――学園都市クレイドル。
神話の力を宿した学生たちが暮らすこの街は、トラブルの絶えない巨大都市です。
トラブルの規模は学生同士の喧嘩から、高層ビルがいくつも倒壊するレベルのものなど様々であり、
特務機関「S.C.A.A.D.」はそれらのトラブルが起こるたびに出動します。
S.C.A.A.D.の職員
メメは
聖ディシプリナ学院の生徒会、『円卓(ラウンドテーブル)』の一人である
鷲ノ宮杏子に招かれて学院の生徒会室でのんびりティータイムを過ごしていました。
「今日はお招きありがとうございます。ところでどういったご用件でしょうか」
「ああっ、そうです。忘れていました」
少しばかり世間話を楽しんだ後にメメが切り出すと杏子は慌てて背筋を伸ばすと会議用のタブレットを取り出しました。
「杏子さん、お疲れのようですね」
「色々立て込んでいますので……実はまた我が校の敷地内で不穏な出来事が起きているのです」
杏子はタブレットに地図の画面を呼び出しました。
古い歴史がる聖ディシプリナ学院の校区の一角に美しい庭園が広がっています。
薔薇に覆われた庭のあちこちに古い墓石が置かれているのですが、生徒たちはそうとは知らず多くのカップルが腰掛けてお弁当を食べたりしていました。
「どうも最近、何者かによってこの墓石がいくつか動かされたようなのです」
杏子はタブレットに庭園を上空から見た画像を映し出しました。ごく最近の画像のようですが確かに墓石の位置が変わっています。
庭園は聖ディシプリナ学院園芸部が手入れをしていますが、その中央に部室を兼ねた小さな温室があります。
「この温室の地下に大きな空間があることがわかりました」
ある時温室の床の一部が開き、地下へ降りる通路があることがわかりました。
通路はかなり奥まで続いていて、両側にも扉がいくつかあり、その先にも空間が続いていると思われました。
「おそらく、
巨大な地下墓地(カタコンベ)があると思われます。
扉は頑丈でどうやっても開かなかったのですが……メメさん、こちらを見てください」
今度の画像はかなり古い時代の図面を写真に撮ったもので、庭園の墓石が何かの図形を示すように並べられています。
それが何パターンかあります。
「図面は地下墓地の最初の部屋に残されていたものです。おそらく、墓跡の配置で地下の扉が開く仕掛けになっているようです」
そのため生徒会「円卓」が本格的に調査を開始することになり、その協力をお願いしたいということでした。
その時、生徒会室に報告が入りました。
「大変です! 図面の画像がネットに流出しています!」
ほぼ同時に大きな衝撃音と新たな報告が入りました。
「大変です! 庭園に神影が入り込んで暴れています!」
神影は生徒がいるのにも構わずあちこちの墓石を持ち上げて移動させているようでした。
「石を動かすと地下ダンジョンの扉が開くらしいぞ!」
「こういう地下の中にはお宝が眠っているというパターンに決まっている! 早い者勝ちだぜ!」
どうやらSNSで地下墓地の噂を聞きつけ、声を掛けられて集まった集団のようで、
クレイドル実業高校や他校の生徒が駆け付けてきているようです。
「調査を行うためには“墓荒らし”の排除も必要のようですね。
ただ……一つ聞いてもいいですか? 地下墓地にアレとかって……残ってないですよね?」
「もちろん残ってはいません……たぶん……えーと、ないかな?」
メメの問いかけに杏子の返答は曖昧なものでした。
「わ、わたしはそういうのが得意ではないので……特務員さんに丸な……いえ、お願いしましょう」
メメは端末から特務員へ向けて依頼文を発信しました。
「この庭園にあるバラ園は告白すると必ず結ばれる隠れ恋愛スポットという噂の……いつかは私も……、
コホン、とにかくこれ以上うちの生徒に庭園を破壊させるわけにはいきません……」
「“墓荒らし”なんてバチ当たりな行為は許せないな。
グレン伝説の一節として、早々にお引き取り願おうじゃないか!」
灰島トーカと
竜塚グレンも騒ぎを聞いて駆けつけました。
依頼を受けた特務員も地上と地下に分かれて対応に乗り出しました。
◇ ◇ ◇
――地下の奥深い場所
その暗い空間の中でゆっくりと起き上がる人影がありました。
不気味に目が光りボロボロの布を纏っています。
その人影は数を増やし、暗い通路を徘徊し始めているのでした。
そして“墓荒らし”や調査隊とは別の動きをする人物がいました。
その人物は“墓荒らし”の騒ぎに紛れて地下墓地内に入り込み、何かを探しているようでした。