“カオス”が振りまく滅亡因子に蝕まれ、崩壊の危機に瀕している“混沌の世界”
アトラ。
カオス第一次危機(ファースト・クライシス)を生き延びた人類は、世界の崩壊を防ぐべく『コスモス機関』を設立し抵抗を始めました。
地上を跋扈する、滅亡因子が生み出した怪物
「混沌の獣」を倒せるのは、コスモス機関で開発された対カオス武装「コスモスアーム」を扱える戦士、
メディエーターのみです。
ワールドホライゾンの特異者はコスモス機関に協力し、メディエーターとなって混沌の獣、そしてその先のカオスそのものとの戦いに身を投じる事となったのです――。
■ □ ■
――新東京、コスモス機関本部。
「やぁ、アンジー君」
「シャオメイ。例の個体の解析が終わったのか?」
「それに関連した興味深い情報があってね、こうやって君に知らせにきたのさ」
「興味深い情報……?」
司令官としてメディエーターたちの指揮を執る
紫藤 安治の下に、
シャオメイが現れました。
シャオメイは、
先日の一件でメディエーターが遭遇した混沌の獣の特殊個体の解析を行っていたため、
それの結果が出たと思った安治ですが、どうやらそうではない様子です。
怪訝に思いながらもモニターに映し出された画像へと視線を向けると、その表情は驚愕に固まりました。
「これは……!?」
「事後報告になるけど、ちょっとアタシが個人的に仕事を頼んでててね。
この青いヤクシャは、
旧渋谷エリアの探索に行っていたメディエーターが交戦した個体だよ。
コイツも言葉を発したそうだ。それだけじゃなく、戦い方も“剣を知っている者の動き”だと。
静止画じゃ分かりにくいから、映像を出した方が早いね」
モニターを流れる映像ではメディエーターとヤクシャが戦闘を繰り広げていますが、なによりも目を引くのはそのヤクシャの形状です。
混沌の獣の容姿は個体によってばらつきがありますが、顔が割れて青白い鎧のような甲殻をもつその姿は通常のヤクシャとは一線を画しており明らかにこれまでのヤクシャとは異なると思えます。
「これもまた、臨海副都心のような特殊個体か」
「その成長体、あるいは進化体と言うべきかしらね。
戦いの中でこちらを分析し、取り込んでいる素振りもある」
安治の言葉を肯定するようにシャオメイは説明を続けました。
さらにはその場で身体を変化させて飛び去ってしまったと。
「このヤクシャについて、こちらで追跡調査を行った結果がこれだ」
「この個体が中心となって、渋谷の一帯に滅亡因子が振りまかれているのか。つまり、この個体が旧渋谷エリアの獣の実質的な支配者である可能性が高い、と」
「そういうことになるね。ってなわけではい、青海地区の特殊個体との比較データ。
共通した波形も確認できてて、コイツらには通常個体を支配・統率する能力が備わっていると見て間違いなさそうだよ。
幹部連中は重汚染区域である旧渋谷エリアの調査には消極的だけど、これなら説得材料としては十分でしょ?」
シャオメイからのデータを見た上で、安治は判断を下しました。
「……現時刻をもって、この特殊個体を第二種乙一号――通称
パーンチカと呼称。ホライゾンの特異者たちとも協力し、これの討伐を目指す!」
「了解。アタシからも各所に通達を出しておくよ」
パーンチカの居場所は既に特定されていますが、旧渋谷エリアの奥に留まり動く気配が見られません。
青海地区に現れた特殊個体が倒されたことを察知し、守りを固めているのか、それとも……。
安治はホライゾンにも協力を要請し、コスモス機関と特異者の精鋭を集めた混成部隊によって敵の守りを突破し、
その中心にいるパーンチカを撃破するための作戦を組み立て始めました。
■ □ ■
特殊個体パーンチカの情報がもたらされてから数日後、準備を整えた精鋭部隊が旧渋谷エリアに送り込まれました。
その中には先日の青海地区での戦いにも参加していた
レベッカ・レッドグレイヴの姿もありました。今回の作戦を重要視した安治は、前回同様にエースを動員していたのです。
しかし、その顔ぶれは前回とは異なります。
「リリっぺ先輩とは一度一緒に組んでみたかったんだぁ。よろしくね、先輩」
「うん、よろしく!」
レベッカのことをリリっぺ先輩と呼び気安く話しかけるギャル風の少女は、
森山 美玖(もりやま みく)。
“妖精眼(グラムサイト)”のコードネームを持つ、新東京本部におけるワイズの現・最年少エースです。
レベッカとハイタッチを交わすと、PHSのカメラでツーショットをパシャリと撮ります。
「きっと昔は君たちみたいな子たちで賑わってたんだろうなぁ、この街は」
「シモムラさんは……シブヤ系というよりアキバ系っぽい感じだよね。昔の本に載ってたパソコンマニアみたいな」
「実際、元々は秋葉重工にいたわけだからねぇ。否定はできないかな」
そんな二人の様子を見てなにやらしみじみとしているのは、長身痩躯で冴えない印象の青年
シモムラです。
先ほどまで本部にいる安治と通信を行い、今回の作戦に関して最終的な確認を行っていたのですがそれも終わったようです。
作戦に参加する部隊の仲間たちを集めると、本部からの指令を伝えます。
「さて、調査エリアは主に三つだ。パーンチカと最初に接触した例の廃ビル、「センター街」と呼ばれていたメインストリートを含む旧渋谷駅の周辺一帯、そして北の公園の奥にある森林地帯と化した鎮守の杜。
僕は廃ビルの調査をしつつ全体のサポートが出来るように動くから、美玖君は旧渋谷駅方面、レベッカ君は鎮守の社方面を頼めるかい?」
「えぇー! せっかくリリっぺ先輩と一緒に戦えると思ってたのに!」
「まぁまぁ。今回は調査がメインっぽいし戦力を集中させてもね?」
シモムラの采配に明らかな不満を漏らす美玖ですが、青海地区の時とは逆の役回りになったレベッカがそれを宥め、なんとか了承して貰います。
レベッカのお陰でなんとかなったようだと安堵したシモムラは、再び美玖が不機嫌になる前にと調査開始を指示するのでした。
■ □ ■
「第二種特殊個体パーンチカの居場所は判明しているが、今のところ動きはない。だが、特殊個体……いや、“獣”の言葉が確かなら、奴らは『神の力』を求めている」
調査部隊が任務を開始したころ、本部では安治が状況をモニターしつつそう呟きました。
旧渋谷エリアにはコスモス機関もまだ認知していない、隠された何かが存在する。
そんな確信を胸に秘めながら。