“カオス”が振りまく滅亡因子に蝕まれ、
崩壊の危機に瀕している“混沌の世界”
アトラ。
カオス第一次危機(ファースト・クライシス)を生き延びた人類は、
世界の崩壊を防ぐべく『コスモス機関』を設立し抵抗を始めました。
地上を跋扈する、滅亡因子が生み出した怪物
「混沌の獣」を倒せるのは、
コスモス機関で開発された対カオス武装「コスモスアーム」を扱える戦士、
メディエーターのみです。
ワールドホライゾンの特異者はコスモス機関に協力し、メディエーターとなって混沌の獣、
そしてその先のカオスそのものとの戦いに身を投じる事となったのです――。
■ □ ■
――新東京、コスモス機関本部。
「聖君、ワールドホライゾンの子たちの武装開発の承認、無事通ったよ。
これで彼らのコスモスアームを造ることができる。
さすがにゼロベースのフルオーダーメイド、とはいかないけどね」
「ベースは必要だが、手に馴染むように組み上げるんだ。そいつ専用、ってのは何も間違っちゃいないだろう。
しばらくは開発で忙しくなりそうなだから、この前みたいに前線に出るのは、しばらく先になるな」
科学局局長の
シャオメイは「コスモスアーム開発計画」が承認され、
ワールドホライゾンの特異者用の装備開発許可も出たと、
聖 幸喜(ひじり こうき)に告げました。
「すぐに実戦で使いたい、って子は多いだろうけど、その前に試運転の機会は設けないとね。
希望に基づいて製作するから思ってたのと違う、ってことには基本的にならないはずだけどさ。
感触掴んでおくのは重要だからね」
シャオメイは訓練場の空きスケジュールを確認しつつ、そのための時間を抑えます。
ちょうど待機状態にある
樋口 アカリ、
スミス・クラーク、
セリーヌ・G・ラプラスの三人にも、
希望があれば模擬戦の相手をするよう声掛けも行いました。
『シャオメイ、司令室に来てくれ。“彼女”から連絡が来ている』
「……あー、了解。すぐ向かうね。聖君、こっちは任せたよ」
司令官の
紫藤 安治(しどう やすはる)に呼び出され、シャオメイは司令室に向かいました。
モニターには、懐かしい顔が映っています。
『お久しぶりです、メイ先輩。あれから色々ありましたが、今はこうして元気にしてますよ』
「何年ぶりだろうねぇ、イヴ。あんたの方から連絡してきたってことは……」
『今はエヴェレット、
ドクター・エヴェレットで通ってますので、そう呼んで下されば。
「カオス研究機構」の事はコスモス機関も把握しているでしょうが、
こちらもようやく実戦で通用し得る“戦力”に目処が立ちましてね。
まだ先輩たちのコスモスアームほど安定して増やすことはできませんが
……滅亡因子の侵食からの解放という点においては、こちらの方が有用でしょう』
エヴェレットはかつて科学局に所属しており、シャオメイの部下でした。
しかし滅亡因子の研究方針を巡って対立し、彼女は独自に研究と実験を進めるために機関を離れました。
「前にカ研に尋ねた時は、そんな奴はいないってことだったが……名前も変えてたわけだ」
『匿ってくれてますが、研究内容が内容なので、私の存在自体表に出せなかったのですよ。
さて、ここからが本題ですが――我々カ研とコスモス機関の共同で、ある場所の“獣”を行いませんか?』
エヴェレットがデータを表示しました。
「
金沢島(かねさわじま)。重汚染区域ではないが、危険度が高い場所だ」
安治の顔つきが険しくなりました。
『はい。
現在の横浜地区は多国籍企業グループ「ボーダーレス・テクノロジーズ」が統治しており、
新東京のようなシェルター都市ではないものの、旧市街の中では比較的安全な場所です。
“混沌の獣”からは、という意味ではありますが。
ただ、その横浜地区の中でも第一次危機以後ずっと放置されたままなのが、この金沢島です。
