■思い思いに、お祭りを楽しみましょう【1】
「さあ、裏の地球で初めてのカレー探索。何が待ち受けているか楽しみだ」
何やら只者ではない雰囲気を醸し出しつつ、
ジェノ・サリスが研鑽を積むべく、屋台を回っていた。
「お待たせ! 召し上がれっ!」
「ありがとう。……ほう、実に手堅くまとまっている」
そして屋台で購入したカレーを口に含んだジェノは、具材とルーの絡み具合が高水準でまとめられた味に称賛を口にしつつも、何かを閃くようなある意味『吹っ飛んだ』カレーに出会うことは無かった。
「グランスタ、といったか。ここの校風がこの味を作っているのやもしれないな。となればフェスタのカレーは、どういう味なのだろうか」
これはこれで楽しみつつ、まだ見ぬフェスタのカレーを想像して楽しむジェノであった。
「よっ、と。……うん、ここなら静かに酒が楽しめそうですね」
OMATSURIバトルのライブ音や歓声、祭りの喧騒を遠くに聞きながら、
白野 直也は川辺に腰を下ろしてとっておきの果実酒でひとりの時間を楽しんでいた。
「最近は荒事の連続でしたからね……今日みたいな日もたまには必要でしょう」
連続する新しい世界との繋がりや、ワールドホライゾンでの激戦。休息を必要とする理由は十二分にあった。
「ふわぁ……眠くなっちゃいました。少し寝ちゃいましょうか」
視界がまどろみ、直也はコートを毛布代わりにしてごろり、と横になる。かすかに聞こえるライブ音がまるで子守唄であるかのように、あっという間に直也は眠りに落ちていった――。
「こっちのお祭りも賑やかでいいねぇ。むしろライブが盛んな分、こっちの方が賑やかなくらいじゃないか」
「でしょでしょ。みんなライブが大好きだからねー。こうやって時雨と颯真と一緒にお祭りに来られて、楽しいなぁ」
陽気な雰囲気の中、楽しそうにあちこち見て回る
日坂 颯真と
深山 詩月に、二人と同じく浴衣姿でやって来た
有間 時雨は来たかいがあったかな、と頷いた。
「それじゃ、どこに行くか」
今も一行を案内している
猫又系演出家のまとめてくれた資料を眺めつつ、時雨が行き先を決めようとすると腕を左右から引っ張られる。
「やっぱお祭りとくればたこ焼きだよなぁ。時雨、詩月、早速食べに行こうぜ!」
「僕は甘いものの方がいいかな。お祭りとくればかき氷だよね。ほらほら早く、でないと時雨の分はあの謎のルミマル味とかにしちゃうぞー」
「ちょ、ちょっと待て、颯真も詩月もそんなに引っ張るんじゃない」
それぞれ別々の方向に引っ張っていこうとする颯真と詩月をとりあえず落ち着かせる。身体は一つである以上、行き先を同時に二箇所に決められても対応できない。
「時間はまだたくさんあるんだ、それにどっちかしか行けないわけじゃないだろ? 近い方から回っていけばいいんじゃないか?」
「それならかき氷屋の方が近いね! ほら二人とも急いで!」
「次はたこ焼き屋だからな! あっ、でもあの屋台で売られてるものも美味しそうだなぁ……」
時雨が意見を発したことで方針がまとまり、詩月が一直線に、颯真が他の屋台に目移りしつつ、結局時雨を引っ張っていく。
「引っ張られるのは変わらないのか……。まぁ、こういうのも懐かしくていいけどな」
これほど無邪気に遊べるような機会は、いつ以来だろうか――そう思いかけていや、と時雨は頭を振った。
「気にするよりもまずは、楽しむことにしよう。二人に振り回されるのはまぁ……頑張って付き合うとしますか」
困った、というよりは楽しそうに笑って、時雨は足早に屋台の間を抜ける颯真と詩月に付いていった。
「……なるほど、それで灯籠にはそれぞれの世界に縁深いものが描かれていたのですね。教えていただき、ありがとうございます」
川辺に向かう道の途中で、
青島 想那は
レディ・フェザーに『灯籠流し』についてのアドバイスをもらっていた。魂を弔う、という点では変わりがないのと、この世界も『三千界』の一部であり多くの異世界と通じていることから、灯籠にはドラゴンや有名な舞芸者が描かれているものもある、というのを知ることができた。
やがて一行が川辺にたどり着くと、既に無数の灯籠がぼんやりと光を湛えながらゆっくりと流れていた。
(私が知る世界でも、私が知らない世界でも、同じように命が消え、残された人々によって悼まれているのですよね)
想那が灯籠に思いを込め、そっと川の流れに乗せて旅立たせる。その隣に
ネリネ・レーゲンシルムがしゃがみ込んで、想那と同じように思いを込めた灯籠をそっと川の流れに乗せて旅立たせる。
(私を生み出し眠りに就かせた王家の方々へ……永きに渡る因縁に決着が付いたことをここに、報告します)
縁あって目覚め、そして様々に繰り広げられて来た物事の果て、生きて世界の変容を見届けた者の務めを果たしたネリネが身を起こしたところで、後方から声がかかった。
「飲み物を持ってきたわ。ここで少し、休んでいきましょう?」
川辺から少し離れた場所を確保した
ローレル・D・エヴァーラストが人数分の飲み物を用意して、想那とネリネを呼び寄せる。
(二人にはそれぞれ、思うところがあったようね。私には分からない部分であるけれども……それも違う生物、人間であるからこそよね。
分かり合うことはすぐにはできなくとも、寄り添うことは出来るわ。そうしてこれからも一緒に過ごしていくのだもの)
生まれも育ちも異なれど、共に今を、そして未来を生きることは出来る。
三人は繋がった思いを胸に、手にした飲み物で喉を潤すのだった。