■序章■
「結構、たくさんいるわね」
特異者たちを前にした夕凪は、少なからず驚いたようだった。
市場や職人たちの工房の集まる左京のそぞろ歩きは、大和の文化や人々の日常を肌で知ることに直結する。大和を庶民の生活面から知りたいとの思いがあるのか、それとも他に意図があるのか、左京見学を希望する特異者は多かった。
「これだけの人数で歩くのは目立つわ……そうだ!」
顎に手を当てて考え込んでいた夕凪は、大きく目を開いて顔を上げた。
「ねぇ、あなたたちは左京の何に興味があるの?」
「甘いものを食べたい!」
「武器職人の工房を見て回りたいのだが」
「きれいな着物を買いたいわ」
「特に希望はないけど、とにかくあちこち見て回れればと……」
特異者たちに尋ねると、すぐにいくつも答えが返ってきた。
「じゃあ、夕暮れ前に市の入口に集合することにして、それまではしたいこと別に分かれて行動することにしましょう。もちろん、その場所までは私が案内するわ」
夕凪は言いながら懐から矢立(携帯筆記具)と半紙を取り出し、左京の南半分の地図を簡略化して描いた。
その半紙を特異者たちのほうに向け、筆の先で場所場所を示しながら説明する。
「今、私たちがいる所から考えると、まずは市場、それから工房地区を回るのがよさそうね。市場では簡単な食事もできるし、いろんな買物もできるわ。
待ち合わせ場所にする市の入り口は誰でも知っているから、もし迷ったらそのあたりの人に聞けば大丈夫。そもそも京の道はどこも碁盤の目状になっているから、あまり迷うこともないんだけどね」
特異者たちはうなずきながら聞いている。異存のある者はいないようだ。
「じゃ、さっそく出発しましょう。あ、私がいないからっておかしなことしちゃダメよ。何かあったら、すぐに検非違使が飛んでくるからね」
■目次■
1ページ 序章・目次
【1】京の街を見て回る(夕凪サイド)
【お買い物組の場合1】
【お買い物組の場合2】
【お買い物組の場合3】
【お買い物組の場合4】
【お買い物組の場合5】
【お買い物組の場合6】
【工房見学組の場合1】
【工房見学組の場合2】
【京で新規開店!?】
【大和の食文化1】
【大和の食文化2】
【公卿区画にて】
【市にて1】
【市にて2】
【夕凪とともに1】
【夕凪とともに2】
【再集合】
【2】京の街を見て回る(希一サイド)
【共に巡る、右京1】
【共に巡る、右京2】
【体験講義、開催致します】
【ふれあい、動物園?】
【紙の矛と盾】
【女装と傍観者】【少女の『描く』もの】
【軌跡を、追って】
【心頭滅却すれば、火もまた……?】【浮かれ二人旅】
【腹が減っては、勉学が出来ぬ?】
【カステーラ天狗、参上!】
【知識を狩る者達】
【見学終了】
【3】左京の邸宅を調べる
【いざ邸宅の敷地内へ】
【邸宅調査1】
【邸宅調査2】
【邸宅調査3】
【式神、襲来!1】
【式神、襲来!2】
【式神、襲来!3】
【大掃除1】
【大掃除2】
【その後】
【4】埴輪の軍勢と戦う
【全ては美酒の為なのか】
【見渡す限り、埴輪の群れ1】
【見渡す限り、埴輪の群れ2】
【見渡す限り、埴輪の群れ3】
【豪傑! 薙刀の女侍】
【一方、埴輪側】
【戦況を動かせ!】
【気が早い祝宴の準備】
【埴輪の性質1】
【埴輪の性質2】
【埴輪を守る者1】
【埴輪を守る者2】
【反撃開始】
【隊長を倒せ1】
【隊長を倒せ2】
【隊長を倒せ3】
終章