軍船の甲板に立ち、過ぎ去る水平線の向こうを眺める男性の姿がありました。
彼の名は
マークフェルド・レイテノール。
神聖セレスティア皇国の水軍軍監で、皇位継承者候補の1人と目される人物です。
物思いに耽るマークフェルドに、騎士のような身なりの女性がそっと近付きました。
「オーディリアか」
心配そうな表情を見せる女性は
オーディリア・ダイン。
港湾都市ファリアレオンに配属された武官で、マークフェルドの恋人である
カレン・シャルロアとは同郷の親友であもありました。
先の戦いの失態により石化という重罰に処されたカレンを救おうとしましたが、それが叶うことはありませんでした。
マークフェルドはオーディリアに視線を向けましたが、再び海の遠くへ目を向けました。
「マークフェルド……カレンのことは、私だって貴方に負けないくらい悔しい思いでいるわ。でも今度こそ、カレンを元に戻せるチャンスが巡ってきたと思っているの」
「どういうことだ?」
「太陽帝国革命軍と名乗る者たちが、ウルバントの反乱に加担したりと不穏な動きをしているようなの。その者たちを捕らえるなりして功を立てれば、皇帝陛下に嘆願が許されるはず」
「太陽帝国革命軍か……」
「マークフェルド。貴方にソル・アトスの加護があらんことを。良い知らせに期待していてください」
オーディリアはそう告げてマークフェルドに背を向け、乗船している部下たちに向かって声を上げました。
「間もなくファリアレオンよ。下船の支度を」
◇ ◇ ◇
コスメラソスのとある酒場にて。
酒の注がれた木のジョッキを手に、機嫌良さそうにテーブル席の方へ歩いて行きます。
武器を携帯しているところを見ると、傭兵や冒険者の類というところでしょうか。
「よう、久し振りだな! 聞いたぜ、儲けられそうな面白いことになってるみたいじゃねえか」
空き席に腰を下ろしながら、同じような身なりの男たちに話しかけるが、男たちは冷ややかな反応を見せます。
「ああ、どうせ
デメトリアス城塞の話だろ? 俺達もその話題で盛り上がっていたんだ。さっきまではな」
「賊に奪われたと聞いたが、どうやらただの軍事演習だったってオチだ」
「え、演習だって!? 」
「ファリアレオンに出兵してるから、ヴィゼルニムの侵攻に備えてのことらしい」
「せっかく退屈な商隊の護衛にオサラバできると思ってたのに、チクショー!」
◇ ◇ ◇
神聖セレスティア皇国本土との海洋交易の玄関口である
港湾都市ファリアレオン。
コスメラソス地方の各都市からの商隊が絶えることのなかった街道にはセレスティア皇国の軍団が布陣し、ファリアレオンの城塞の上にはそれと対峙するかのように、同じくセレスティア皇国の兵士が睨みをきかせています。
それにより人々の往来は塞き止めてられ、ファリアレオンに入れない商隊が列を成し、この状況に諦めて去る者たちも少なくありませんでした。
「我々はここでもう5日も滞在しています。いつまで待てば良いのでしょうか!?」
膠着した状態にただ時間を無駄にさせられている商人が業を煮やして兵士に詰め寄ります。
「ファリアレオン都市長官の叛意の疑いが晴れるまでだ!」
コスメラソス総督
グラーニヒドは、約2ヵ月ほど前、ファリアレオンの都市長官
クセルクセスに叛意があると察知し、デメトリアス城塞等に配置していた常備軍を掻き集め、1万5千に近い勢力でファリアレオンの包囲が完了したのが半月前のことです。
交易を断ち、干上がらせることが狙いでした。
物資の流通がままらないことはもちろん、市民の多くが交易に関連することで益を得ているため、市民にとっても死活問題でもありました。
ファリアレオンの軍港に降り立ったオーディリアを待っていたといわんとばかりに、兵士たちが囲むように寄って現状を報告します。
「総督閣下はどういうおつもりだ!」
報告内容に思わず声を荒げるオーディリア。
「行くわよ!」
追い付けた少数の部下たちと共に馬を走らせました。
◇ ◇ ◇
「怪我したくない者はどけ!」
