十五年前
葵 響佑は、
七海 椋や
浅井 侑果、
シャノン・ティアクォーツ達と共に、十五年前の真実を探るために、その資料を紐解いているところだった。貴族の扮装によって当時の資料のありそうな場所まで辿り着いたのだが、十五年前のことについて記された、閲覧可能な記録はあまり残されていないようだった。というのも、当時の記録の大部分は、当時右大臣だった
藤原 不知火の命によって「「六鬼衆の再来に備えて対策を講じるため、太政官府で管理するのが妥当」と、取り上げられてしまっているようなのだ。
「太政官府で調べた方が良かったんじゃないかしら?」
侑果がひそひそと言ったが、響佑はいや、と首を振った。
「あっちの警備は流石に物々しかったからな……」
貴族のふりをしても、紛れ込めるとは思えない。軽い落胆があったが、それでも全く収穫がない、というわけでもなかった。
「少なくとも、当時何があったかはわかったからな」
椋はそう言って、手元の資料をめくった。
書物に記されているのは、こうだ。
――十五年前、中央に官庁が集まる、大内裏――宮城を含んだ上級貴族の区画である、京の三条より南は、六鬼衆によってほぼ壊滅。それに留まらず、三条より北も、左京は大打撃を受けた。
特に鬼同丸と坂上 武(さかのうえのたける)の戦闘は熾烈を極め、その余波で大半の建物は一度消し飛んでしまったという。
鬼同丸は一丈(約三メートル)ほどの背丈を持つ大男で、その身長程もある野太刀を得物とし、鞘走りや剣戟による摩擦によって、刃に炎を纏わせることが出来ると言う。
―――そこまで目を通し「とんでもないですね」とシャノンが呟いた。
――左京区画が火の海になったのは、その力が原因であった。
その鬼同丸相手に、武は善戦し、追い詰められたと思われた鬼同丸だったが、五重塔を斬り落とし、火の手が上がると、そこから時の右大臣……行事の準備のためにやって来ていた藤原不知火が、その塔から外へ放りだされて、落ちた来たのだ。
武はその不知火を助けるために、鬼同丸の一太刀をまともに受け、致命傷を負ったようで、辛うじて不知火を救出すると、そのまま鬼同丸へと最後の一撃を繰り出した――
「鬼同丸と刺し違えた……っていうのは、これのことか」
資料を読み終えて、椋は呟いた。
「しかし、不知火がそこにいただねんてね」
侑果がぽつりと言うのに、シャノンもそうですね、と微妙な顔だ。
「それに、この時の鬼の「死体」は……どこに保管されたんでしょう」
記載されているのは、その時の死体が保管されることになった、と言うことは記されているが、それ以上のことは書かれていないようだ。所々、必要な情報が抜け落ちているように感じるのは、恐らく気のせいではないだろう。
なんとも言えない不気味な感覚に響佑たちはお互いに顔を見合わせ、その表情を厳しくしたのだった。