどころか、今も尚、導満の見せる実力の高さに、僅かに畏敬の念を抱いているようでもあって、隆也はふむ、と目を細めた。
「なら尚のこと……何故こんなことをしたのか、判らんな」
「はてさて、彼の人は何を思っているのでしょうなあ?」
 神札や玉串で式神と戦うもの達をサポートしながら、そう呟いたのは柚原 詩佳だ。
「直接訊いてみれば或いは……理解は、可能でしょうかな?」
 それとも、我に判る筈も無いですかな、と詩佳が続け、徹二もどうだろうか、と微妙な顔だ。
「試してみるしかないんじゃないか?」
 徹二と揃って首を傾げる二人に、そう言ったのは風見鶏 快人だ。
「希一にーちゃんなら、導満も話を聞いてくれると思うんだ」
 ぱせるもそう言って、希一を見やった。
「導満がどういう理由でこんなことしてるかわからないけど……これだけの術者が味方になってくれたら、心強いよ」
「味方……それって、説得してくれっていうことかい?」
 希一が首を傾げると、ぱせるは「勿論、素直に聞いてくれるとは思ってないよ」と続けた。
「だけど、希一にーちゃんなら……希一にーちゃんが戦って勝てたら……」
 もしかしたら、負けを認めて、素直に言葉を聞いてくれるかもしれない。最悪でも、鵺を止めてくれるかもしれない。希一は考えるように眉を寄せたが、そんな背中を、快人が「ま、鵺の方は仲間が何とかしてくれるさ」とぽんぽん、と叩いた。
「そっちは気負わなくていい。キミは、導満の方に集中してくれ」
「うん」
 希一が頷くのを見て、快人は少し笑って「よし」とパートナーの各務 鈴音の肩を叩いた。
「それじゃ、この場は俺達に任せてもらおうか」
「ふっふっふー♪ カイト兄ちゃんのサポートは鈴にお任せあれだよー☆」
 快人に肩を叩かれ、ご機嫌な様子の鈴音が、張り切りを示すように腕まくりの仕草をして見せ、はた、と目を瞬かせた。
「……で、鈴は何をすればいいの?」
 無邪気に首を傾げるのに、快人たちの表情が一瞬和む。ぽん、とその頭をなでて、希一は快人達に真剣な表情を向けた。
「わかった。導満までの道のりは……お願いするよ」
 頼む、と意思を受け取って、一同は勿論、と言う言葉の代わりに視線を周囲へと向けた。
「カイト兄ちゃん! 右!」
 まさにそのタイミングで、鈴音が声を上げ、瞬間快人の体は動いていた。静の呼吸で高めた集中力をフルに発揮し、飛び込んできた式神の脇へ、強烈な当身を叩き込む。そこへ、詩佳の神札が追い討ちをかけて、式神の体が地面に転がった。
「さて……俺達の力、式神にどこまで通用するか、試させてもらうぞ!」

 快人の不敵な声が、一行の士気を高めるのだった。


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