ファリアレオンから駆け出したオーディリア一行は、街道を進んで包囲する兵士たちに突進し、強制的に道を開けさせました。
その覇気に動揺しているコスメラソス兵たちを牽制しながら、足止めされたいた隊商たちに進むよう促しました。
「我々は約束を違えていない。それを違えて無理な要求をしているのは総督閣下だ!」
兵士たちが態勢を立て直す前に、オーディリアは自身たちが潔白であると訴えます。
状況の異変に丘の上から一騎が駆け下りてきます。
「言うな、オーディリア殿。そなたの言い分は理解している」
「スレイア殿! ではなぜこのような。物流の停滞はファリアレオンだけでなく、コスメラソス全体の損害になることは分かっているはず」
単騎でオーディリアたちの前に現れたのは、
スレイア・レドリック。
コスメラソスの一軍を預かる将軍で、政治手腕にも長け、総督
グラーニヒドの補佐を務めている人物です。
「総督閣下の御命令である以上、それは絶対だ」
「それでは納得できるものではない」
「……少し、落ち着いた場所で話そう」
スレイアはこの場に駐留していた隊商の通過を許可するよう兵士たちに伝え、オーディリアを伴って陣へ移動しました。
「威嚇の範囲の内に、クセルクセス殿には総督閣下の意向に従ってもらいたい」
「エルザ様はまだ11歳なのよ。約束の14歳まであと3年あるというのに」
コスメラソス総督グラーニヒドは、ファリアレオン長官クセルクセスの娘エルザを妃に加えたいと2年ほど前に要求し、当初は先送りにしようとしていましたが、執拗な要求に断り切れずに14歳になったらということで合意したはずでしたが、気が変わったとして直ちに迎え入れたいと要求してきたのです。
病気等を理由に断り続けていましたが、思い通りにならないグラーニヒドは派兵に至ったというのが経緯でした。
「……総督閣下の下僕になってまで出世がお望みか」
「当たり前だ。マークフェルドたちのような他国の者に祖国を奪われてたまるか。戻ってクセルクセス殿に決断をさせるのだ」
◇ ◇ ◇
州都
コスメラソス────
「総督閣下、お待ちください」
総統と呼ばれた細身の男とは対照的な、屈強な体格の男が片膝をついて頭を下げます。
神聖セレスティア皇国では本土以外の所領は属州と呼ばれ、属州の最高権限者が総督であり、議会によって選出されますが、能力よりも皇家の血筋等、 皇帝との続柄や家柄が重視される傾向にあります。
コスメラソス総督グラーニヒドは、アレクサンドロス帝の従弟にあたる間柄で、身分や格式を重んじる傾向が強い人物です。
「ゼルドム二千人長、私を呼び止めるとは何事かね」
明らかに不満そうな表情で
ゼルドムを見下ろします。
「デメトリアス城塞の守備兵たちを投獄されたと聞きましたが、どういうことでしょうか」
「此度の失態、臣民に不安を与えることなく、内々で早期に解決することが肝要である」
「情報隠蔽するのに緘口令では足りず、投獄されたというのですか」
「失態を犯し、戦闘を放棄した時点で処しても構わない身分の者たちだぞ。それに敵と内通している者がいるやも知れん。そういえば投獄した奴等の中に貴様の弟がいるんだったな。無能な弟を持つと大変だな。下等の分際で我に意見するな」
ゼルドムはコスメラソス出身の二等国民で、任務に忠実な優秀な軍人でしたか、その出自ゆえに重用されることはありませんでした。
「貴様がデメトリアス城塞を奪還できなければ、投獄兵たちは処するものと思え」
◇ ◇ ◇
「私たちの活躍がみんなに知られてないだって!?」
声を荒げる
モニカに、
マリレーヌが答えます。
「今回のことが事実だと知れ渡れば、支配者層の責任問題になるでしょうから、そのような作り話を流しているのでしょう。コスメラソスの膝元をいきなり奪われるだなんて信じ難いでしょうから、軍事演習だと言うほうが信憑性があるのかも知れません。モニカは面白く思わないでしょうけど、これはチャンスです」
「チャンス?」
