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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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避難、開始


「まったく……どうしてこう荒事が多いのかしら……」

 やれやれ、といった風情で呟いた佐倉 御月の表情は、その顔を覆う狐の面で定かではない。
 村人の間には、徐々に不安が広がっている。このままでは、混乱・恐慌状態になるのも時間の問題だろう。そうなれば、避難どころの話ではない。
 そして、そうなった場合、他の特異者と違って戦う術をもたない御月は無事ではすまないだろう。

「皆さん、このあたりは物騒になるから、京の見物にでも行きましょう」

 口元を優雅な笑みに形にして、穏やかに語りかける。
 無用な混乱を避けるために、あえて具体的なことは口にしなかった。
 村人たちも具体的な恐怖を口にするのが恐ろしいのか、御月の言葉に各々同意して移動の準備を始める。

 御月は、異様な空を見上げる。

「あとは頼んだわよ、英雄さんたち」





「大丈夫ですから、足を止めず、前へ進んでください!」
「列は乱さず、足並みを揃えて落ち着いて行きましょう!」

 纏まって移動するために、列を編成する遥川 羽純。不安げな子供たちに優しく微笑みかけながら声をかけているのはプリムローズ・ロセウス
 南と北に現れた強大な妖魔の影響で周囲の気が乱れ、妖が出現したという報せを受けて、京近郊の村人を京に避難させるべく、声をかけていた。
 状況の分からない村人たちに、一つずつ丁寧に状況を教えれば、最初こそ軽いパニックになったものの、すぐに沈静化して彼らの指示に従って行動を始めた。

「沙羅、妖魔の様子はどう?」
「まだ近くには来ていないわ。大丈夫よ」

 列の編成を手伝っていた天王寺 澪の問いに、『神託』を受けた美那櫛 沙羅は周囲を安心させるように微笑む。
 妖魔への対処に向かった仲間がうまくやっているのだろう、今のところ北と南の妖魔に大きな動きは見られなかった。
 しかし、楽観視はしていられない。いつ何時、この村が妖魔の気に中てられた妖に襲われるか分からないのだ。
 今は遠い雷や暴風が、いつここまでやってくるかもわからない。そうなる前に、京へ避難をさせなければ、と四人は強く決意していた。
 
 程なくして避難列の編成が終わり、四人はそれぞれ列の前後左右に立つ。

「大丈夫だよ、キミたちには絶対手は出させないから!」
 
 殿を務めるのは澪。いつでも太刀を抜けるように構えつつ笑えば、村人たちの不安が薄れていく。

「俺たちが盾となって守ります。必ず」
「羽純くん、無茶はしないでね。私だって、守れるんだから!」

 左右を守るのは羽純とプリムローズ。避難列の編成の様子から、こうした救助に慣れているのだろうことが伺えた。

「私について来て下さいね。必ず皆さんを京までお送りしますので」

 先頭に立つのは沙羅。出来るだけ安全そうな道を選びながら、『神託』で妖魔の動きを予見する役割だ。
 四人に守られつつ、村人たちは村を出発した。





 京へと至る街道。
 妖魔の影響で日が差さず、夜かと勘違いしそうなくらいに暗い。
 そんな道を、一つの明かりが照らしていた。

 妖の光『発光』で生み出した明かりを手に進むのは美園 ぴんく
 京の近くに点在する村、その中でもひときわ小規模な村の人たちを率いて、京を目指していた。
 村人たちを護衛するのは二人。
 美山 れっど美原 ぐりーんだ。
 れっどは避難列の外へ、ぐりーんは避難列の内へと意識を向けている。

「ほら、しっかりしろ。目的地はもうすぐだ」
「は、はい……」

 ぐりーんの声に、体調が悪いという女性は荷車の上で弱々しく頷いた。彼女の夫だという男性は、時折不安そうに女性を振り返りながら、ぴんくに励まされて懸命に荷車を引いている。

 村から京までの道のりは、たいした距離ではないはずなのだが、大人数であることと暗い空のせいで何倍もの距離に感じてしまう。
 村人は一様に不安そうだが、その不安を口にすれば現実になりそうで、ただ黙々とぴんくの光についていくほかなかった。

「皆、京が見えてきたよ!」

 後どのくらいだろう、と思った頃に響いたぴんくの声に、俯きがちに歩いていた村人たちは顔を上げた。
 ぴんくの手の光の向こう、道の先には京の入り口を守る門が見える。
 村人たちの表情が、緩やかに喜びへと変化する。

「何事もなくたどり着けそうでよかったな、れっど」
「ああ、そうだな」

 れっどは、護衛といいながらもうっかり丸腰で来てしまった自身に対し、自嘲気味に笑う。
 対するぐりーんも丸腰だが、体術を戦闘の主とするぐりーんは文字通り身一つあれば戦える。
 
 ともあれ、一行は道中特に何事もなく無事に京へとたどり着いたのだった。


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