水族館にいた生物が侵食され、今もなお巣食っています』
「横須賀の部隊から報告があるが、やはりまだ相当な数が残っているのか」
『さすがにもう数える程度しか残っていないでしょう。
水生型第三種、
ラクシャス・アクア。
厄介な相手ですが、それに見合うだけの価値がある“獣”でもあります。お互い、そうでしょう』
「確かに、水生型なら地上の獣とは違う素材が手に入る。
それを使えば、コスモスアームの幅も広げられるだろうさ。
それはいいんだけど、アタシとしてはあんたが何を企んでいるのかが気になるよ」
エヴェレットが微笑みます。
『私はただコスモス機関と仲良くしたいだけです。人間同士醜く争うのは嫌ですからね。
もちろん、素材は必要な分確保できれば構いません。
今回の一番の目的は、我々の成果を知ってもらうことなので。
――
ラナ、こちらへ』
『顔出すの嫌だから、声だけでいい?』
画面にちらっと少女の顔が映ります。
一見すると、普通の女の子のようですが……
『少し恥ずかしがりやでしてね。ですが、この子はコスモス機関のエースに匹敵すると確信しています。
前線にいた頃の安治さん以上かもしれません』
安治とシャオメイは目を合わせ、頷き合います。
『いかがでしょう?』
「分かった。金沢島の解放のため、コスモス機関は協力しよう」
『ありがとうございます。それでは、また後程』
通信が終わり、安治は隊員たちに先駆け、二人のエースにこのことを伝えました。
「全部鵜呑みにするほどお人よしじゃないよねぇ、アンジー君」
「当然だよ。金沢島の危険度もそうだが、カ研のあのラナという子も警戒する必要がある」
「“融合体”の成功例だとしても、暴走のリスクがゼロとは限らない。
実戦での獣との接触での影響まではあの女だって完全に予想できるわけじゃない。
アタシにだってできないし、それが“カオス”なんだからね」
そこへ、緊急通信が飛んできます。
「何があった? また獣の群れが現れたのか?」
『いえ……港に届いた物資が強奪されました。
混沌義勇軍です!』
「あの女の次は無法者共か! 全く、今日は面倒な知らせばかりだねぇ、アンジー君」
カオスから旧市街の民間人を守るべく立ち上がった武装集団、と混沌義勇軍は主張していますが、
その実態は暴力と略奪を繰り返すただの無法者です。
「ボーダーレスの連中も、もっと積極的に取り締まってくれりゃいいんだけどね」
「自分たちに損害がでなければ動かないさ、彼らは。
むしろ理念が『国、人種、思想を区別せず、困窮している者に手を差し伸べる』だから、
金を積まれたら見逃すまである。
僕らともつかず離れずの距離感を維持するだけのしたたかさがあるしね」
安治は先の金沢島の件と合わせ、メディエーターたちに出動要請を行いました。
『無法者をぶちのめせばいいのネ!? オーケー、コマンダー!』
早速、
メイジー・ショウからの応答があります。
こうしてメディエーターと特異者は、横浜地区へ向かうこととなったのです。
■ □ ■
――金沢島。
「ええと、京都支部のエースの“シド”さんですね。
私も、元々は欧州支部の所属だったんですよ。
今回の作戦指揮を行います、
ナタリー・ワイスです」
「
丹波 志道(たんば しどう)。丹波でいい。コードネームで呼ぶ必要はない」
派手な衣装で機械の箱を携えた眼鏡の女性がナタリー。
軍服の上に羽織を纏った片腕が義手の青年が志道です。
二人は廃墟となったレジャー施設を見回しながら、カオス研究機構のラナの姿を探しました。
「とりあえず一匹、やっといたよ」
シャチが元であったであろう獣の残骸を軽々と持ち上げ、少女は投げ捨てました。
見たところコスモスアームや出力デバイスの類を持っておらず、生身です。
「ラナは多分、あなたたちよりずっと強いと思う」