“カオス”が振りまく滅亡因子に蝕まれ、
崩壊の危機に瀕している“混沌の世界”
アトラ。
カオス第一次危機(ファースト・クライシス)を生き延びた人類は、
世界の崩壊を防ぐべく『コスモス機関』を設立し抵抗を始めました。
ワールドホライゾンの特異者はコスモス機関に協力し、メディエーターとなって混沌の獣、
そしてその先のカオスそのものとの戦いに身を投じる事となりました。
コスモス機関はホライゾンだけでなく、民間最大の企業グループ『ボーダーレス・テクノロジーズ』や、
独自にカオスの研究を進めている『カオス研究機構』、通称カ研とも連携。
旧東京市街の混沌の獣を駆逐していきます。
新たな力として『コンカラー』がもたらされる一方で、
混沌の獣からも特殊個体パーンチカのような、独自の進化を遂げる個体も現れ始めました。
かつての東京都心にいる混沌の獣第一種「アスラ」、識別名『ルシャナ』。
世界を滅ぼしかけた七体のうちの一体、その復活の予兆と思しき現象や獣の行動が確認され、緊張が高まる人類。
既に「第三次危機」の渦中にあり、復活すれば今の人類に成す術はない。
そう絶望視する者も少なくない中、第一種に勝利するための一筋の光明が見えました。
■ □ ■
――新東京、コスモス機関本部。
「電波塔に“神の力”が宿っている?」
『メイ先輩、いえコスモス機関も電波塔そのものに強いエネルギーが宿っている事については既にご存知でしょう。
第一種に流れ込むエネルギーの反応に隠れてしまっていますが、この力は今もなお“楔”として機能しています』
カオス研究機構の
イヴリン・グローリーから送られてきたデータに、
シャオメイは目を通しました。
確かに、科学局の観測結果を見ても第一種の中に不可解な異なるエネルギー反応が混ざっています。
「……これを神の力だと判断した理由は?」
『コスモスアームの誕生以前、人類にカオスへの対抗手段はありませんでした。
しかし滅ぼせないにせよ、混沌の獣をあの場に縫い留め、人類の滅亡を阻止している。
そんな“奇跡”を起こせるのは、神の力をおいて他にないでしょう?』
シャオメイは、コスモス機関が所持する
源石のデータとの照合を行いました。
源石とは、アトラを創造した原初の神々の力を宿す物質です。
「完全一致するものはない……が、エネルギーの波形に類似性は見られるね。
なるほど。源石のエネルギーを共鳴させ、楔を強化すれば、第一種の力を抑制できる」
『復活前に畳みかけることができれば理想ですが、そもそも港区自体が重汚染区域。
しかもルシャナの刺さっている電波塔周囲は、渋谷以上の汚染濃度です。
加えて第二種、第三種の進化型が徘徊している。
世界各国のエース級戦力を総動員し、ホライゾンの特異者を加えれば勝算はありますが……』
「それができればいいんだけどね。カオスに抗ってるのはこの国だけじゃないんだ。
それに第一種を討伐できても、多くの犠牲が出るようなら“上”もだが、何より司令官のアンジー君が納得しないよ。
まぁ、今まさにアンジー君は幹部総会に行って、ルシャナ復活に向けての会議をしているわけだけどさ」
『そうなるとやはり、今のこの国にいる戦力で対抗できるようにする必要がありますね。
先輩、これを』
イヴが三つのポイントをマークした旧東京23区の地図を送ってきました。
「先ほど先輩から頂いた源石のエネルギー反応と、類似のものが確認できた場所です。
中野区、文京区、そして新東京から近い大田区」
『また厄介な場所だね。重汚染区域じゃないにせよ、あまり近付きたくないところばかりだ』
シャオメイは顔をしかめました。
中野はかつて、駅前の大規模商業施設を中心としたディープなサブカルチャーの街でしたが、
第一次危機後に多くの避難民がなだれ込み、
まだ組織としての体をなしていた頃の『混沌義勇軍』の拠点にもなっていました。
