クリエイティブRPG

大和妖奇譚 ―妖魔行―

リアクション公開中!

 0

大和妖奇譚 ―妖魔行―
リアクション
First Prev  7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17  Next Last


真実を求めて



 京のあちらこちらが、予断を許さない状況となっている中で、逆に今がチャンス、とばかりに動く者達もいた。

 月代 蛍都も、その内の一人だ。
「凶悪な妖魔や六鬼衆に対抗する手がかりを探すため」という名目で、右京にある陰陽寮を訪れた蛍都は、干菓子を差し入れ頭を下げ、何とか許可を貰った書物庫で、黙々とページめくり、その字を追っていく。
「ここにも、三千界管理委員会の手は伸びてるかもしれないけど……」
 それでも、何もしないよりマシだ、と、後で希一にも確認を取るつもりで、開いた書物のうちの一冊。
 蛍都はふとその手を止めた。
「これは……」


 時を同じく、やはり右京に存在する大学寮。
 こちらでは、ライオネル・バンダービルトシグウェル・スプリングフィールドが、文献を探しに訪れていた。とは言えこちらは、蛍都のように堂々とではなく、どちらかと言えばこっそりと、であるが。
「どさくさに紛れて、持ち出されたり、破棄されてはいけませんし……」
 シグウェルが呟くのに「そうだな」とライオネルも頷いた。京が混乱の最中であるこの時なら、乗じて情報を仕入れに行くことが出来る、と二人も動いているわけだが、それは言い換えれば「他の誰か」も今がチャンスなのだ。残されている「都合の悪い」情報は消されてしまう可能性がある。
 ライオネルは一応変装術で武官に変装していたが、幸いにも、警備に当たる者達は皆、京の有事に借り出されていたため、難なく侵入できた二人は、シグウェルの式占術で重要な資料のある場所を探し当てると、二人でひたすら資料を漁り始めた。
「どんな情報が金になるか判らないしな……」
 呟くライオネルが、手当たり次第に資料を開いては書き写しを行っている間、シグウェルは持っている陰陽知識を総動員させて、そのページを導き出した。
「これ、って」
 呟くシグウェルに、ライオネルがその手元を覗き込んだ。
 
 陰陽寮、そして大学寮で発見された資料にあったのは、”鬼”に纏わるもの――陰陽師の手記だった。
 そこには、文章を要約すると、こうある。
『―――その男は、明らかに平静を欠いているように思われた。
 よほど衝撃を受けたのか、目線は定まらず、足元はがくがくと震えて、怯えきった表情でわたしを見ていた。
 ”鬼だ、鬼に……鬼に、変わっちまったんだっ!”
 繰り返しそう言ったが、要点が判らない。根気強く聞き取った所によると、その村にいた一人の男――その背は高く、色白で随分変わった男だったようだ――は、嫁を殺され、人が変わったようになっていたが、ある日、ふらっと家から出て、そのまま蹲ったかと思うと、目の前で鬼に代わってしまったのだ、という。
 そんなことがあるものか、と思ったが、男は繰り返し繰り返し、鬼になった、鬼になった、と喚く。尋常ではない怯えぶりから見て、少なくとも男が鬼を見たのは間違いないのだろう―――』

「……気になる記述だね」
「鬼ってのは、まさか……?」
 蛍都が呟いていた頃、大学寮でもライオネルとシグウェルがお互いの顔を見合わせていたのだった。


 一方その頃。
 ナレッジ・ノーウィンは、京の抜名寺へと足を運んでいた。
「どうにか、お力をお貸し願えませんか……?」
 ナレッジが抜名寺を訪れたのは、大和のさんぜんねこ、鍵猫戯画たちへの協力をお願いするためだ。そのため、鍵猫戯画に詳しい珍念やその和尚を訊ねてきたのだが、珍念たちは難しい顔だった。
 と言うのも、鍵猫戯画から飛び出したさんぜんねこ達は、京を飛び出して大和の各地に散らばってしまっているようなのだ。今から一人一人を訪ねて回るのは、とてもではないが時間が足りない。
「そうですか……」
 ナレッジは肩を落としたが、収穫が全くないわけではない。
「各地に散らばった猫たちは、既に鬼と戦うための情報を集めていることでしょう。出会うことがあれば、必ずや力になってくれることと思います」
 その力が必要になった時、彼らは自ずと現れるだろう……和尚はそう告げた。また、行方に対して全く心当たりがない、というわけでもないようであった。
 和尚からいくつかの情報を得たナレッジは、抜名寺を後にしたのであった。


First Prev  7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17  Next Last