甲板には綱七が廃材を利用して作ったステージが、
そして隣には亜莉沙がカラオケボックスから持ってきたカラオケマシーンが設置されていた。
そのステージの上に最初に立ったのは
鹿山 信次郎だ。
「やっぱり緊張するな……」
卒業祝いに勇気を出してなにか大きなことをしようと思ったが、
ステージに立ち、甲板の特異者達の視線を浴びれば緊張に体が硬くなってくる。
カラオケマシーンからリズミカルな音楽が流れ始めた。
「こうなったら、勢いでやるしかない……!」
信次郎は曲にあわせてタップダンスを踊り始めた。
最初はぎこちない動きだった。
しかしすぐにブーステッドらしい身体能力を生かした派手なダンスを披露することができた。
曲が終わると同時に大きな拍手が巻き起こり、信次郎は照れ笑いを浮かべながらステージを降りた。
次にステージに立ったのは
神凪 朔徠だ。
朔徠が着ているのは黒地に桜模様を基調とした、ゆったりとした水干だ。
その手には桜の枝が握られていた。
「皆の門出祝いにお祈りを捧げようと思う。どうか僕の神子舞を見てはくれまいか?」
カラオケマシーンから奏でられる音はない。
しかし朔徠はふわりと静かに袖を振った。
それはまるでここに音があるかのような雅な舞だ。
朔徠が腕を振るたびに袖が舞い上がり、桜の枝が薄紅の線を描く。
「ふぅ……さて、久方振りだったが……。僕の神子舞は如何だったかな?」
神子舞を終え、朔徠は一礼した。
特異者達はほうっとため息を吐き、拍手しようとしたが。
――その瞬間、黒い人型の影がまなびや船上をいくつも飛び交った。
まなびや船が人型の変異体に襲われていた。