しかし第二次危機の時、ある日を境に住人が一斉に姿を消し、その行方は未だに分かっていません。
現在は混沌の獣の支配領域ですが、そのような背景から曰く付きの場所となっています。
「文京区についてはカ研のあんたの方が、よく知っているはずだ」
『はい。確かに、私のいる研究施設から近いですからね。
カオス研究機構の始まりの地……本部は移転していますが、今もかつての施設の保守は行われています。
反応があるのはドーム球場のエリアですが、そこは新宿地下迷宮のように、獣の“巣”になっています。
ドームの地下には闘技場があるとか、新東京とは別に作られた秘密シェルター都市があるとか、様々な噂がありますが……』
「マンガの話だろう、それは。
ただ、源石の反応かもしれないということは、全部が全部根拠がないデタラメ、ってわけでもなさそうだ」
そして、大田区。
かつては空港施設をコスモス機関で利用していましたが、
第二次危機を境に使われなくなり、廃墟となっています。
「空路での大規模輸送のリスクが高まったこともあって、今は海路がメインになっている。
源石らしき反応は以前は確認できなかったが……場所柄、神の力との関わりがあっても驚きはないね」
『既にいずれの場所も所員を先行調査に向かわせましたが、不可解な現象に見舞われたため、
一度戻ってきてもらっています』
そこで、今回も
“塔”の時と同じく、
カ研とコスモス機関での共同調査を行えないかとイヴは打診してきました。
「正式な判断はアンジー君が戻ってきてからだが、断る理由はないよ。
第一種をどうにかできる可能性が、少しでも高くなるんだ」
こうして、コスモス機関とカオス研究機構は、第一種復活に備え三地区の調査を行う事を決定しました。
■ □ ■
――中野区。
「ここがかのサブカルチャーの聖地デスカ!?
ワクワクしてきマース!」
「メイジー、あまりはしゃがないの。
突然住民が消えた場所だし、例の“青いヤクシャ”だって目撃されてるんだから」
中野にはコスモス機関から
メイジー・ショウと
エリカ・ヒース、準エースとエースが、
カ研からは
レイジが送られました。
人気がなく、薄暗く混沌とした商業施設内は不気味です。
「ったく薄気味悪ぃところだぜ」
「大田区の下見をして怪異に遭遇したようデスガ……ビビってんデスカ!?」
「バカ言ってんじゃねぇ! オレぁオカルトとか信じねぇぞ!」
■ □ ■
――文京区。
「……あれ、なに?」
「野球だ。混沌の獣が、野球をしている……」
文京区にはコスモス機関から
丹波 志道、カ研からは
ラナが向かいました。
ドーム球場の中に足を踏み入れた二人は、奇怪なものを目撃します。
それは腕をバットのように変化させ、素振りをしているものと、
ボールのようなものを生成し、投球練習をする、第二種ヤクシャの姿でした。
「人間の文化を吸収しようとする個体の前例はあるんだし、そういうのがいても不思議じゃないよね」
二人の背後から、ラナより少し年上の、ぬいぐるみを抱えた少女が現れます。
彼女はカ研のメンバーですがイヴの直下ではなく、文京区の施設から派遣されました。
「初めまして。ラナちゃん、シドさん。
毒島(ぶすじま) クロヱよ」
■ □ ■
――大田区。
「霧が立ち込め、鳥居が現れた……ですか」
「ええ。まるで異界に導かれているような感じだったわ」
大田区にはコスモス機関からは
ナタリー・ワイス、カ研からは
マリが出動しました。
「仮にカオス現象ではなく、源石の力によるものだとすれば、我々は“神々”に試されているのかもしれませんね」
下見を行ったマリから実際の体験を聞き、ナタリーはドローンを先行させます。
しばらくして霧が出て、通信障害が発生しました。
「これよ。前に遭遇した状況は」
そしてマリから聞いていた飛行機のエンジン音が、ナタリーの耳に響いてきました。