「そうです。この先の戦いでは少なからずの血を流すことを覚悟しなければなりませんでしたが、この作り話を利用すれば進軍も怪しまれず、もうひと拠点を労せずに手に入れられるかもしれません」
「でも、そのせいで協力してくれる人も集まらないみたいじゃん」
革命軍が僅かな人数でデメトリアス城塞を陥落させたことは驚異的なことで、それによって同志が増えることに期待を持つ者も少なくありませんでしたが、現実はそうではなかったのです。
口を尖らせているモニカに、マリレーヌはモニカに向きつつも、その場にいる者たちに諭すように言いました。
「コスメラソス州の人々から見れば、同じ国の中で本国の人々との差を不満に思っている方も少なくはないでしょう。でもそれは、この地に生まれてからずっと続いていることで、自身たちより下位の人々もいて、上を望んでもキリがないし、騒動に巻き込まれて家や大切な人を失うかも知れないと考えたら、危険を冒したくないと思う人々が多くても自然なことです」
「自分たちの誇りを取り戻せるというのに?」
「コスメラソスが独立国だったのは、1000年以上も昔のことよ。それにセレスティアから解放されることで、自立はできても、多くの人々にとって、それが今の生活よりも良くなるなんて分からないし、私たちも保証できないですからね。目先の利益が見えないと、民衆の多くは動かないものなの。逆を言えば、不利益になると知ったら敵になるかも知れないということ」
マリレーヌはそう言って、
ユーフォリアの正面に立って言葉を続けます。
「私たちはモニカに付き合って、ここまで流れてきました。この先は何のために戦うと言うの? アクセル殿が掲げる格差や奴隷制度の解消がユーフォリアの理想なの?」
「我が国には奴隷制度というものがないからかも知れないが、そんなことを望まぬ人々が、誰かに支配されて酷使される。そんな世界は間違っていると思う。だから私はアクセル殿に協力することで、自分が理想とする国の形が見えるような気がする。だから今は共に戦う」
「そう。分かったわ。ユーフォリアがそう言うなら、私も共に行きましょう」
ユーフォリアに付き従う者たちにとっては、彼女の言葉で目標を示してもらう必要があり、マリレーヌは敢えてそのような問いをしたのでした。
――デメトリアス城塞
「よし、話がまとまったところで、軍師様としてはこれからどういう方針にするんだい?」
太陽帝国革命軍のリーダー、
アクセル・バルトロメイがマリレーヌに尋ねました。
彼の元には革命軍の者たちがひっきりなしに訪れて報告を行っています。
革命軍に協力を申し出ている協力者も僅かながらいれば、食糧なども運び込まれているからです。
「私が軍師など荷が重すぎますが、ここを革命軍の拠点にしても大丈夫なのでしょうか?」
「……ああ。その点については抜かりはない」
デメトリアス城塞は、コスメラソスの対ヴィゼルニム帝国の要衝であるが故、ここを拠点としてコスメラソスと対峙するには背後にヴィゼルニムの脅威も抱えなければならない場所であった。
「なるほど……神聖セレスティア皇国と集中して戦える、ということですね」
マリレーヌはアクセルの行動力の高さに感心しました。
「この戦いはコスメラソスさえ陥落させれば済むというものではありません。この地からセレスティアの勢力を排除することができれば完全な勝利です。ですが、我々の勢力では、それは無謀としか言えません。コスメラソスおよび主要都市のいくつかを支配下に置き、セレスティアと交渉で戦いを終結させることが良いと考えます」
「それで最初に狙うのはどこだ?」
「交通の要衝で、コスメラソスを南北に分断できる、
交易都市ランツバウム。ここを押さえられれば戦いは有利に進められます。そして、いずれは本国からの増援を阻止するため、最大の軍港があるファリアレオンを押さえたいですが、私たちも手近な港が欲しいところです」
「どちらもコスメラソス地方の解放には避けては通れないが、デメトリアス城塞を奪還されないよう防備を固める必要もある」
