■思い思いに、お祭りを楽しみましょう【2】
「いろんな屋台があるね。それじゃ早速食べ歩きしようか――あっ!」
つられて空を見上げた
メリーナ・ブリーゼの隙を突く形で、
天津 恭司が背中に『新人アイドルです。よろしくお願いします』と書かれた紙を貼り付ける。
「あぁ、なんでもなかったよ。それじゃ行こうか」
「?」
疑問符を浮かべているメリーナを急かすように背中を押して、屋台巡りに出発する――。
「ドラゴン角煮、豪快だったなー。……あれ、メリーナがいない」
あちこち屋台を巡って、ふとメリーナの姿が消えていたことに気づいた恭司がキョロキョロと辺りを見回していると、
「恭司さんっ」
声が聞こえた方を振り向けば、先程自分が貼った紙を掲げたメリーナが怒ったような恥ずかしいような顔をしていた。
「これ、恭司さんですねっ。さっきから道行く人に「がんばって」って応援されるなーと思ったら……!」
「メリーナさんがアイドル目指すなら、アピールも大切だと思って。……迷惑だった?」
「……ずるいです恭司さん、何も言えないじゃないですか、もう……」
拗ねたような視線を向けてくるメリーナの頭を恭司がよしよし、と撫でる。
「じゃあそこの樹京風お好み焼き、僕のおごりでいいから」
「……仕方ありませんね、許してあげましょう!」
そう言いつつすっかり機嫌を治したメリーナに苦笑して、恭司が後を追った。
「聖歌庁さんのブースは……流石にないかー。でも面白そうなものがいっぱいあるねー」
事情があってお祭りに来られなかった
かりゆし くるるに何かネタになりそうなものを買っていこうと考えた
写楽屋・俳月が屋台を巡っていると、花簪を展示・販売している屋台が目に入った。
「痛服も悪くなかったけど、うん、こっちにしよう。へぇ、色々あるなー」
木の実や青い花が添えられた簪など、かつてアイドルたちが救った世界の特徴を盛り込んだ簪を見ていった俳月は最終的に、桜が描かれた簪を手に取った。
「これにしようかな。すみませーん、これください」
「……とうろうながし? やってみようかしら」
川辺で灯籠流しが行われていると聞いた
トイドル ドムが、ではその灯籠を手に入れようとそれらしきものが並べられている屋台に向かっていく。
「とうろうって空を飛ぶものなの? ……水に浮かべるもの? じゃあなんで空を飛んでいるの?」
灯籠なのかよくわからないものに目を丸くしつつ、ドムは最終的に、ホログラムのように角張った形をした灯籠を手に取った。
「キレイね。これにしようかしら」
きらきらと七色に光る灯籠に目を細め、ドムは手に入れた灯籠を持って灯籠流しに挑んだのであった。
「やっぱりあったよフェス乳業さん。ぬかりないねぇ」
『フェスアイス』を展開しているフェス乳業の屋台を見つけた
トイドル デイが屋台に駆け寄り、どんな挑戦的なフレーバーが売られているか確認する。
「ペペロンチーノに……真夜中のラブレター? 野生のおたけびってなんか凄そう、っていうか食べて大丈夫なの!?」
ちゃんと食べ物の範疇に収まっているという(もちろん個人の好き嫌いはある)アイスを前にしばらく悩んでいたデイは、最終的に『野生のおたけび』味をチョイスし、早速口に含んだ。
「アオーーーン!!」
「おぉ、こいつぁバイブスを感じっぞ!」
ネームレス アップルがうんうん、と頷きながら屋台を巡っていく。屋台には昨今流行りの品を取り入れたものも多く、今回は黒い小さな球体をアピールする屋台がやたらと目に付いた。その中でも特色を出そうと、瘴気たっぷりを売りにしたり、どう見てもただの錠剤なのにちゃんと味と食感が再現されていたり、海洋生物の卵だったり、飛び出したりと賑やかだった。
「次のライブのネタになりそうだな! くるるに教えてやろう!」
それら全部を平らげたアップルが膨れたお腹をさすりつつ、今日経験したことをくるるに話してあげよう、と思うのだった。
「流れてくる音楽にはその世界の文化が感じられる……この世界の音楽は実に多種多様だな。確かこの世界もワールドホライゾンのように、多くの異世界と繋がってきたんだったか」
ライブ会場から漏れ聞こえる音楽に耳を傾け、
クリストファー・モーガンがふむふむ、と頷く。異世界の心を惹き付ける音楽を見聞きしたアイドルたちのライブは、観客と会場を盛り上げるという一致した目的の下、クリストファーが表現したように多種多様な変化を遂げていた。
「ほら、そんなに肩肘張っていては、感じるものも感じられなくなるぞ。リラックスリラックス」
クリストファーが隣の
クリスティー・モーガンを小突いてリラックスするように言い、クリスティーが難しいな、と苦笑しつつ先程よりは表情を柔らかくした。
「そう、だね。ここで見聞きしたものは歌の参考になるはずだからね」
「そういうところが肩肘張ってる、と言うんだがな……まぁいいか。
せっかくだから、君に似合う衣装を探そうか。君の秘密がバレないように……ね」
「からかわないでくれ、まったく……」
含み笑いを浮かべるクリストファーにやれやれ、とクリスティーが嘆いた。
「灯篭流し、もう始まってたんですね。暖かな光で綺麗、ですね」
小さな相棒、星獣
ルーチェと一緒に川辺にやって来た
カトレア・ファインタックが流れていく色とりどりの灯篭に目を細める。
「ルーチェ、私を選んでくれて、ありがとうございます。いつか、ルーチェの力を借りる時がくるかもしれないです。
その時はどうぞ、よろしくお願いします」
肩に止まったルーチェにカトレアが話しかければ、ルーチェは澄んだ声で一声、鳴いた。
『踏み出すときは、一緒に輝こう』
「……はい、そのときは、一緒に」
そう言われたような気がして、カトレアは微笑を浮かべて応えた――。