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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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山寺へ向かえ!1


 京の郊外、北部に位置する山寺に続く、山道。
 鵺との戦いが行われていたのと丁度同じ頃、普段は閑静なその道は、今は騒々しさに満ちていた。
 特異者たちが、京で暴れている鵺を使役する術者のもとへ向かおうとしていたためだ。

 元々、参拝者も少ないためだろう、狭い山道の中、先陣を切るのは風峰 悠人だ。
 アルフレッド・アーヴィングアリシア・シャムロックを連れて先行することで、少しでも他の仲間たち――特に、その先で待つ鵺の術者を倒そうとする面々の体力を温存させ、消耗を少しでも軽減させようと思ってのことだ。
「こんな所で潰されるわけにはいかないからね」
 同じように考える仲間たちがそれぞれ前を行き、山寺への道を少しでも早くと急ぐ悠人達だったが、当然、ただ手をこまねいて山寺まで来るのを待つような相手ではなかった。
 道を進み始めて直ぐに、特異者たちの前へと式神達が立ち塞がったのだ。
 
「流石に、そう簡単に到着させてはくれないわね」
 予想通りの展開に、マーヴェル・オールドベルが息をついた。
「あたし達は露払いと行きましょうか、アンサラー?」
「やれやれ」
 マーヴェルの言葉に、アンサラー・ホームズは息をつき、肩を竦めた。
「キミと出会ってからゆっくりと本を読む時間が減ってきてた気がするよ、マーヴェル」
 そうは言いつつも、アンサラーの表情は既に切り替わって、油断無い目が戦場を見ながら、構えを取ってマーヴェルの前へ出た。元は餓鬼だろうか、人に近い形をした式神が飛び掛ってくる中、盾の様に庇うアンサラーの後ろで、九字を切ってマーヴェルは集中力を高めていく。
「爆!」
 合図一声、弾けた起爆符が、式神の顔面に直撃する。怯んだように後ろへ下がった所でアンサラーとマーヴェルの呼吸の合った攻撃が続いていく。続けて襲い掛かってくる式神たちは、その連携の前に強硬な突撃は難しいと判断したのか、今度はやや距離を取って間合いを計り始めたが、そんな二人の連携に負けず劣らずの連携を見せて、式神達を屠ったのは、ガニュメデス・ホーリー草薙 楓アルスレーテ・フュラーとそのパートナー達だ。
「下がったって、無駄だよっ!」
 楓の弓から放たれた矢は、下がった式神を正確に狙い射っていき、アルスレーテの矢もそれに続く。続けざま矢を受けて、先に倒すべきは彼女等だと判断したのか、もとはかまいたちだと思われる式神が、速度にあかせて一気に接近を試みたが、それを、楓の間に割り込む形で飛び込み、その太刀の鞘で受け止めたのは、ガニュメデスだ。
「楓さんは、やらせませんよ……!」
 言うが否や、抜き付け一閃、式神を怯ませた所で、猫又ラース・フュラーも続けて前線へと躍り出た。カマイタチの攻撃を、ラースが不動剣で受け止めている間、猫又がその爪で肉を引き裂き、ガニュメデスの太刀がそれに続く。そうして守られて、集中力を保たれた、神懸りによって力を受ける楓とアルスレーテの弓は、次々に接近前の式神達を屠っていった。短時間しか力を保って入られないが、先を切り開くことが出来れば十分だ。
「足止めなんて、させないよ! 行こう、皆っ!」

 楓の声に励まされるように、道案内の八咫烏よろしく、ガニュメデスやアルスレーテたちが山道を真っ直ぐ切り開いていくのに、当然式神たちも抵抗し、知能のある故にあの手、この手と陣形を変えて何とか対抗しようとして来たが、それを裏手にとる形で式神と相対していたのは、瑞浪 しずだ。
 長物である薙刀を構える姿に、リーチ差を意識してか、式神がしずの懐へと飛び込んだが、まさにそれを狙って、しずはその顔面へとストロングフィストでの一撃をお見舞いした。予想外の攻撃に出来た隙へと、続けて目潰しをかけられた式神は、たまらず後ろへ下がったが、それを見越したかのように宇佐浪 ハレの手裏剣が式神を襲う。
「女たるもの、遠くからネチネチやるのが最高だピョン」
 なかなかに黒い発言のハレだが、しずも負けてはいない。続けざまの攻撃を受けて体制の整わない所へ、他の式神も巻き添えにする形で、虎走りで飛び込んだしずの拳が炸裂した。
「ちょっと思考能力があったからって、人間のずるっこさには敵わないのよ」
 言いながら、攻撃の決まったのと同時、退がったしずと交代する形で、式神たちの懐へと飛び込んだのは盛 真だ。こちらもまた、式神の持つ思考能力を逆手に取る形で、大和には無いアルテラの剣技を駆使することで、一瞬だが式神の意表を突くことに成功すると、そのまま体の小ささを生かして、式神の死角に回る形で、ライジングブレイドの一撃をその顎下から斬り上げた。そうして浮いたところへ、二撃、三撃、と立ち回り、粗方その体力を削ったと思われるタイミングで、式神を襲ったのは仮面をつけ、陰陽師風の装いをした古城 偲の三尺手拭だ。まだ暴れる式神を捕縛するには力が足りないが、身動きを一瞬封じる程度のことは出来る。
「この式神を通じて、声って聞こえるのかな」
「判らないが、可能性は強い……」
 真が答えると、地面に縫いとめた式神へと苦無を振舞いながら、その先にいるだろう術者――導満へ向けて、仮面の下で僅かに目を細めながら、偲は挑戦的に口を開いた。

「初めまして! 今から皆で会いに行くよ!」


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