エリア15付近、某浮島。
小規模の海賊が襲来するという情報を事前に入手し、迎撃作戦の指揮を取る
ヴァン中尉は、参加していた多くの新人の中の一人
鬼神野 珠萌の暴走と、IFを含む海賊の増援という戦況の変化に各人に、先に配布していた通信機に指示を入れた。
状況は待ちぶせしていた分有利。しかし、海賊からの反撃、何より増援が来るという連絡に、新人が多く投入されている今回の任務に更なる協力を求められ、ヴァン中尉からの連絡を受けた特異者の
遊月 朧や
近衛 正宗達は状況を聞くと直ちに出撃する。
…※…※…※…
浮島上での陸地戦。事前に情報を入手し、待ちぶせに迎撃体制を整えていた特異者達の反撃はその効果を発揮していた。
「大丈夫ですよ。一緒に頑張りましょうね」
初めての戦場で飛び交う光引く弾道に顔を引きつらせた新人の肩を叩いたのは
シルノ・アルフェリエだった。
「怖いですか?」
気遣うシルノに新人は頷いた。そんな彼にシルノは素直ですねと呟き、光式拳銃を構える。
「支援します。大丈夫ですよ、訓練通りに行きましょう」
近接武器を構え「ブス狩りだ!」と興奮抑えきれず絶叫し迫ってくる海賊にシルノは容赦なくトリガーを引く。発射音を間近で聞いてぼうっとしている彼にシルノは口を開いた。
「倒すのは自分ですよ」
「え?」
「なぜ出撃したんですか? 『初めてだから』は何の免罪符にもなりませんよ。援護します。接近、制圧はお願いしますね!」
「は、はい!」
怖いと感じるのは当然だ。克服するには経験と成功体験が必要である。見るからに新人ですと戸惑う彼を励ますと、シルノは周囲に視線を走らせた。
浮島は比較的見渡しの良い地形ではあるが、所々に人一人隠れるには充分な起伏が存在している。そんな場所に海賊が逃げ隠れしてないか戦況を眺めていた
水鳥 小町は小さく吐息した。
仲間の
姫宮 沙織、
六波羅 操の二人が今回の任務で前線に立つと聞いて、少しでも力になればと駆けつけてきた小町。
待ち伏せしたいた分、こちらが有利とは言え、油断は出来ない。
出撃前に小町が要望を聞き届け最適化し調整を重ねてくれたDD:対物ライフルをアクティベート・ヘヴィアームズで呼び出した沙織は文字通り片手で操り射撃体勢で使用感を確かめて、隣りで同じ武器の調整具合に満足と頷く操と目線を合わせれば、自然と互いに頷き合った。
それぞれ小町を中心に左右に立ち位置を移動し、準備が整い深呼吸した、操、沙織の二人の体は粒子の色に青白く淡く光る。
「小町さん、指示をお願いします」
沙織と、どうぞ頼りになってと返す小町の二人に、操は、にっと白い歯を見せて笑った。
「皆、頑張っていこう」
沙織、操の同時スタート。真ん中であり後方支援を担当する小町は、一泊遅れて駆け出すと奥歯を噛み締め、左右に散開する二人を視界に収めつつ、世界を見渡す。
部隊の後方で海賊達の動きを眺めていた
フォール・オータムは、先に流していた偽情報に彼らが欠片も感心を示さなかったことを確信した。
「やはり、小細工無しの情報には踊らされないか」
来襲した海賊の西側から制圧するというフォールが発信した偽の命令は偽物と鼻で笑われたらしい。
「ま、撹乱が目的だからな」
引っかかれば儲けもの。引っかからなくても、問題が発生するものでもないし、むしろそれが布石となる。
では、その偽情報を本物にして混乱させようかと光式小型拳銃の具合を確かめるフォールは、ちらり、と視線を横向けた。
今井 亜莉沙の姿が視界に入る。
前線で展開しているブーステッドを狙うのか、アクティベートで呼び出すのはレンジの長いDD:対物ライフルだった。そんなランチャーウィザードにフォールは向き直った。
「此処から狙って欲しい場所がある」
「対象が決まってるの?」
シークレットオフィサーから投げかけられた要望に、亜莉沙は対物ライフルを肩に担いでツンと顎を持ち上げる。
その態度を了承と受け取ってフォールは迫り来るブーステッドの西側を指さした。
「あの辺りをズドンとやってもらいたい」
「オッケー! 中々人数揃ってるじゃない」
後方支援を望んだのは物資の補給や負傷者の手当ではなく、アウトレンジからの狙撃だ。願ってもない指示を受けて亜莉沙はライフルを構え直した。
「できるだけ派手に頼む」
偽の情報を本物にすれば、相手はどう反応するだろうか。
戦況の風向きを読もうと唇を湿らせるフォールに亜莉沙は頼りにしてと笑う。
「任せて。火力支援するわ!