革命軍の戦力が少ないため、戦力をどこに向けるかという慎重な選択が迫られています。
「港が必要なら、
イヨールを攻めるべきだろう」
腕組みをしながら壁に寄りかかって話を聞いていた男が、そう進言しました。
「ガトー。勝算はあるのか?」
デメトリアス城塞を陥落させた以降、革命軍に加わった少ない仲間のひとりの男でした。
名は
ガトーと言い、レイテノール王国騎士の従者だった過去を持ち、レイテノール併合後は各地を旅していたという黒衣の剣士です。
神聖セレスティア皇国がレイテノールを併合する際の戦いにて、顔に深い傷を負ったということで仮面で顔を隠しており、剣の腕は確かなようですが、寡黙で近寄りがたい雰囲気の男だけに、その進言に注目が集まりました。
「イヨールは港のない州都コスメラソスのために造られた交易都市だ。大きな港はあるが、海軍力はなく、都市防衛もコスメラソスに依存している。コスメラソスの兵力が整っていないなら、難しい相手ではないだろう」
「なるほどな。奴等がデメトリアス城塞に兵を差し向ける分だけ、我々にとっても好都合と言う訳だな。イヨール攻略とここの防衛に軍を分けるのはどうだろうか」
アクセルの意見にマリレーヌが口を挟みました。
「いえ、ここはランツバウムとイヨールの両面に展開すべきかと思います」
「しかしそれには戦力が心許ないし、ここの守りだって必要だ」
方針が定まり切らなかったその時、デメトリアス城塞の見物の塔で見張りをしていた解放軍のメンバーが、息急き立てて表情の間へ飛び込んできました。
「リ、リーダー! な、謎の一軍が現れやした!」
◇ ◇ ◇
ユーフォリアとマリレーヌ、アクセルは急いで物見の塔へと昇り、謎の一軍を見ました。
少なくとも神聖セレスティア皇国の旗を掲げていないところを見ると、敵では無いようです。
先頭には白銀の髪の女性がいました。
「!?」
「フォル!?」
その姿を認めた瞬間、ユーフォリアは慌てて物見の塔を駆け降り、一軍へと走ってゆきました。
その尋常ならない様子に、マリレーヌやアクセルも慌てて後を追います。
(まさかまさかまさか)
夢や幻ではないで欲しい。
ユーフォリアは元王女らしからただひたすらにがむしゃらに、一軍を率いる女性の元へ駆けていきました。
そして女性の顔を見た瞬間、
「……嗚呼……」
流刑となって我慢していたものが一気に噴き出すかのように、両目から止めどなく涙が溢れてきました。
「……大きくなられましたね」
女性は騎乗していた白馬から下馬して、地に片膝付いて礼を執りました。
「……お、お顔を上げてください。さ、最後にお会いしてから時が経ちましたから」
「しかし、一軍の将たるもの、人前で涙を流す者ではありません。噂を聞いて駆け付けましたが、まだまだですね」
言われて女性――
シルヴィヤンカ――は立ち上がり、微笑みつつも厳しい言葉をユーフォリアに投げ掛けました。
彼女は差し出されたハンカチで溢れ続ける涙を拭い、無理矢理にでも毅然とした表情をシルヴィヤンカに向けました。
「今までの歳月、私はあなたのようになりたく、努めてきました……でも、ダメですね。この程度で泣いては」
「感傷に浸るのは後でもできること。あなたたち解放軍の話は聞いています。私たち傭兵団『紅玉団』も及ばずながら力になりましょう」
「これがフォルが言っていた傭兵団『紅玉団』……」
「初めて見たが、本当に存在したんだな……」
再び現れたシルヴィヤンカと彼女が率いる
傭兵団『紅玉団』は、解放軍に協力する旨を伝えました。
ユーフォリアから話は聞いていたものの、初めて見るシルヴィヤンカと『紅玉団』の錚々たる面子に、多少のことでは動じないマリレーヌも驚きを隠せません。
アクセルも同様に、自由都市シュトルツ・ルビンの祖である『紅玉団』は、彼にとってはおとぎ話のようなものです。それが目の前にいるのですから、驚くな、という方が無理というものでしょう。
◇ ◇ ◇
「ここには私が残って敵軍を足止めします。働き手を30名ほど貸していただければ」
