グランスタ、聖歌庁からそれぞれ奇妙な依頼を受けたアイドルたち。
その結果、グランスタでは
アゴンへの、聖歌庁からは
ノスタルジアへのゲートを繋げることに成功しました。
アゴンにはネヴァーランドの
神様や
小世界パトリアを創ったという人物に繋がる鍵があるとされ、
ノスタルジアは地球の人々を蝕む悪夢の元凶があるという夢の中の世界です。
新たな世界の探索に乗り出すべく、それぞれの組織は動き出し始めます。
★☆★
――アゴン。
人気の無い荒野の中を進んでいったアイドルたちは、やがて巨大な建物を発見しました。
高度な文明を思わせる研究施設といった見た目のそれは、今はほとんど崩れ廃墟と化しているようです。
トラベラーの力を頼られグランスタから派遣された
真蛇と、第29使徒ビフエルとして派遣された
レイニィ・イザヨイは
恐る恐るその建物の入口へと向かうアイドルたちを先導します。
エントランスホールらしき場所に足を踏み入れた時、突如として現れたのは――
『ロスト・アゴン・ナビゲーションシステム起動。対象、ザざ…ザ……解析不能。ゲストモードに移行します』
眼鏡を掛けた真面目そうな男性の立体映像が空中に投影され、アイドルたちの前で丁重にお辞儀をしたのです。
『こんにちは、見学の皆さま。私はワールドクリエイト研究員ナンバーA00082、
ラビと申します。
アゴンは世界創造事業に取り組んで参りましたが、世界の資源とエネルギーを使い果たし今はすっかり滅んでございます。
芸能界へお戻りの場合はA棟へ、誤って流れ着いてしまった場合もA棟へ、パトリアやフラグランドへご用の場合は――』
「まどろっこしいね。“のすたるじあ”とやらへの行き方を聞きたいんだけれど」
「こ、このひとって会話は出来るの、かしら……? どこかに本人も、いる……?」
真蛇と、真蛇の後ろに隠れたレイニィがじっとラビを見つめます。
するとラビは表情を変えずにまた口を開きました。
『残念ながら、私は生前の“ラビ”を模したAIでございます。この世界に生体反応は既にありません。
ただ、会話であれば私で事足ります。ざザ…ジ…プロジェクトナンバーZ10、ノスタルジアへのご案内も』
あっけないミッション達成にレイニィが胸を撫で下ろしかけますが、ラビは「ただし」と続けます。
『ノスタルジアは非常に繊細な世界ですので、関係者以外のご案内はいたしかねます。
プロジェクト幹部か、“先生”の関係者でないと――』
「我々は“先生”の関係者だよ」
さらっと嘘をつく真蛇をレイニィは三度見しましたが、ラビは「ふむ」と考える仕草をしました。
『“先生”は仰っていました。ザざ、ジ……「いずれ私を訪ねて来る者が現れるだろう」、と。
そしてその者を見極めるのが“ラビ”の最後の仕事であると』
ラビがそう言って指を鳴らすと、ドーム状の不思議な水晶が嵌った装置が次々とホールに現れました。
その地鳴りに似た起動音が鳴ったかと思うと、虚ろな目をした子供達の幻影がそれぞれの水晶の前に浮かびます。
『これらは全て生まれたばかりの人の心です。
あなた方はどのようにヒトを創るのか……テストをさせていただきます』
★☆★
――ノスタルジア。
聖歌庁から派遣された
マルベル・クロル、アイドルたちへの同行を自ら希望した
ノアは
紫がかった曖昧な空の色や、どこか懐かしく不思議な雰囲気の歌が聞こえるこの世界をゆっくりと進んでいました。
目の前には巨大な門があり、その内部にはテーマパークのような様々な施設が見えます。
しかしそれらは透明な壁で阻まれてしまっており、壁は高く高く天まで続いているようです。
「お客さん!」
「お客さん?」
「なんでなんで? めずらしい!」
「また“女神様”のおともだち?」
アイドルたちに駆け寄ってきたのは年齢こそバラバラですが全員が子供でした。
また、古いアンティークのワンピースを着ている子供もいれば、最近地球で流行った幼年向けアニメのトレーナーを着ている子供もいます。
「コドモに門番でもやらセテるのかしラ? 一体ドウいう世界、なの……ヨ……」
マルベルが一人の子供を見たままその場で固まりました。
それもそのはず、その女の子は誰が見てもマルベルにそっくりだったのです。
彼女はきらきらのドレスを着て、とてとてとマルベルに歩み寄ってきました。
「わぁ、あなたって私にそっくりね!
私、マリー。お姫様になるのが夢なのよ。あなたもそう?」
「………え。そうなの、マルベルさん?」
顔を引きつらせたまま真っ赤になるマルベルを見て、ノアが少しだけ笑いながら追撃しました。
「……ああイヤ! ゲンジツを知らない頃のアタシに似ててムカつくっ!
そんな夢見てたっテ結局はサーカスに売り飛ばされたダケだったじゃナイ――って違ァう!」
「そうだよ、落ち着いて。ぼくたちは円満にあの門の中に入れてもらわなきゃいけないんだよ」
「アンタ、わりとイイ性格してるワネ……」
睨むマルベルを横目に、ノアは特に警戒も無く子供達の方へ近寄っていきます。
誰が見ても子供達に何か裏や敵意があるようには見えないのです。
「ねえ、ぼくたちはここを通ってもいいのかな?」
元々子供好きなノアはしゃがんで優しく微笑みますが、子供達は遊び相手を見つけたといった様子で楽しそうに首を横に振りました。
「だめー! おれ、門番だもん!」
「『しんさ』しなきゃ通れないんだよー」
「やろう、『しんさ』! みんなも呼んでくる!」
こうして、不思議な世界の不思議な子供達に囲まれたアイドルたちは彼らの課す課題に挑むことになります。