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神多品学園都市

神多品冬夜祭

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神多品冬夜祭
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 序盤戦


「さあ、次の対戦カードは、互いにリージョン・ユニバースのサイオニック……剣遣い、リャベフ・イリヤ、そして格闘が光る、エステル・ノーディン・露木だぁっ!」
 名前を呼ばれた両名は、二つある試合場の一方へと登り、視線を交わした。
「さぁ、この試合はどんな結果になるのか! 両者構え! いざ、尋常に……」
 構えの声と共にリャベフがサイコソードを生み出す。一方でエステルは深く腰を落とし、半身になって備える。
「勝負っ!」
 掛け声とともに両者ともが飛び出していく。初撃を繰り出したのはリャベフが先。エステルは一歩引いて捌く。続けてもう一撃。それも半身になって躱す。
「おおっとこれは一方的な戦いだぁっ! エステル、リャベフの猛攻の前に距離を詰められないっ!」
 叫ぶ実況の判断が誤っていることはリャベフ自身が良く知っていた。全て捌かれ、じりじりと距離を詰められている。間合いの内側まで滑り込まれるのは時間の問題だった。
(……仕掛けるか)
 決断からは素早かった。前に構えていた剣を後ろに引き、真下から相手をかち割るような勢いで剣を振るう。
 その瞬間がエステルの勝機。ずん、と振動がステージを包む。大きく踏み込んだエステルの体をわずかに剣が掠め、鼻が触れ合うほどの近さに肉薄する。
「一撃一倒です!」
 繰り出された掌打は、的確にリャベフの胴を捉え、精神エネルギーを打ち込んだ。リャベフは試合場中央から端まで一気に吹き飛ばされる。
「おおおお! 綺麗に決まったあ! 勝負に出たリャベフに渾身のカウンター! 勝者は、エステル・ノーディン・露木だぁっ!」
 わっと湧く会場に笑みを返すと、エステルは腹を押さえて起き上がったリャベフに手を差し伸べた。苦笑して手を取ったリャベフと握手をすると、二人は試合場を出た。



「シィッ!」
「おぉっと槍が奔る! 葉崎 九太郎間合いの外に押し出されたぁっ!」
「っぶないなぁ!」
 がぎゅん、と短剣で槍を捌く。召現させた後の戦いは全く普通の武器戦闘と変わりがなかった。
「退がる! 九太郎退がる! だが間合いを離し切れない! 声援が飛んでいる! 楯無のラクロス部員だ! 羨ましいぞ葉崎九太郎!」
 学園に不案内な九太郎を案内する役目を買って出たラクロス部員の声援が少し止まったが、少し恥ずかしそうに再開される。それを横目に、応援するのに少し疲れたのかアンナ・アルテミエフはスポーツドリンクで喉を潤しながら呟いた。
「んんー。武器に対する習熟度が物を言うのね……思ったより脳みそ筋肉のほうがやりやすいかも」
 眺めながら「二人ともがんばれー」と、同じ教え子の二人を応援する。言った後に、もそ、とおてがる栄養食を頬張ると、アンナは「あ、これ美味しい」と顔を綻ばせた。そんなアンナをしり目に、九太郎と槍使いの戦いは加速していく。
「ん、の、甘く見ると……」
 わずかに槍が深く入り込む。引き戻しがその分遅れる。その動きにぴたりと九太郎はついていった。
「痛い目見るかもよっ!?」
 ぐん、と踏み込む。石突きが小太郎のすねを狙う。槍を持つ手元に短刀の一撃が引っかかる。
「ぬおっ」
「悪いけど、貰ったよ!」
 組みあって三手目、遂に小太郎の短刀が槍使いの首筋に押し付けられる。
「ま、参った……」
「勝負あったぁ! 見事な踏み込みとラッシュ! この試合、葉崎九太郎の勝利だぁ!」
 槍と短刀が火廣金へと戻っていく。二人は握手をすると、そのまま別れた。手を振るアンナに向け、少し複雑そうな顔で九太郎は笑った。




