自身の武器を具現化し戦う者たちが闇の王ディアボロス率いる軍勢との戦いに身を投じ、激闘の果てに勝利し光を取り戻した世界「
シュミス」。
特異者たちは“執行者”として
救済執行機関エアレーズングに所属し、闇に呑まれたシュミスのために尽力してきました。
様々な問題を抱えながらも、着実に歩まれる復興という名の“光”に満ち始めたシュミスでした……が。
光の陰で蠢く不穏な存在は、少しずつ、しかし確実に光を呑もうと動き出していました。
それは世界に均衡をもたらすのか、それとも光を滅し世界を停滞の果ての終焉に導くのか……? その答えは、今はまだ誰にもわかりません。
ただ、突如市街地に現れた魔物らによって四人もの特異者を奪われた今、光と闇が再び衝突することはもはや避けられない事態となりました。
* * *
地下水路から出現した魔物との戦いを終えた教団は、行方不明になった特異者たちの捜索を兼ねて地下水路の調査を行っていました。
魔物が通ったと思われる痕跡を辿ることで、今回の一件に関与した闇の者たちの手掛かりを得るためです。
四方を警戒しながら地下水路の奥へと歩を進める執行者たちは、その途中で狭い階段を発見しました。階段は水路から上へと続いています。狭いものの、頑丈な地下水路と同じくそう簡単に崩れるような脆いものではなさそうです。
「どうやら、外へと続く階段のようですね。行ってみましょう」
アンネリーゼの指示で、執行者たちは慎重に階段を上り始めました。
アンネリーゼの推測どおり階段は地上に通じていましたが、着いた先はとうに荒れ果てた廃村でした。廃村はひどく重苦しい雰囲気で、そこにいるだけで心が鬱々としてきます。
「随分と瘴気が濃いな。呑まれないように気を付けろよ」
ヨアヒムは他の執行者たちに注意を促しながら、廃村の調査を始めました。その間、アンネリーゼは沈痛な面持ちで皆さんに話します。
「ここは元々、住民の少ない小規模な村でした。小規模な集落は資金も人員も乏しく、自衛の手段を持てないことが殆どです。そのため、闇の軍勢に蹂躙される前に村を離れ、より大きな集落に合流する……それが、当時の住民が取れる唯一の自衛手段だったのです。シュミスには、そうした『忘れ去られた村』がいくつもあります。そういった村々には光を取り戻した今も住民が戻らず、代わりに光を嫌う魔物や、略奪や暴行を繰り返す素行の悪い者たちが寄りついてしまっています」
「機関長、これを見てください」
廃村の中央からヨアヒムが呼びました。元は住民の憩いの場だったのでしょうか、そこはかつて小さな広場だったと思わせるような場所ですが、その光景は異様なものです。
広場には、半ば崩れかけた祠と、祠の前に組まれた祭壇がありました。何本もの黒い蝋燭が立てられた祭壇には血で描かれた魔方陣のような紋様があり、それらが闇崇拝者による儀式の痕跡であることは明らかです。
「ここは、あの魔物たちの単なる通過点ではなく、闇崇拝者たちの拠点だったようですね。瘴気が濃いのもそのためでしょう」
「おまけにこの臭い……動物たちの死骸があちこちに放置されて腐ってやがる。魔物か何かが動物を食い散らかしたんだろうが、食い方からしてこれは相当デカくて凶暴だな」
ヨアヒムでさえ顔をしかめるほど、廃村のあちこちには動物の残骸と思われるものが散らばっていました。
「ア、アンネリーゼさま、わたし、これ、見たことがあるような……」
そう言って、
シャティがおどろおどろしい祭壇に手を触れました。直後、シャティの顔に驚きと戸惑いの表情が浮かびます。
「シャティ、どうしたのですか?」
アンネリーゼが問うと、シャティは上手く表現できないことに困ったような顔をしながらも、
「あ、こわい人たちがたくさん並んで、わたしにお辞儀してるような、そんなのが見えて……。お、おかしいですよね? わたし、会ったこともない人たちなのに……」
「シャティ、祭壇から手を放しましょう! それ以上あまり考えないで――」
周囲の瘴気の濃さが一気に変わったことにいち早く気付いたアンネリーゼがシャティを祭壇から引き離しました。シャティを遠ざけるや否や、彼女が立っていた辺りの地面から瘴気が凄まじい勢いで噴出します。
間一髪のところで瘴気を避けたアンネリーゼたちでしたが、今度は広場の近くにある廃墟から巨大な怪物が壁を突き破って出てきました。熊のような猛獣を彷彿とさせる姿をした怪物は、咥えていた動物を捨てると、耳をつんざく咆哮を上げてシャティに突進します。
「シャティ、下がってください!」
アンネリーゼは十字架で魔獣を殴り飛ばし、更に大量の光を浴びせました。魔獣は派手に地面に叩きつけられましたが、崩れかけの祠から漂い出る瘴気が魔獣の糧となり、アンネリーゼの光をも浸食して消し去ります。
「あの祠がある限り、この怪物は私たちを襲うようですね。皆さん、あの祠を早急に破壊しましょう!」
アンネリーゼがそう言った時です。
「あんなにあっさり吹っ飛ばされちゃって、本当に『儀式の賜物』なの? あたしが行った方が絶対良かったよね!」
「うん、ブリギットちゃんなら二、三人の首を斬り飛ばせただろうね。でも、あんまり前に出られると心配だなぁ」
「もうっ。また始まった、エージくんの心配性!」
瘴気の噴出から逃れてすぐ、アンネリーゼたちの前に見覚えのある二人が姿を現しました。先日の魔物たちとの戦いの最中アンネリーゼを守ってくれていたものの、謎の攻撃を受け行方不明になってしまった
衛司・ヨハンソンと
ブリギット・ヨハンソンです。
二人の仲睦まじさは相変わらずですが、彼らの顔は青白く、目は虚ろでかつての生気を感じません。
「衛司さん、ブリギットさん……やはり憑き人にされてしまっていましたか」
呟きとともにアンネリーゼが眉間に皺を寄せると、
「わたしたちもいるですっ。光の人たちの好きにはさせないですよ!」
「どのみち、あの『異界の怪物』を前にして逃げおおせた者はこれまでいない。君たちにはここで命尽きてもらう」
と、
草薙 コロナと
草薙 大和も廃墟の陰から出てきました。二人もまた、その風貌と言動から憑き人化したと見て間違いなさそうです。
憑き人化し特異者たちの背後では、魔狼の群れが唸り声を上げながらアンネリーゼたちを睨んでいます。
「機関長、オレは一緒に戦っていながらあいつらを助けられなかった……このケジメ、オレに付けさせてください。あいつらのことは引き受けるんで、機関長は祠とそこのデケェ熊野郎を頼みます」
「わかりました!」
大剣を抜き不敵な笑みで憑き人たちを見据えるヨアヒムに、アンネリーゼはシャティの手をぎゅっと握りながら頷きました。そして、特異者たちに声を上げます。
「皆さん、この場を制しなければ闇の者たちの目論見も見えず、シュミスの未来も暗いものとなってしまいます。共に戦いましょう!」