デメトリアス城塞の守備に、マリレーヌが手を挙げました。
セレスティア側が奪還に来ることは確実であり、どの程度の規模の敵軍が押し寄せるかも未知数です。
「相手は何千人かも分からないのに、それだけの人数で守るなんて無謀すぎる。皆で守るべきではないか」
マリレーヌの提案にユーフォリアが反対します。
「今、必要なことは前線に戦力を集中させ、相手側の準備が整わないうちに不意を打つこと。相手側に私たちの全容が知られて、防衛に徹底されたら厳しい戦いになってしまうから、今は攻めることが重要なの」
「でも……」
心配を隠し切れないユーフォリアに、
ロクサーヌと
パリサティスが励まします。
「マリレーヌさんには指一本触れさせないよう私たちが守るから安心してください」
「フォル……無事に作戦を終えて、早く帰ってきてくれるのを待ってるから」
ユーフォリアを優しく抱きしめた後、1枚の紙を差し出しました。
「こちらにまとめた品を用意いただくよう、ラズ殿に伝えてください」
マリレーヌが指定した人物は
ラズ・アステナッハ。
自由都市シュトルツ・ルビンの評議員の一人で、アステナッハ商会の代表である人物です。
◇ ◇ ◇
再びユーフォリアの前に現れたシルヴィヤンカと『紅玉団』を加えた革命軍は、ランツバウムへの攻撃を決めました。
それと同時にモニカとガトーが率いる部隊がイヨールの制圧に向かうこととなりました。
「イヨール周辺の地形には詳しいの? ガトー」
「一通り回っていたからな。州都への道は整備されているが周辺には森が広がっている。ただ見張りがいるからそれだけは気をつけた方がいい」
(あなたは再び現れた。理由は分からないが、その間、私はあなたに追い付くために勤勉に励み、武術を学んできた。あなたに見せるためではなく、モニカたちウルバントの民や虐げられてきたコスメラソス地方の民のためにそれを発揮する)
ユーフォリアはあくまで解放軍の将として、ファリアレオンの駐在軍に解放軍の力を見せつけることに集中していました。
何故、今になってシルヴィヤンカがコスメラソス地方に現れ、ユーフォリアに協力したかは分かりません。ですが、モニカたちウルバントの民や虐げられてきたコスメラソス地方の民のために力を振るうことに、ユーフォリアの目的は変わりはありません。
◇ ◇ ◇
神聖セレスティア皇国首都。レスティア。
アレクサンドロス・ユヴォルフ八世は国内動向について詳細を報告させていたが、そのほとんどは関心を引くものではありませんでした。
北方のウルバントや南方の獣人などによる衝突も珍しいことではありません。版図を拡大する過程において、そうした動乱は常であり、またそれを武力で鎮圧するのも定石ですからです。
ファレルム村での武力衝突も例外ではありませんでしたが、その報告にはまだ続きがありました。
「太陽帝国革命軍とやらの中に、リュクセールのユーフォリア殿と思わしき人物が加担されているとのことです」
「ほう! 獅子の資性が世に現れたか。それが真であればコスメラソスへ発つぞ」
急ぎ立ち去る報告者を後目に、アレクサンドロスはまだ見ぬユーフォリアに思いを馳せていました。
かつて、8歳ながらにして前線に立ち、アレクサンドロスの覇道に立ち塞がった少女。
隠遁したという話に落胆したこともあり、この報告には心が宿る思いでした。
(……我が跡を継ぐに相応しいのは、その者やも知れぬ)
◇ ◇ ◇
ユーフォリアは故郷であるフェゼルシアへ文を送り、秘密裏に傭兵の指揮官として共に戦って欲しい内容を秘密裏にしたためていました。
此度の戦いはあくまで太陽帝国革命軍と神聖セレスティア皇国との戦いであり、リュクセール王国として介入するわけにはいかないからです。
そのため、傭兵だけではなく、ナイトアカデミーの生徒たちも傭兵の指揮官として革命軍を指揮することになります。
新たな戦いが、リュクセール王国から離れた神聖セレスティア皇国コスメラソス地方で始まろうとしていました。