艦橋や船内、そして甲板の上で特異者達が船旅を楽しんでいるなか、
六道院 アキラは船内の最終チェックを行っていた。
「急ごしらえだからどこかの機能がおかしくなっているんじゃないかと思ったが
……大丈夫そうだな」
もとは老朽化した軽巡洋艦だが、資源戦争を生き残った頑強さがあり、その上で今は最低限の修繕も終わっている。
敵の襲撃があったとしても充分に耐えられるだろう。
それだけでなく廊下はピカピカに掃除されつくし、一部にはふかふかの絨毯が敷かれている。
船旅が快適なのは間違いない。
アキラの足はカジノに向かった。
「あっ、やっと誰か来たよ~! ひとりで退屈だったんだよー!」
カジノの扉を開けた途端、散々待ちくたびれたかのような声を
ユカリ・ファーストミストはあげた。
トランプゲームが遊べる小さなカジノルームには現在ユカリしかいなかった。
「やっぱりゲームはひとりじゃつまらないもんね。なにして遊ぶ?
ポーカーでしょ~、ブラックジャックでしょ~、バカラもやりたいねぇ~」
「おいおい、いきなりそんなこと言われても困るんだけどなぁ。
……ま、最終チェックも終わったことだし俺ものんびり遊ぶかぁ」
アキラはユカリの正面に座り、にやりと笑った。
「言っておくが俺は強いぜ」
「ふっふ、ボクだってこう見えて経験は積んでるからね。手加減なんてしないよ」
二人はお互いにほくそ笑みながらトランプをテーブルの上に広げた。
◆
まなびや船内のシャワールームに水音が響き渡っていた。
最後だからひとりになりたいと考えた
吉良 鈴花はシャワーを浴びながら今までの思い出に耽っていた。
「こんな俺を優しく受け入れてくれたマスターのことは絶対忘れない……」
昔は勘がよすぎる自分のことが嫌いだった。
だけどまなびやのおかげで友人ができた。こんな未来が待っているなんて知らなかった。
(……別れがさびしい……俺にもこんな感情があるなんてね……)
うれしさとさびしさが交差する複雑な感情で胸が熱くなる。
「まなびやありがとう。……大好きだ」
◆
キッチンの電磁調理器のうえに置かれた鍋がことこと揺れていた。
エルディア・スノゥアローは鍋の中身を小皿にすくい取り、味を確かめた。
「……よし」
満足そうにうなずいたエルディアの横にはできあがったばかりの数々の料理が並んでいた。
アサリの味噌汁に肉じゃがのような和食から、ハンバーガーやフライドチキン、アサリの形をしたものもある。
やがてエルディアは電磁調理器のスイッチを切り、窓の景色をついとながめた。
「貴方様を好きになったのは何故でしょう……」
いったいそのつぶやきは誰に向けたものなのか。
答えはエルディアだけが知っている。