「うおおおおおおお!」
「ぬうあっ!」
「いきなり猛ラッシュだぁあああ! これは暑苦しい、暑苦しい戦いになってきた!」
 カイト・レンドルフと番長風の不良が打撃を交換する。
「やるじゃねえかあ!」
「お前も、な!」
 ばちん、と弾かれたように互いの体が離れる。一歩の距離。最も力が籠められる距離で示し合わせたように二人は踏ん張った。
「だらっしゃあ!」
「食らえオレの妹魂(シスコン)ナッコォ!」
 すくいあげるような番長の一撃は空を切り、カイトの拳が綺麗にその男の顔面にめり込んでいた。しばらくそのまま静止していたが、ゆっくりと番長が崩れ落ちる。完璧なクロスカウンターだった。
「決ぃまったあああ! 勝者、カイト・レンドルフ!」
 男を引き起こし、カイトはその男と拳を突き合わせた。不良たちから熱狂した咆哮が上がる。熱く単純な野郎どもの声に、カイトは拳を突き上げて応えた。



「おお……おおまさに理想の!」
「な、なあオマエ、その、いい加減に」
 烏丸 凌駕は滂沱の涙を流していた。目の前には引きつった笑いを浮かべながら構えている一人の女番長。それだけなら、凌駕は普通に戦えたことだろう。ただ一つ、彼女の髪型がポニーテイルだったせいで、凌駕の涙は生まれた。
「だが、この場は喧嘩の場だ! 俺は烏丸凌駕、ポニテ番長! ポニテのよさを語るためにここに来た!!」
「いやその、褒められるのは嬉しいんだが」
 涙を拭って凌駕が構え、突っ込んでいく。
「うおおお俺の愛を刻め! ポニィィィテェェェェルパァァァァァァンチ!!」
「どっちかっつうと」
 わずかに先んじるタイミングで女番長が踏み込む。テレホンパンチをさっくり回避すると、交差する勢いのまま凌駕の顔面に正拳が突き刺さった。
「アタシの技名だろそれぇっ!」
 やけに満足げな表情で、凌駕は沈んだ。

「ふう……変な相手だった……」
 戦ったからとは別の理由で汗をかきながら、女番長が試合場を降りる。それに駆け寄って来る影があった。影月 銀だ。女番長にスポーツドリンクを差し出す。
「先輩、お疲れ様でした。これ、差し入れです」
「ん? あぁ、ありがと」
 彼女は銀の差し出したスポーツドリンクを受け取った。それを飲む女番長に銀は問いを投げかける。
「ところで先輩、この冬夜祭での評価が、次の六華祭の代表選考に影響するんですよね?」
「んむ、そうだね。そうなるけど、あんまり気負いはないなあ」
 気恥ずかしそうに頬を掻きながら、彼女は笑った。「というと?」と銀が重ねて問う。
「アタシみたいな不良にとっちゃ、六華祭の優勝者は神多品最強って意味はでかいけど、一つ一つの喧嘩を大切にする以上の意味はないよ」
 まぁ、喧嘩に喧嘩以外の意味を持ちこむ変なのもいるけどさ……と少し呆れたように目を細めて、すぐに快活そうな表情に戻る。
「まぁ、強いから選ばれるんなら、選ばれたいね。こんな答えでいいかい?」
「えぇ、ありがとうございます。次も頑張ってください」
「おうよ」
 ひらひらと手を振って、女番長は人ごみに紛れていく。ふむ、と納得したように頷くと、銀もまた人ごみに紛れて姿を消した。