アンチマテリアルライフル起動!
射撃諸元、風速――、気圧――、温度、及び湿度――、コリオリカ補正――……、演算完了!」
トリガーに触れる指に力が入る。
「てーっ!!」
遥か向こうで着弾の砂埃が舞い上がった。
敵前線の足元に雨よりも速く落ち地面を穿つライフルの弾道が見えたような気がして、
早乙女 石良は自分が持つ対物ライフルにちらりと眠たげな視線を流す。
石良は今回のミッションを早く片付けたかった。
栄養補給はエナジーゼリーで賄えるが寝不足は寝ないと解消されない。
最近寝不足な石良はあくびを噛み殺し、ライフルの標準を海賊へと合わせ「ブス狩りじゃぁ!」と叫ぶ相手にトリガーを引き絞った。
負傷者の手当に回る
吉田 一之丞は「少し痛みますが我慢して下さいね」と声をかけて、手早く裂傷の処置を施す。
「ツッ――」
「我慢です。我慢。ちゃんと消毒できるのは良い事なんですよ……、
大丈夫ですか?」
「あ、 ……はい」
「そちらも見せて下さい。最適化します」
被弾した場面を目撃していた一之丞は相手の武装のチェックを申し出る。
「すみません。ありがとうございます」
立ち上がり礼を言われて、不具合等が無いのを確認したライフルを手渡す一之丞は「遠慮しないでください。まだ痛む場所はありますか?」と相手の顔色を伺う。気遣われて新人らしい彼女はブンブンと首を横に振った。立ち上がる彼女に一之丞は首を傾げる。
「行きますか? 一度戻って怪我を診てもらうのもありかと思いますが」
「大したことは無いのと、助けていただいたので退く理由がありませんから」
「では、気合をいれていきましょうね」
「はい!」
海賊の制圧又は撃退が今回の任務だ。押せる内に畳み掛ければそれだけ早く終る。
立ち上がる新人は一之丞に深々と頭を下げてから前線に戻った。
その背中を見送って一之丞は次の負傷者の元へと急ぐ。
戦力を削り取る勢いで打ち込まれる銃弾の弾幕に海賊達は「あの情報は本当だったのかよ!」と互いに通信を交わし合う。情報が交錯し、西側へのフォローに向かおうとしていた海賊の東側から操の一撃が飛ぶ。「今度はそっちからか!」と怒号が飛んだ次の瞬間には再び西側で沙織の強襲。誰が誰を狙っているのか冷静に現状を見て考え対処する存在が無い海賊達は顔を真っ赤にさせて怒鳴り合いを始めた。
あちらの通信機に叫ぶ文句が耳に届き丸聞こえだ。
後方の小町から、配布された通信機を通して常に送られてくる指示を頼りに、左右互い違いにピンポイントを狙われ海賊達は完全に混乱した。近場の二人を対処しようにも、手薄になった場所等を遠くから狙撃されるので、増援待ちどころか退路が確保できるかも危うくなってきた。
既に統率は無くなっている。