――スクラヴィア連邦共和国軍、スカイフォートレス、ブリーフィングルーム
エティエネット・チアキ大尉は会議の参加者の前で、軽く咳払いをします。
「今回の作戦は、ロスコモン島の奪還よ」
第一声を聞いた参加者たちは、会議中にもかかわらず騒然とします。
スクラヴィア連邦共和国軍はイカルスバッテリーの開発の成功により、
ようやくアルクティカ統合国軍に対抗できる戦力を手に入れ、
様々な島(=スペースコロニー)を奪還してきましたが、いずれも戦略上重要な拠点や有益なコロニーでした。
しかし、
ロスコモン島は砂漠に覆われた島であり、資源もないと知られていました。
元々、スクラヴィア連邦共和国のコロニーだったロスコモン島ですが、だからと言って、ここを奪還する理由が乏しかったのです。
「調査、索敵の結果、ロスコモン島にはアルクティカ統合国軍の補給基地があると判明したわ。
これを攻略し、アルクティカ統合国軍の補給線を断つ、もしくは後退させるのが今回の目的よ」
それを聞き、参加者は納得します。
資源・人口的に乏しくとも、ロスコモン島は現在のいずれの前線にも近い島でした。
そこにアルクティカ統合国軍は秘密裏に補給基地を建造し、補給路を造っていたのです。
ここにきてようやく、こちら側にプラスになる攻撃ではなく、
相手側にマイナスになるような戦略を、スクラヴィア連邦共和国軍は打ち出しせるようになったのです。
「現地の状況は調査済みよ。配置されている戦力も概ね把握しているわ」
モニターに表示されているのは、一面が砂漠に覆われている中にある補給基地と、
周辺に配置されている、砂漠戦仕様のタクティカルジャケット、
ソウトです。
「アルクティカ統合国軍は既にこちらの動きを察知していて、戦力を増強している可能性があるから、規模は概算よ。
不測の事態は当然のように起こりうるわ。
そのために……アリス・エイヴァリー市長、無理を承知でお願いするわね」
「なんか、また便利に使われてる気が……まぁ、仕方ないですね」
コーク島の都市、ノーマンの市長である
アリス・エイヴァリーも、今回の作戦に参加しています。
彼女は自称ものぐさ市長でありながら、優秀なタクティカルウォーリアーであると同時にメカニカルパーサーでもありました。
チアキとしては、強敵の出現を想定しているようですが、誰が配置されているかについては、
先んじて行っていた調査では不明でした。そのため、臨機応変に対応できる、アリスに協力を要請したのです。
「補給基地の攻略は、陽動を用いるわ。
恐らく、敵軍は砂漠におけるソウトの機動力を活かして、こちらを翻弄してくるはず。
それを逆手に取り、防衛部隊を補給基地から引き離し、空いたところを落としにかかるわ」
やることは単純です。
しかし、敵戦力は環境に適した機体を配置しており、まともに当たれば不利となる状況です。
「以上よ。各員、健闘を祈るわ!」
苦戦を覚悟し、スクラヴィア連邦共和国の戦士たちは気を引き締めるのでした。
△▼△▼△
――ロスコモン島、アルクティカ統合国軍補給基地。
「索敵範囲を広げろ。そろそろスクラヴィア連邦共和国軍も本腰を入れて来るだろうからな。
少しでも敵影を捉えたら、全速力で戻って来い。一人で戦おうなどと思うな」
補給基地を指揮していたのは、
ノイマン中尉です。
ノイマン中尉はその戦闘能力、指揮能力には定評があり、部下からの信頼の厚い人物です。
これほどの僻地に配置されながら、部隊が毛ほども士気を下げないのは彼の存在があるからと言えます。
「あたしが全部斬り刻んでやるよ」
その傍らには、
“鉤爪の禿鷹”バーチェの姿もあります。
僻地の補給基地でありながら、アルクティカ統合国軍は迎撃態勢を万全に整えていました。
「お前は防戦には向かない性格のようだな」
「だったらなんだ? あたしに亀のような守りの中で戦えってのか?」
バーチェは獰猛な性格をしており、多くの敵を屠ることを旨として戦う戦闘狂です。
その攻撃的な性格は、守りよりも攻めに活きるといえるでしょう。
「いや、鉤爪の禿鷹殿には、存分に暴れてもらう。思う存分敵陣を斬り裂くがいい」
「あたしの使い方がわかってるじゃねぇか。任せな!」
拠点を守るという作戦の中、ノイマン中尉が考えるバーチェの起用方法は遊撃でした。
整然と攻め寄せるスクラヴィア連邦共和国軍に攻め込んで掻き乱すつもりなのです。
「だが、絶対に無理はするな。女房が言うには、
生きて帰れば次がある、ってな。
お前の場合だと、次の戦場に行ける、ってところだろうが……死んだら終わりだ」
ノイマン中尉は、その能力の高さから軍上層部からも信頼を勝ち得ていましたが、
それでも尉官に留まっているのは、決して部下に無理をさせないため、軍功が控え目になっているからでした。
ノイマンの部隊は生還率こそ高いものの、そういった方針があって軍内での地位は低めです。
「その口ぶりだと、お前の女房もぬるい考えで指揮してそうだな」
「……いいや、女房は、民間人かだった。娘もな……」
重い空気が流れ、戦闘狂のバーチェでさえノイマンの現状を察します。
「……まぁいい。使われ方に不満はねぇ。存分に暴れて来るぜ!」
「任せたぞ、バーチェ中尉」
僻地のコロニーで、熱砂の激戦が始まろうとしていました。