「さぁ! 最初で最後のタッグマッチだ! リージョン・ユニバースのサイオニックと楯無のブリンガーのコンビ! エンジュ・レーヴェンハイム緋夜 朱零だぁっ!」
 さっと注目が集まる。サイオニックとブリンガーによる共闘というのは、かなり珍しい事態なのだろう。学校の垣根を越えて共闘が出来るほど経験を積んだ二人組など、そうはいないのだ。
「さぁ、対するは即席のブリンガーコンビ! 夢見 奏と、セルギス・ノアールの二人だぁっ!」
 わっと周囲がさらに湧く。大柄な二人組に対して小柄な二人が相対する。
「即興の……連携だけど……よろしく……」
「こちらこそ」
 ぽそぽそと話す奏に、セルギスが微笑む。そして、二組ともが相手をしっかりと見つめた。構え、の声と共に奏の手に短剣、朱零とセルギスの手に長剣が召現される。エンジュは構えることなく、そんな緊張感ある様子をじっと見つめる。
「勝負ッ!」
 号令と共に打ち合ったのは奏と朱零。朱零の空を裂く一刀を沈んで避け、奏が内間に踏み込んで突きを放つ。難なく払われて返す刃が降ってくる。ぎりぎりで捌く。瞬きする間の攻防。そのやり取りだけで、奏は彼我の戦力差を思い知った。
「強い……!」
「怯んでる暇ぁねぇぜ!」
「大、嶄――」
「させませんよ」
 袈裟懸けの一刀を短剣で何とか捌く。その隙をセルギスが狙い、足元で光の弾丸が爆ぜた。跳躍して回避したセルギスが狙いを変える。
「ああっと右に奏――それをエンジュいや朱零がっ、じ、実況が間に合わない! 息もつけない攻防だああああ!」
「石がないのが残念ですが……サイコガンだけでもやれるものですね」
 朱零が一方を相手取っている隙を狙えばエンジュが牽制してくる。ならばとエンジュを狙えば必ず朱零が妨害してくる。一瞬でもどちらかのマーク外せれば連携が崩れ去るだろうに、奏達はそれができないでいた。
 奏とセルギスが一瞬視線を交わす。二人同時にぱっと距離を取ると、左右から朱零に肉薄した。即座に精神エネルギーが弾丸になって放たれる。その悉くを二人は回避したが、わずかに動きが送れる。朱零がその隙を捕えた。
「食らいやがれっ!」
「はああああああ!」
 ずくん、と鼓動が高まり、炎のような力の揺らめきが膨れ上がる。振りぬかれた剣の軌跡はしかし、同時に振るわれたセルギスの力に阻まれる。真っ向からのぶつかり合いに朱零が苦しい顔をする。
「っ、させねえ!」
「押し切るよ」
「……とった」
 奏の短剣が消える。再び召現されたのは大ぶりの斧。変化した間合いにエンジュが捉えられる。
「得物を変えたのが失敗でしたね」
 武器の形状を変えるには一度召現を解除しなければならない以上、どうしてもその瞬間は隙が生じてしまう。光の弾丸が斧を弾き飛ばす。剣遣い達の間にもその弾丸は滑り込み、足を取られたセルギスの首筋でぴたりと長剣が止まる。
「勝負あったぁ! 堅実な連携! 絶対に隙を見せない二人! エンジュ・レーヴェンハイム、緋夜朱零の勝利だぁっ!」
 全員が臨戦態勢を解く。どこかすっきりした表情でセルギスと朱零が握手をする。
「負けたね」
「エンジュがいたからな」
 最後の打ち合い、セルギスは押し切っていた。あと一歩エンジュの支援が遅れていたら、やられていたのは朱零だったろう。
「……ありがと」
「こちらこそ。いい試合でした」
 エンジュと奏もまた握手をする。全員で試合場を去ると、必死の応援をしていたサイコヒーリングが全員を治療した。互いの体すれすれを通り抜けた技は少しずつ擦り傷をつけていたのだ。
 そんな激戦を、熱い声援の間を縫って、あくまで冷静な瞳が見つめていた。
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