大陸の外
狗涅国(くねこく)からきた
魔天神に対抗するため、神から力を分け与えられた『御魂闘士』が戦う世界、「常陸」。
その北東にある筑摩府・筑前。
筑前はすでに魔天神に支配されつつあり、感情を奪われた住民たちは一日の大半を魔天神への信仰の時間に使っていました。
特に最近は
芸能神アメノウズメの石像へひたすら拝み続ける住民たちの姿がありました。
一方、住民たちが暮らす場所から離れた場所には、かつて芸術神アメノウズメがいた神社の跡地がありました。
その付近には社があり、その室内には十数人の住民と
サクナ(石南 杓菜)を含めた数名の少女がいました。
サクナは笛を吹き、仲間の寄絃師らは巫女の舞を踊っていました。
「ありがとうございます。寄絃師(よつらし)様のおかげで我々はなんとか希望を持つことができます」
演奏が終わると、住民の一人がお礼を言いました。
彼らの目の前にいる少女たちは寄絃師(よつらし)と呼ばれ、筑摩府では絵画や音楽を生業にしている人々でした。
彼女たちは殺王闘士たちの目を盗んでは、
この社で踊りや演奏などを披露して住民たちの心の糧となっていました。
「最近はアメノウズメ様の石像造りに駆り出されることが増えた。今まではそんなことはなかったのに」
「太陽神アマテル様より美しいことを知らしめたいと聞いたが、本当かのう」
「きっと何か理由があるのよ! 理由はアメノウズメ様に聞かないと分からないけど」
住民たちが現状を話す中、サクナは笛を片付けながら言いました。
彼女はアメノウズメを心のどこかで信じていました。
寄絃師と筑摩府の住民たちが秘密の集会を開いていると、社に筑前の住民が二人が走ってきました。
「助けてください!
家族が殺王闘士に見つかってしまって!」
「
子どもが作業場に入っていくのを見たんだ! 何か起こるかもしれない!」
* * *
とある作業場では、筑摩府の住民たちが石材を運び、石を彫って石像を大量に造っていました。
その石像は裏切った芸能神アメノウズメの形を模していました。
「少しでも早く多くの石像を造るのじゃ」
住民に指示を出していた大柄の老兵は、
“殺王五傑衆”の一人「玄武」でした。
他の
殺王闘士は早く造らせるために、住民たちに鞭を打ちました。
彼らはほとんど休みなく働かされ続けていました。
理不尽な目に遭いながらも、住民たちは言われるがままに石像を彫り続けていました。
石像を造る場所と化した場所はかつて、絵画や音楽など様々な文化に溢れた町でした。
しかし、統治していた芸術神アメノウズメの裏切りにより、
殺王闘士たちが侵攻して筑摩府を支配しました。
住民たちは感情を奪われ、魔天神のために動く傀儡となってしまいました。
その作業場にある石の裏に潜んでいる少年がいました。
少年
イサムの両親はすでに感情を失った傀儡となっており、作業場にいました。
イサムの両親に鞭を打つ殺王闘士にイサムは体当たりしました。
「お父さんとお母さんを傷つけないでくれ」
「抵抗するなら坊主でも容赦はしない! お前も両親に混じって石像を彫るか」
しかし、イサムはあっけなく殺王闘士に捕まってしまいました。
* * *
社に住民が来る数十分前、石像へ拝む住民たちを監視する殺王闘士の中に一際雰囲気の違う男がいました。
常陸の国には珍しい服を着て、所々に縄があしらわれていました。
「なぜ、
『あやつ』の方が魔天神様に気に入られているのだ。組織に後から入ってきたくせに。あと偉そうだし」
そう言って造りかけの石像に視線を向けました。彼は
“魔天七十二殺王”の一人「サルガタナス」でした。
サルガタナスが現状に苛立ちつつも、
監視のために家屋が並ぶ居住区へ向かうと殺王闘士が数人の住民を追いかけていました。
「観念しろ! お前らは魔天神様の信者となるのだ」
どうやら、その住民たちはまだ感情を奪われていないようでした。
「まだ活きがいいな。ちょうど良い、少し遊んでやるか」
サルガタナスが住民を捕まえた者には褒美をやる、とある物を掲げました。
それは
芸術神アメノウズメの「額冠」でした。それを見た殺王闘士たちは雄叫びを上げました。
住民が困惑しつつも逃げている間に
サルガタナスはその場から消えました。
そして、走っている住民の元で姿を現しました。
突然現れた魔天七十二殺王に住民は尻餅をつきました。
父親らしき男がサルガタナスに拳を振り上げますが、それは当たることなくサルガタナスは消えてしまいました。
「まだ捕まるには早いぞ。今のうちに怒って、悲しんでおけ。それらもできなくなってしまうからな」
そして、サルガタナスは男のすぐ背後で姿を現し、首を掴みました。
* * *
逃げてきた住民の話を聞くと、サクナが立ち上がりました。
「アタシがその人たちを助けにいってくる!」
「そんな無茶をしないで」
サクナが社を出ると、住民も他の寄絃師を止めようとしました。しかし、彼女は構えると、大声である言葉を唱えました。
「纏神(てんしん)!!」
すると、彼女は一瞬のうちに神威衣と呼ばれる鎧を身につけ、御魂闘士に変わりました。
「この『柄杓座の幸魂 サクナ』がみんなをすくってみせる!」
サクナは皆を心配させないよう笑顔を見せると、サルガタナスの元へ向かっていきました。
しかし、一方で自身が社から離れることに不安を覚えました。
「アタシがいない間、みんな心細くならないかな・・・・・・」