創世神フィルマによって創られた
“栄光の世界”マグメル。
かつての侵略者
“魔王”率いる
魔族の復活がささやかれ、人間の国家も内外に争いの種火が燻る中、
世界の行く末を案じた創世神フィルマは、ふたたびマグメルに秩序を取り戻すべく
異世界から「来訪者(ゲスト)」を招き、「天技(チートスキル)」を授けて送り出していました。
そんなマグメルに来訪者が馴染み、四大国の権力者たちが“勇者”を擁立しようとし始めた頃。
大陸全土を震撼させる噂が流れ始めました――
△▼△▼△
『魔王が復活した』
東方帝国のとある冒険者たちによって流布されたその報せは、瞬く間にマグメルの四大国へと広がって行きました。
目撃者が冒険者しかいないため、くだらない眉唾物だと吐き捨てる者もいれば、
すぐに魔王の襲来に備えようとする者もいます。
そんな中、南方に位置する湖南連合の砂漠では、大規模な異変が生じていました。
「砂漠の中から都市が浮かび上がってきた?」
会議中の連合議会に、ひとつの報告がもたらされます。
連合議会は魔王復活の報を受け、どう行動するかの話し合いが行われていたところでした。
湖南連合は都市国家の連合体ですが、主要な都市の多くはバージス海、あるいは外海沿岸にあり、
内陸部ではオアシスのある場所でなければ、とても人間が住めるような環境ではありません。
にもかかわらず、オアシスもない砂漠の中心部に突然、大規模な都市が出現したというのです。
「それは確かか? 幻ではないのか?」
議員の一人が、報告者に問います。
「はっ! 実際に都市の外壁に触れた者がおり、実体のある建造物であることが確認されています!」
議員たちは怪訝そうな顔を互いに見合わせます。
「冒険者ギルドの歴史学者いわく、おそらく人魔戦争よりも昔、創世の時代の遺構である可能性が高い、とのことです」
続く報告者の言葉によると、
現れた都市は、創世の時代に存在した都であり、魔族の攻撃によって滅び、砂漠に埋もれてしまったもののようです。
「人魔戦争以前の遺跡となると、創造神の強力なアーティファクトが眠っている可能性は低いな」
「は……しかし、何やら都市には多数のアンデッドがおり、何かを守っている様子だという報告も上がっております」
興味なさげな表情をしていた議員たちは、一斉に目の色を変えます。
それらのアンデッドは、わかりやすく宝を守っている守護者としか思えなかったからです。
議会ではただちに冒険者ギルドを通じ、都市の調査を冒険者に依頼する事が決定されました。
「……報告ご苦労だった、下がって良いぞ。さて、私はこれで失礼しよう」
そう言って立ち上がったのは、二大国家のひとつ、
「マナナン」の首長でした。
「ならば、本日の議会はこれにて解散ですな。皆、魔族に関する情報があれば、すぐに共有するように頼みますぞ」
次いで立ち上がったのが二大国家のもう一方、
「マクリール」の首長です。
この二国は、表面的には友好的ですが、実際のところは連合の主導権を握るために水面下で争い、
お互いに先んじて“勇者”を擁立しようとしている国家です。
そのため今回のように、遺跡で有益な遺物(アーティファクト)が見つかる見込みがある場合は、
即座に動いて出し抜こうとします。
勿論、表立って行動するようなことはしません。
マナナンもマクリールも、議会の決定の裏で“本命”であるお抱えの冒険者に依頼するのでした――。
△▼△▼△
――――マナナン、とある冒険者が滞在する宿。
「以上が依頼になります。急ぎ、出現した遺跡へ向かっていただきたい」
「……いいだろう。くく、この右腕の疼き……その遺跡には、確実に何かがある。
先日の一件で俺の力は次のステージに進んだ。
だが、この力はいずれ俺を飲み込むかもしれん……そうなる前に」
