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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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想いの力


~京北部・鵺付近~

 次々現れる土の刃の対処に特異者が追われる頃。
 結界の中で鵺は往生際悪く放電し、結界の破壊を試みていた。
「ったく。じたばたしやがって。まあ今にできなくしてやるがな。合わせろ、ブリキ野郎」
「合わせるのはお前の方だ、青二才」
 二人は喧嘩とも取れる言葉を交わし、鵺に接近する。口とは違い、二人の身体の動きは合っていた。
 お互いにいろいろ思う所はあるのだろうが、今はただ共通の目的の為に息を合わせる。
 ウィル・O・ウィスプは持っていた万力鎖の先を鵺の右足に投げた。足に絡み付いたのを確認して忍び刀を投げその身に縫い付ける。
 もう一方の万力鎖の先は鎹を用いて地面へと縫い付けた。
「終わったな、鵺。これでお得意の雷撃はもう使えねえ」
 ウィルとほぼ同時にランバー・ジャックは流星錘を鵺の左足に投げ同じように鵺の足に絡み付かせた。
「流星錘を地面と鵺の体に、バタフライナイフで……いや」
 自らの手と足で流星錘の一方を地面に縫い止めるジャック。
「おい、ブリキ野郎。頭でも打ったのか? そんなことしたらお前が……」
「黙れ、青二才。俺の手、俺の足ならば幾らでもこやつにくれて構わん。その代わり。命だけは貰い受けよう。俺が……ではなく。俺達が……だ」
 鵺が再び雷撃を放つと、その雷撃は鵺の身体から発生せず万力鎖と流星錘を伝って地面へと流れた。
 ジャックの身体を貫く様な雷撃が襲う。彼女はただそれに耐え続ける。
「ぐ……うぅ、長くは持たん……一撃で決めろ……」

~京北部・鵺前方~

 鵺の雷撃が封じられるのを蒼峰 彗は土の刃の対処をしながら確認する。
「よし、雷撃が封じられたか……そろそろ頃合いだな」
 彼の後ろには土で作られた大きな壁があった。その後ろには台の様な物が鎮座している。
 彼の役目はその台の上にいる者を守る事。例え自分の身に変えても。
 蒼雨【水遊】を振るい、蒼い軌跡を残しながら彼は襲いくる土の刃を斬り裂いていく。
 長く耐え続けているせいか、その身に受けた傷は少なくはなかった。
 その隣で蒼峰の動きをフォローするように動き、青龍【朧月】で土の刃を叩き落とすのは伊達 柚子
「私はただ相棒を信じます。それだけです。故にここから先には進ませません」
 薙ぎ払う様に振られた青龍【朧月】は多くの土の刃を一度に切り伏せる。
 地面を踏み締め、柚子は返す刃で更に攻撃を加えていく。
 土の刃はかなりの数が襲いかかってきたはずだが、二人の背後に一体たりとも通されることはなかった。

 台の上では邪神 水希が精神を集中していた。神懸りで彼女はその身に神を降ろし、その力をある者に譲渡しようとしているのである。
 その行動には強い精神力と集中力が必要であった。身体への負担ももちろん大きい。長時間は保てない、そんな強力なものである。その為か傍にいる村巫女が心配そうに水希を眺めていた。
「ん……行け、ルナ」
 彼女は力を制御し、隣で破魔矢を構えるルナ・セルディアにその力を注いでいく。
 柔らかな風が水希から送られ、ルナを包み込んだ。その身に神の加護を与えていく。
(これなら……行けるッ!)
「この先の……京にあなたを行かせるわけにはいかないっ! ここで滅んでもら――」
 そこまでいった時点で鵺の様子が変わった。雷撃を封じていた鎖が地面から抜けるのが見える。鵺は結界の中で黒い霧状の獣へと変貌すると何か光球の様な物を結界に向かって放った。
 結界に球状の穴が開きそれは一直線に向かってくる。
 それは高濃度に圧縮されたプラズマ球だった。稲妻を纏ったそれは地面を裂き、土煙を上げながら速度を上げてルナ達のいる台座に突っ込んだ。
「きゃああああああああああッ!!」
 凄まじい衝撃を受け、ルナは意識を失った。

 全身の痛みを感じ、ルナが起き上がるとそこに台座はなかった。周囲には他の特異者達が倒れ込んでいる。
(私が……私がやらないと……ぐっ)
 立ち上がろうとするが痛みで身体はうまく動かない。辛うじて弓を支えに立ち上がると鵺が見えた。
 まだ結界の中にいるようだが、穴を広げ脱出しようとしているようだった。
 その鵺に単身立ち向かう者がいた。エリル・フレアである。
「この身。刃ならずとも」
 鵺に一太刀浴びせる。鵺の身体に流れる雷でダメージを受けるが彼は気にしない。
(私の力は。エリルさんの。為に……。)
 神懸りを行い、地に膝着く紅花 霞憐が祈る。その祈りはエリルへと何者にも負けないような力を与えていた。
 彼女の顔には汗がにじむが、彼女はその祈りの負荷に耐える。ただ彼の為に。
「そこに呼ぶ声、有る限り」
 さらに一太刀浴びせ、エリルは鵺の結界からの脱出を阻む。
「覚えておけ。一人では為し得ぬ事も。 意志と刃を束ねれば、天をも徹すと言う事を教えてやろう。これが、人の力だと」

 その様子を見ていた周囲の特異者達は再び戦う気力を取り戻し始める。
 彼らは思いを託す。最後の一撃の為に。

 ルナの身体に不思議と力が満ちてくる。それは先程とは比べ物にならないほど多くの力だった。
「これは……神懸りの……いや。違う。ここにいるみんなの想い……」
 痛む体に鞭打って彼女は立ち上がる。その視線の先には鵺。
 ルナは弓を引く。この場にいる全ての者の想いを受けて。
 白い光輝く矢が形成され、その先は鵺を狙った。
 傍にいたソフィア・ルーセントが鵺を転がったままの状態で解析する。彼女も台座の近くにいたからか傷は軽くなかった。
「ん、解析開始」
 彼女の瞳が鵺を観察する。動き、癖、弱点。様々な情報が彼女の頭の中を行き交う。
(欲しい情報はこれじゃない……もっと……もっと大事な)
 ついに彼女は突き止める。鵺の大事な部分。核ともいえる心臓を。
 ソフィアからその位置を聞き、へクセ・ジクムントはルナにそれを伝えた。
「弱点は、頭のすぐ下……首の位置から真っ直ぐ奥にある心臓だッ! 迷いなくそれを撃ち抜けッ!」
 言い終ると力尽きたのか彼はその場に倒れ込む。
「ふふ……後は任せた、ぞ……」
 その顔は満足そうに笑っていた。
 ルナはそれを聞いて狙いを付ける。鵺の心臓に。
「鵺……思い知れ……人の想いという力を!」
 ルナは放つ。想いの乗った白い矢を。矢は鵺に向かった真っ直ぐ飛び、光の軌跡を描きながら戦場を横切って行く。
 多くの特異者がそれを見た。全員が祈る。届け。貫けと。
 白い矢は結界に空いた穴を通り深々と鵺を心臓を貫いた。断末魔の咆哮を上げ、鵺の身体が制止する。
 足元から黒い塵となって鵺の身体は消失していった。全てが消失する頃には空に広がっていた暗雲も晴れていた。
 検非違使の被害も軽くはなく、特異者達もかなりの傷を負ったものがほとんどだったが、ここに特異者達は辛くも鵺を討伐することに成功したのである。

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