序章
ルキアは、聖樹ルメナスをじっと見つめていた。
歴代最年少騎士。コルリス王国軍第二兵団長。コルリスの紅き雷。いずれも、彼女に与えられた称号だ。
だが……自分はそれに相応しい人間なのか。
魔人と化した己が望んだものは、強者との戦。そして、アルビオンで聖具の力を得た者たちと剣を交えた時、ルキアは生きてきた二十年の中で最も強い充実感を覚えた。
(醜いな、私は……あれが私の本質というわけか)
ギリ、と強く歯を噛みしめる。だが違う、と否定はできなかった。
『真の強者は、剣を抜かずとも戦いを制す』
幼い頃、そう自分に言い聞かせてくれたのは誰だったか。テオドルス元帥ではなかった気がするが、顔を思い出すことができない。
それに従い、ただひたすらに鍛錬を続けてきた。にも関わらず、鞘から剣を抜き、相手を斬り裂いた時の解放感は、未だ身体に染みついて消えない。自らの紅色の髪が、鮮血に思えてくる。
だが……いや、自分の本質を知り、弱さを自覚したからこそ、彼女はより強く己を戒める。剣を置いていくことも考えたが、それでは弱さに抗えないことを認めたようなものだ。
戦いを制す前に、己を制する。そう彼女は誓った。
「ルーキア!」
背後から飛び掛かってきたのは、紫髪の猫娘――
リンシアだ。いつもならひょい、と避けるところだが、
「にゃ、珍しいね。ルキアがまったく動かないなんて」
「……そんな時もあるさ」
一度堕ちた身でありながら、こうして慕ってくる者がいることの有難みを、ルキアは噛みしめた。
――忘れるな、護りたいと思う気持ちを。
「行こう、リンシア。彼らの道を拓くのは、この世界に生きる私たちの役目だ」
「そうこなくっちゃね。少しはリンシアたちもやるんだってとこ、見せてやらなきゃ」
この世界――そう、理の外から来た者たちは、この世界の住人ではない。
ルキアはもう、それを知覚している。おそらくリンシアもだ。
二人は、特異者たちの集まる城内へと歩を進めた。
■目次■
1ページ 序章・目次
第一章
2ページ
【1】“時空剣”アイオーンを確保せよ!1
3ページ
【1】“時空剣”アイオーンを確保せよ!2
4ページ
【1】“時空剣”アイオーンを確保せよ!3
5ページ
【1】“時空剣”アイオーンを確保せよ!4
6ページ
【1】“時空剣”アイオーンを確保せよ!5
第二章
7ページ
【2】戦の前に
8ページ
【2】黒の軍勢、襲来!
9ページ
【2】苦戦
10ページ
【2】対ロートゥス
11ページ
【2】防衛ライン 1
12ページ
【2】防衛ライン 2
第三章
13ページ
【3】幕開
14ページ
【3】対峙
15ぺージ
【3】挟撃
間章
16ページ
【6】ルメナスの意志
第四章
17ページ
【5】シニストへ 1
18ページ
【5】シニストへ 2
19ページ
【5】シニストへ 3
20ページ
【5】ラクスへ 1
21ページ
【5】ラクスへ 2
22ページ
【5】ラクスへ 3
23ページ
【5】ラクスへ 4
間章二
24ページ
【6】ワールドホライゾンにて
第五章
25ページ
【4】1.港町ポルタ
26ページ
【4】2.ポルタの防衛
27ページ
【4】3.セイレーンに近づく者たち
28ページ
【4】4.セイレーンとの戦い
第六章
29ページ
【5】ステイティオへ 1
30ページ
【5】ステイティオへ 2
31ページ
【5】ステイティオへ 3
32ページ
【5】ステイティオへ 4
33ページ
【5】ステイティオへ 5
第七章
34ページ
【2】時の支配者
35ページ
【2】幹部戦、決着
36ページ
【2】対ロートゥス
37ページ
【2】魔王の最期
第八章
38ページ
【3】死闘
39ページ
【3】節目
40ページ
【3】終焉
終章
41ページ
潰えし黒
42ページ
白騎士
43ページ
次の世界への鍵
44ページ
マスターコメント