クリエイティブRPG

■エピローグ■

　イベントも無事に終了し、『ＹＡＧＵＲＡバトルフィールド』では本日のMVPが発表されていた。
　どのアイドルも拍手で壇上に迎えられ、観客からも惜しみない称賛を送られている。

　そんな閉会式を背に、ナズナは黙って会場を離れようとしていた。
　ステージで熱い戦いを繰り広げ正気を取り戻させてくれた者達にも感謝しているが、
　大事な幼馴染との約束を破ってしまったことには変わりない。

「……私は、あいつを怒らせてばかりだな」

「本当ですよ、ナズナちゃん！　ライブのお仕事が入ってたなら教えてくれれば良かったのに……！」

「よ、よもぎ！？」

　息を切らしてナズナの袖を掴んだのは、幼馴染のよもぎその人だった。
　待ちぼうけをしていたところ、聞こえてきた祭囃子に釣られてイベントを見に来ていたという。

「いい食材が手に入ったから、少しでも早くよもぎに料理して欲しかったんだ。
　それなのに、突然自分を抑えられなくなって……。ごめん」

「それも嬉しいですけど……久々にステージでライブをしてる格好いいナズナちゃんが見られたことも、私はすごく嬉しかったです。
　相手の皆さんも含めて、本当に素敵なライブ対決でした……！」

　よもぎのへにゃっとした笑顔にナズナも釣られて笑みをこぼす。
　そうして二人は仲良く並んでようやく帰路に就いたのだった。

　

　――迷子センター。

「あ、いたいたミヤビ！　輝夜ちゃんから離れたらダメだって言ったでしょー？」

「言ってません！　……むしろ、私があなたに何度もそう言いました……！」

　そうだっけ？としらばっくれる輝夜にミヤビは物言いたげに唇を結んだが、
　怒りも忘れられる程すっかりライブを楽しんで来た様子の輝夜をこれ以上咎めることはしなかった。

　そして、そんな二人に臆せず声をかける者が一人。

「時に、異界の神よ。君も対戦したナズナについて、何か変な感じはしなかったかい」

　声のトーンを落として尋ねる左脳に輝夜は一瞬だけ警戒するも、
　同じ“敵”を探っているのだろうとすぐに察したらしく彼に向き合った。

「あたしも詳しく分かるワケじゃないけど、あの悪鬼に心をイジられてたことは確かね。
　何か、他のことが見えなくなるくらいの“食欲”が渦巻いてたってゆーか……？」

「……それであれば。瘴気やノイズのような異物で侵すのではなく、元より心に在るものを掌握する類の術でしょうか。
　本人も、周囲の者も、その異変に気付けぬまま己を見失ってゆくような――」

　思案するミヤビが零した推論に、輝夜も左脳もさすがにゾッとした顔をした。
　今までの相手とは違う未知の脅威。今はまだ対策も対応もしようがない。

「けど、ライブが終わったらあの子もケロっとしてたでしょ。何とかする方法もあんのよ、きっと！」

「そうだね、この話はフェスタにも共有しておこう。
　……はあ、俺もどっかおかしくなる前にしばらく妹のとこに引きこもろうかなあ」

　三人は互いに今後も“可能な範囲”での情報を提供し合う約束を交わして別れた。
　しかし、後日起こる未曽有の出来事により、その約束が果たされることは無かったのだった。