■プロローグ■
伊予近くの港から数隻の舟が出港し、内海を進んでいた。
「凪いでいて絶好の上陸日和だな」
「はい。こんなに海が凪いでいるのは、年に数回あるかどうか……お社様が皆様を島へ導いているのでしょう」
一隻の船頭に立ち、これから向かう島を臨む女侍
新田義子(にった よしこ)の呟きに、別の舟に乗る、その島から逃げてきた傷だらけの
巫女が応えた。
向かう島、巫女が勤める社のある島は今、妖(あやかし)の水虎と河童によって占拠されてしまっている。
義子は偶然、島から逃げてきたこの巫女を保護し、その場に居合わせた特異者達に島を取り戻す助っ人を頼んだ。
彼女が振り返ると、特異者達は数隻の船に分乗し、義子と同じく島の方を向いていた。
(この凄まじさは何だ! このような気配を纏う豪傑が坂西以外でもごろごろ居るとは、やはり世間は広い!)
義子は一人ほくそ笑んだ。不謹慎と思い、慌てて居住まいを正す。
彼女の実家は坂西にあり、修行と称して諸国を回って遊学し見聞を深めている最中だ。
家にいてはこの豪傑達――特異者達――と出会わなかっただろう、と思ってしまったのだ。
「大丈夫だ、島は取り戻せる、この豪傑達が居れば心配ない! そういえば、島の名とそなたの名をまだ聞いていなかったな」
「島に名前はありません。わたしの名前は――」
「二人とも、そろそろ二手に分かれる時だ」
義子はそんな予感さえしていた。
義子の質問に巫女が応えようとすると、特異者の一人が割って入った。
義子と巫女は別行動を取らなければならないのだ。
「相分かった。それでは、今度は島で会おう!」
「皆様、新田様、ご武運を……」
離れていく特異者と義子を乗せた舟の方に、巫女は祈りを捧げた。
後に内海に浮かぶ名も無き島は水虎島と呼ばれ、『水虎島の戦い』と呼ばれる戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
■目次■
1ページ プロローグ・目次
【1】水虎や河童と戦う
2ページ ~「島に到着、水虎の洗礼」~
3ページ ~「河童達の本気勝負!?」~
4ページ ~「河童達から情報収集」~
5ページ ~「水虎目前!河童と特異者の戦い」~
6ページ ~「水虎との対決」~
【2】島民を逃がす
7ページ ――幕間、侵入前――
8ページ 特異者たち、侵入す。
9ページ 影に紛れ、河童を退治す。
10ページ 陸地へ。
11ページ 巫女の名。
12ページ エピローグ