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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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この一撃は後に続く者の為に


~京北部・後方~

 鵺と戦う者達の後方に幾人かの特異者の姿が見えた。
「怪我が重度の者からこちらへ! 優先して治療するっ」
 治療に専念しながら声のみで指示を飛ばすのはコトミヤ・フォーゼルランド
 彼は運び込まれてくる負傷した検非違使達や特異者達を治療術を駆使し手当をしていた。
 鵺による被害は大きく、ここはさながら野戦病院の様な様相を呈していた。
「和井さん、こちらの患者さんは軽度の為、あちら側へと誘導してあげて下さい」
「わかったよー、あっちだね」
 治療に専念し細かくは指示を飛ばせないコトミヤの代わりにリステュール・サンディライトが怪我人の移動の手配をしていた。
 怪我人が行き場を失くして困惑するような野戦病院ではありがちの状況には陥っていなかったのは彼女の手際の良さがあったからといえる。
 その彼女の指示に従いせっせと怪我人を誘導しているのは和井 久
 特徴的な髪形をしているがここでは言及しない方が彼の為であろう。
 目立つからか彼は怪我人の誘導役には最適といえる人物であった。
 後に考えればこの三人の働きによって検非違使達や特異者達の必要以上の被害を食い止められたとも言えるだろう。

~京北部~

 走る鵺の前に白い輝くような光が溢れる。流れる様に踊る遊佐 棗から清い光が放たれていた。
 それは舞と合わさってほのかな光から輝くような光へと変わり、鵺の動きに鈍さを与えた。
(皆さんが攻撃する隙さえできれば……ッ!)
 雷撃が遊佐の周囲に落ちるが、なるべく気にしない様に彼は舞い続けた。例え自分が倒れても、後の一撃に続くと信じて。
 光に一瞬怯んだ鵺の目の前に梓弓を構えたエンジュ・レーヴェンハイムアスター・ラウエンシュタインがいた。
 二人は呼吸を合わせ、矢を放つ瞬間を待っている。
 鵺は高らかに吼えると迸る稲妻を纏って二人へと突進。動きは鈍っているものの速いことに変わりはない。
「もうちっとじっとしていやがれぇ!」
 緋夜 朱零が氷結符を鵺目掛けて投擲する。符はアクアで生じた水を纏っており、鵺の雷撃はほぼ効果がなかった。
「特性の氷結符だっ! たっぷりと味わいな!」
 回転しながら飛ぶ氷結符は鵺の前足に命中。広がる様にその皮膚を氷結させる。動きづらくなった前足のせいで鵺の突進速度はがくんと落ちた。
 その隙を逃さず、エンジュとアスターは弓を放つ。
 手足、尻尾、頭、胴と動きの鈍った鵺の身に破魔矢が刺さっていく。それは古の神事、奉射神事に準えた方法であった。
 虎、蛇、猿、狸の順に浄化し、最後に天と地を浄化する。古はこれで鵺を撃退したという。大和の鵺に、通じるかは分からぬが。
 息を合わせ、同時にエンジュは空に、アスターは地に破魔矢を放った。
 直後、太い光の柱が生じ、鵺の身体を焼いた。苦しむように咆哮を上げる鵺。
 光から逃げる様に鵺は地を蹴って跳躍した。その動きに先程までのキレはない。完全な浄化とまではいかなかったが、どうやら弱体化させることには成功したようだ。

~京北部・丘の上~

「ふふ……古の神事、奉射神事と鵺。その写真が撮れるとは思っていませんでした」
 超高性能フィルムカメラを片手に嬉しそうな笑みを浮かべる少女霧ヶ谷 燐
 丘の上からカメラで先程の戦いの一部始終を写真に収めたようだ。
「戦闘には参加できませんが、自分達は自分達なりの戦いをするつもりなのですっ」
 戦いを記録に残す事。多くの者が命を賭けて戦ったという事実を伝える事。それが彼女達の戦いなのだから。
「鵺はこちらには向かってこないようだね。燐姉いい位置を取ったんじゃない?」
 周囲を警戒しつつ黒衣 有栖は燐の様子を気にかけている。
 ここから見る限り、鵺は遠くの方で戦闘しているらしく流れ弾すら飛んでくる様子はない。
 こちらに何も向かってきていない事に安堵しつつ、有栖はもう一人の取材者を見た。
 彼女は一心不乱にメモを取っており、周りの様子を気にしている風もなかった。現に爆発音などにも一切動揺することはないようだ。
 取材に没頭する者が二人もいると有栖の気苦労が相当なものであるという事が窺い知れた。三人分の安全をたった一人で確保しなければならないからである。
 メモを一心不乱に取るヴェルミーチェ・エンドールは懐をごそごそしている。
 さっとちくわを取り出すと口にくわえた。もちろんその動作の間も手は止まっていない。流れるようなちくわの食べ方であった。
 ちくわをはむはむしながら、彼女は時折「むーん」や「ぬ……間違えた」などぽつりと言葉を漏らしていた。
 高速で消費されるメモはもう数分もすればメモ帳一つ分ほど書ききってしまうようだ。
 取材班は身を隠しながら取材を続ける。伝えるという彼女達なりの戦いの為に。