マナナンお抱えの冒険者は、
“闇の右腕(ダークライト)”キョーマでした。
彼は
東方帝国領の魔族遺跡調査で、帝国の来訪者に後れを取りましたが、
今度こそは成果を得ると意気込んでいる様子です。
「……いや、今聞いた事は忘れてくれ。
言われた通り、すぐに出発しよう。安心してくれ、遺物はこの“闇の右腕”が必ず持ち帰る……」
キョーマはそう言うや否や、宿から飛び出しました。
(なんかキョーマさん、前よりチウニ病悪化してません? ほんとに大丈夫でしょうか……)
△▼△▼△
――――マクリール、とある診療所。
「そうですか、そんなことが……」
マナナンのキョーマと同様の依頼を受けていたのは、
“光の貴公子(プリンスオブシャイン)”ジョンです。
ジョンはアコライトとして、診療所での診察や治療を手伝っている最中でした。
「かしこまりました。私もすぐに出ましょう」
しかし彼は依頼を聞くと、すぐに準備を整え出しました。
「ジョン殿、診療所の仕事は問題ないのですか? その、ひと段落ついてからでも……」
何故ならば、ジョンはそれまで診ていた患者を他の人に任せ、出発の準備を始めたからです。
「お国からの依頼となれば、何よりも優先せねば。それに、ここでは私の代わりなどいくらでもいますから」
ジョンはそう言って笑います。
謙虚な発言と、光の貴公子と呼ばれるほどの眩い笑顔で、依頼人の女性はうっとりしてしまいました。
その間に、ジョンは準備を終え、出発しました。
(話を聞くに、マナナンも既に動いているはず。あんな診療所で無駄な時間を過ごしている場合ではありません。
まったく……善人を演じるのは疲れますね)
“光の貴公子”ジョンはその眩い存在感の陰で、腹に一物抱えていました。
現地で出会うであろうキョーマや冒険者たちを出し抜くため、彼は遺跡を目指します。
△▼△▼△
――――湖南連合中央砂漠、古代都市。
「ふはははは! この広大な都市! これこそ我が魔族を統べる地に相応しい!
ヒト種族が嗅ぎ付ける前に、ここを我のものとする!」
砂漠に突如として出現した都市に、幼い少女の高笑いが響いていました。
その声の主こそ、現代に復活を果たした……と自称する
“魔王”です。
自身の降臨に合わせたかのように出現した遺跡を見て、彼女はテンションが上がっています。
都市のアンデッドが、何故か魔王に対して敵対的な行動を取っていることにも気付いていません。
「ところで魔王様、アンデッドを手懐ける術はお持ちでしょうか?」
魔王の隣に立つのは側近のダークエルフ、
ブラントンです。
流石に冷静な彼は、アンデッドが魔王に従っていないことに気付いている様子ですが、特に行動はしていません。
「なに、所詮は意思なき死者じゃ。我の魔力をもってすれば皆跪き……な、なんで言う事を聞かぬ!?」
魔王はアンデッドの群れに見せつけるように、自身の強大な魔力を練り始めましたが、
アンデッドは全く意に介さず魔王へと向かっていきます。
「……ああ、どうやらネクロマンサーのスキルが必要なようですね。
と、いうことはこの死体どもは過去、かけられた術によって操られている、と。ふむ」
ブラントンは、尚も冷静に現状を分析している様子で、全く助太刀する気配はありません。
「見てないで助けるのじゃ!」
「魔法で吹き飛ばせばよいでしょう。
それより、複数のヒト種族の魔力を感じましたので、私は部下と共に様子を見てきます」
そして薄情にも、ブラントンは遺跡に近づくヒト種族の対処に向かってしまいました。
「あぁんの長耳男がぁ~! 戻ってきたら承知せんぞぉぉぉ!!」
遺跡の出現を察知した冒険者と、湖南連合から派遣される冒険者、そして魔族が遺跡に集合します。
戦いの行方は、そして遺物は見つかるのでしょうか――