――空に浮かぶ大陸、
パラミタ。
月面から契約者たちがニルヴァーナへ旅立ったあと、
地球とパラミタにはつかの間の平穏が訪れていました。
しかし莫大な月面投資を行った結果、世界は基軸通貨である円が高騰し、それをきっかけとした円高不況が訪れていました。
また鏖殺寺院と結びついているといわれるユーラシアの大国は、
周辺諸国への侵攻をチラつかせる砲艦外交を行っており
その背後には鏖殺寺院やF.R.A.G.で養成された契約者兵士がいると噂されています。
そしてパラミタでは、大陸を支える巨神アトラスの死期がいよいよ近づき
天災やゾンビの出現といった、ナラカの混沌の影響が徐々に広がっています。
地球とパラミタ。
二つの世界はつながっているにも関わらず、
国々の交流や連帯は失われつつありました。
――そんなある日。
シャンバラの各地にいくつかの流れ星が落ちました。
それがパラミタの新たな混乱につながるとは、誰も知りませんでした。
■ □ ■
――イルミンスールの森
「この動物型のメカ……“ギフト”じゃないか?」
イルミンスール魔法学校の学生たちが森で発見したのは、
魔法の箒に変形する機械の獣――
“ギフト”でした。
ギフトとは、一部の契約者たちが旅立った地、ニルヴァーナで発見された兵器です。
それは遥か昔、ニルヴァーナの民がインテグラル打倒の望みを託し
後に来る者たちへ残した“贈り物”……の、はずです。
そのギフトが、ニルヴァーナとつながるゲート等もない森に存在する――すなわち。
「オーパーツ(場違いな工芸品)だね!
この秘密、リンネちゃんが解決するよ♪」
現場に居合わせたイルミンスール生の
リンネ・アシュリングは
そう断言してギフトを魔法学校に持ち込みました。
しかし。
「なんじゃなんじゃ、変な物を持ち込みよって。
……これは!」
イルミンスール魔法学校の副校長
アーデルハイト・ワルプルギスが透視の魔法を使った瞬間、
カッ! とまばゆい閃光が迸りました。
「みんな離れるのじゃ!!!」
アーデルハイトがリンネからギフトを奪い取り、抱えた瞬間
ギフトとアーデルハイトを中心に爆発が起きました。
そして爆発の中から――
光輝くアーデルハイトが出現したのです。
(なるほど、ここがパラミタか。
このロりババアの体を取り返してほしいか?
ならば決闘だ。
魔法の箒で。
魔法でも聖像でも好きに使うといい。
頂きにある旗を先取したものが勝ち。この箒をくれてやろう。
だがおぬしらにその力がないと分かったときは――
ロリババア諸共にこの樹を燃やす)
アーデルハイトに入った“何者”かは、
思念によって契約者たちにそう語りかけたのでした。
■ □ ■
――そのころ、
薔薇の学舎では。
(私との決闘に勝てば、この“薔薇の剣”は渡してやろう。
しかし、だれも勝てなければこの学舎もタシガン島も薔薇に沈む)
イコンに乗ってもわかるほどに光り輝いているその男は、
ルドルフ・メンデルスゾーン。
彼もアーデルハイト同じように、ギフトを手にして憑依されているのです。
薔薇の学舎の決闘広場の中央で、彼は愛機であるイコン“シパーヒー”にのって剣を構えていました。
その剣の柄には大きな薔薇があしらわれ、そこから無数のトゲをもつ薔薇のツルが伸び、刃をなしています。
ルドルフの示した条件はシンプル。
イコンでの戦いで頭部を破壊した方が勝利、というものでした。
(まとめてかかって来てもいいぞ。
だが……果たしてどこまで戦えるかな?)
きわめて優雅な構えで、ルドルフは挑戦者を待ち構えています。
そして決闘広場の脇には、校長である
ジェイダス・観世院が立っていました。
「決闘はイコンの性能のみで決まらず、操縦者の技のみで決まらず、ただ……フッ、その先を語るのは美しくないな。
此度の勝負、このジェイダス・観世院が見届けよう」
■ □ ■
――そして、パラ実の地元であるシャンバラ大荒野。
そこにそびえる“種もみの塔”の58階では。
「あんだテメエコラ!」
「やるかオラァ!」
不良たちが乱闘していたのでした。
(我がもつギフトが欲しければ……
え、なんでこいつら戦ってるの?)
チェーンソー型のギフトを手にしたことで謎の存在に憑依され、
モヒカンがチェーンソーとなった光り輝く
王大鋸が唖然としてつぶやきます。
それに答えたのは、恩赦によってシャンバラ刑務所から出所した女王の妹にして
鏖殺寺院の神と呼ばれていたダークヴァルキリーこと
ネフェルティティでした。
「私が出所することになってお祝いがあるというので来てみたら
なんか戦っていた……理由は“あるようでない”だろうな」
パラ実生たちは、ネフェルティティという大物が刑務所から出所……ということで
(元々敵だったはずですが)大喜びで出所パーティーをひらいたのでした。
そこは種もみの塔の58階、同じく仮出所していた
リフルのラーメンレストラン。
リフルがラーメン屋として再起をかけた、シャンバラ一号店だったのです。
しかしそのパーティを、新たに四天王になろうとしている教導団系の不良集団
“チャイニーズアーミー”が襲撃。
ケンカは拡大し、大規模な抗争へと発展したのでした。
そしてネフェルティティがこの場にいることで話は大きくなり、いつの間にか
「この喧嘩に勝てばダークヴァルキリーから“闇の四天王”の称号をもらえる」
といううわさも勝手にながれていたのでした。
「お待ちどうさま。ラスター醤油ラーメン、麺固め味玉トッピング」
リフルは至極落ち着いた様子で、ネフェルティティにラーメンを出しています。
その様子を見て、王大鋸に憑りついた何者かはまた唖然としました。
(この状況でラーメンとは……この世界の“花嫁”の為せるわざか)
「いや、普通にこいつが変なだけだと思う」
■ □ ■
こうして。
パラミタの各地では光り輝く“何者か”による
ギフトをかけた試練が幕を開けました。
そして荒野のラーメン屋では、試練とは関係なく、
不良たちが好き勝手にケンカをおっぱじめたのでした。