~京北部~

 地を駆ける鵺と並走するRaven【G型スポーツタイプ】。アクセルを全開にしているが、追い越すことはできそうにない。
「ったく、なんて速さだ。並走するのがやっとだとはな」
 ハンドルを操作しながら、黒鳥 鴉は腰からBlackHawk【三連バレルマシンガン】を抜くと腕を台代わりにして安定させながら鵺に向かって発砲。
「ほら、こっち向けよッ!」
 銃撃を受けた鵺は明確な敵意と殺意を剥き出しにして鴉に襲いかかった。大地を踏みしめ、急ターンすると真っ直ぐに鴉へと向かってくる。
「かかった!」
 巧みな操作でじゃじゃ馬とも呼ばれるRaven【G型スポーツタイプ】を鵺と同じように急ターンさせると、ある方向に走らせる。
「逃げ足の速さだけが唯一の取り柄なんでな。追いつかれるつもりは……元よりない!」
 雷撃を纏い、走る速度が徐々に上がっていく鵺をバックミラー越しに視認すると、背後に乗る鋭桐院 咲里菜に指示を飛ばす。
「このまま引き付けるッ! 足止めは任せたぞ」
「はいっ! お任せくだしぁっ!」
 気合のあまり語尾が怪しいことになった鋭桐院 咲里菜は触手を四本伸ばす。四本の触手が作った間の空間に大気中の水分が収束していった。収束された水はまるでレーザーの様に鵺に向かって放たれた。
 鋭い水の刃が鵺の肩口に命中しその身を裂いた。痛みに怯み、鵺は少々その速度を落とす。
「じぇっとかったーってやつですよ! 鋭さは折り紙つきです!」
 咲里奈の援護を受けつつ、鴉は鵺を指定ポイントまで誘い込む。
 丘に左右を囲まれたようなその場所は罠を張るにはうってつけの場所であった。
 丘の上から鴉が通り過ぎたのを確認し朝倉 ひかるは罠を発動させる。
「まずは妖縛符を受けてください!」
 予め仕掛けられた罠が発動し鵺の上方から妖縛符が降り注ぐ。石の重りを付けられた妖縛符は次々と鵺に命中すると、張り付いてその動きを阻害する。
「次に! 八陣封殺……発動ッッ!!」
 鵺の周囲に光の柱が立ち、結界がその身を封じ込める。妖縛符と八陣封殺、さらには先程受けた奉射神事による弱体化も手伝って鵺はなかなか結界から抜け出せずにいた。
「二人とも今です!!」
 ひかるの合図に合わせて丘の上左右から炎原 鬼助青樹 洋が鵺目掛けて飛び降りる。
 飛び降りた二人に丘の上の人物が声をかける。
「武器の心配はするな、そのまま一気に断ち切れ」
「では行きます、合わせてくださいっ!!」
 飛び降りる炎原、青樹の両名目掛けて蓮水 真姫が放ったアクアが迫る。
 目を閉じ、精神を集中して水の制御をおこなう蓮水。
(落下速度が予測よりも速い……でも、合わせます!)
 指が宙空で文字をなぞるように滑らかに動く。その動きに合わせる様に放たれたアクアは位置を調整し、落下する二人の武器を水で包み込んだ。
「ここからは俺の仕事だな」
 神楽 春夜は懐から氷結符を取り出すと落下する二人の武器を狙って投擲する。
 二人は事前の手筈通り武器を大きく空に掲げた状態で落下していた。
 掲げられた水に包まれた武器に氷結符が触れると触れた場所から水は氷結していき、時間にすれば一瞬で氷の刃が生成された。
「後はお前達の仕事だ……上手くやれよ」
 動きの止まっている鵺目掛けて落下していく二人は言葉を交わす。
「わかっているな、勝負は一瞬」
「……狙うは唯一つ」
「鵺の尾の根元、それを一刀のもとに斬り落とす」
「俺達の動きは……」
「後に続く……一撃の為ッッ!!」
 振り下ろされる二人の刃。速度と体重の乗った氷の刃による鋭利な必殺の一撃。
 深手を蛇の尾に与えたが斬り落とすには至っていない。
「浅いかっ! ならば!!」
 二人は氷の刃を振るい、合わせる様に蛇の尾に攻撃を加えていく。
 共に戦う者、武人特有の呼吸の合わせ方。言葉を語らず、動きで語る。
 幾重にも交差した剣閃は網の目の様に蛇の尾を切り裂いていく。
「一刀……合わせるぞ!」
「……承知」
 呼吸を完全に同調させ、最後の一撃を放つ。氷の刃は左右対称の軌跡を描き、蛇の尾を斬り落とした。
 尾の付け根から赤い鮮血がほとばしり二人の身体を赤く染め上げる。
 直後、結界は消失し鵺は苦しそうに方向を上げながら駆け抜けてその場を去った。
「役目は果たしたか」
「ああ……後は向こうの奴らに託す」
 二人の刃の氷も消失し、武器を収めながら彼らは鵺の去って行った方向を見ていた。

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