偽りのヤマタノオロチ 1
京の南にて。
嵐の吹き荒れる中、ヤマタノオロチが、人里に迫ってきていた。
シュウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!
蛇に特有の威嚇音。
そして、巨体が地面をえぐりながら進んでくる轟音。
ヤマタノオロチが、並の妖魔ではないということは、誰の目にも明らかなことであった。
特異者たちは、彼の大蛇を食い止めるため、
集結し、その巨体に対峙していた。
「大妖魔だか何だか知らないが、京をやらせる訳にはいかない。
8本首とは難儀だが、胴体まで8つという訳でもあるまい。
ならば1つしかない胴体を潰せばそれで終わりだ」
只野 永子は、仲間たちとともに、
ヤマタノオロチの腹部を一斉に攻撃しようと考えていた。
蔭丸はヤマタノオロチの攪乱を行っており、
他の特異者たちも、それに続く。
また、首を相手取る者たちもいる。
そんな中、永子は、仲間たちへと号令をかける。
「奴の注意が逸れた!
今のうちに、一気に懐に潜り込む!」
そして、仲間たちとともに、ヤマタノオロチの腹へ一斉攻撃を仕掛ける。
「腹パンを喰らってもらうぞ!」
「修羅」を自称する永子は、動の呼吸から、飛天蹴を叩き込み、
続け様に、喝砕を放つ。
「く、硬い!」
一筋縄ではいかないことはわかっていたものの、
やはり、ヤマタノオロチは強大であった。
鋼鉄の壁のごとき鱗に阻まれる永子だが、
それでも、続けて喝砕を放った。
巫女の
賀茂川 紫音は、
神懸りを使用して、神託を行い、
ヤマタノオロチの行動や状況の変化へと対応できるようにする。
激しい風雨の合間、隙を見つけ、
仲間へと攻撃の機会を伝える。
「フィンさん、左へ大回りに進んで!」
「うん、わかったよ!
アリエルさん、危ないけどお願いしますっ!」
フィン・ファルストは、
パートナーの
アリエル・フロストベルクに抱えてもらい、
もう一人のパートナー、
シュバルツ・ブルレンの見守る中、
飛翔で空中から、ヤマタノオロチへと迫っていく。
フィンとアリエルは、ともに、覗き穴をつけた布をかぶっている。
風雨にまぎれ、隙を突くためである。
また、アリエルは、触手の先端にショゴスの目をつけて、
死角からの不意打ちに警戒していた。
今のところ、不意打ちの心配はなさそうである。
胴体の真上、怪我をしない程度の高さから、
アリエルがフィンを落下させる。
「フィンちゃん、がんばってください!」
(アルテラの剣、大和の刀……上手く合わせて!)
「いけえええええええええええっ!」
フィンが、鱗の隙間を狙い、一刀両断を放つ。
金属と金属がぶつかり合うかのような、
嫌な音が響き渡った。
「う……」
フィンは、自分の手がしびれるのを強く感じる。
ヤマタノオロチが身体をよじらせ、
胴体の上に着地していたフィンは、弾き飛ばされてしまう。
「あああっ!」
「フィンさん!」
「しっかりしろ!」
紫音と、
初瀬川 姫季が駆け寄って、
治療術を施す。
素早く治療した甲斐あって、フィンは、気を失わずにすんだ。
「これは、思った以上にやっかいだな。
どうしたもんかね」
姫季は、普段通りの口調で言うが、
あまりよい状況ではないということはきちんと理解していた。
姫季たちが後衛から神懸りと神託で支援しても、
決定打が与えられないままでは意味がない。
永子も、苦戦を強いられ、
なかなか大きなダメージを与えられないでいる。
一行は、ヤマタノオロチへの、腹部への全力攻撃を行ったが、
予想以上に鱗が硬く、
さらには、嵐で攻撃が滑ってしまい、
決定的な、大きなダメージは与えられないようであった。
それでも、特異者たちは、あきらめずに攻撃を続けていく。