かつて『悪しきイドラ』によって地球から完全に切り離され、長く忘れ去られていた世界
フラグランド。
アイドルたちはフラグランドにある街の一つ、
フィフスシティにて
アメリア・ワイズ、
グラ・ワイズと住民たちと絆を結び、
【Frag-Connect】の開催によって分断された大地に虹の橋をかけることに成功しました。
しかし依然としてフラグランドの他の街と連絡が取れないため、
アメリアとグラ、当初は敵対していたオルガノレウム研究者
オルガ・フールは
アイドルたちと共にこの問題を解決するべく虹の橋を渡り、全部で七つある街を訪れていきます。
四つ目の街、
サードシティで開催された【TRAP CELLAR】にアイドルたちは勝利しましたが、
アメリアとグラを亡き者にしようとした
キリィの策略の結果、
参加者たちは
『トワイスシティ』に送られてしまいました。
アダプターが眠りながら、老いて死ぬまでフラグランドの繁栄を支えるという街、トワイスシティ。
謎めいた街からの救出を試みるオルガは、意外な人物からの通信を受け取ります。
その相手は――
プライマリーズのファースト、
マゼンタでした。
■□■
――フラグランド:ポントリン
「突然の通信にもかかわらず、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます、オルガ様。
ふふ、かわいらしいお子さんですわ」
優しい笑みを見せるマゼンタへ、POLINが無邪気な笑みを浮かべてあい! と手を挙げて応えます。
「その情報はキリィからか?」
「ええ。わたくしにも子どもが居ます、なかなか構ってあげられないのですけれど」
その言葉を聞いたオルガがほう、とつぶやき、マゼンタの次の言葉を待ちました。
「トワイスシティは
『吸眠の街』と呼ばれています。
その実態は……アダプターのオルガノレウムを吸い上げる性質を効率よく発揮させるために特化した街です」
オルガの表情に悲しみと怒りの両方の感情が入り込みます。
「その街は今、どこにあるのですか」
「わたくしたちの居るここ、ポントリン内にありますわ」
「それは何のために――いえ、おおよそ察しはつきます。
なぜ私に、その情報を話す気になったのですか。あなたはキリィの計画に加担していたのでしょう」
オルガの言葉にマゼンタはつい、と視線を逸らし、一息ついてからオルガに視線を戻して口を開きます。
「ええ。アダプターとしてフラグランドの繁栄に貢献できるならと思っていました。
ですが【TRAP CELLAR】でシスターと競ったアイドルの皆様がトワイスシティ送りにされて、色々な想いがわたくしの中で湧き上がったのです。
果たしてこの方法が正しいのか、これほど素晴らしいアイドルの皆様ともうライブバトルをすることができないのか。
そして……もしわたくしの子どもが同じ目にあったとしたら……情けない話ですが怖くなってしまいました」
トップアイドルとしてステージに立つ者とは思えない、弱々しい一人の母親の姿がそこにありました。
「…………。
セブンスシティから援助を受けられましたので、トワイスシティの皆さんを救出するだけの装置は用意できるでしょう。
どのように皆さんに届けるかを検討していましたが、通信の通りにあなた方が手を貸してくださるのでしたら可能でしょう」
「そうですか。それを聞いて安心しましたわ」
笑みを浮かべたマゼンタの両脇に、『プライマリーズ』のセカンド、
グリーンと
オレンジが立ちます。
「このような形で皆様と再会するとはという思いですが、楽しみでもありますわ」
「アタシが勝つまで、負けてもらっちゃ困るかんな!」
グリーンとオレンジの顔を順に見て、オルガはこれがアイドルの繋いだものなのかと思いを馳せます。
「では、そちらはよろしくお願いします。私はフィフスシティに戻って今の内容を皆さんに伝えた上で対策を講じます」
「ええ、それでは。ワンスシティでお会いいたしましょう」
オルガとPOLINの姿がフッ、と消えます。その場に残った三名、マゼンタとグリーン、オレンジが互いに頷き合いました。
「さあ、トワイスシティをわたくしたちの手で、解放いたしましょう」
■□■
――フラグランド:トワイスシティ
♪~~~~
人の心を震わせる歌が、アメリアの意識を引き上げていきます。
「……お母様?」
目を開けたアメリアが見たのは、ステージに立つカリオでした。
「んん……」
アメリアが隣を見ると、グラがちょうど目を覚ましたところでした。後ろの席では
ハルと
火野アラタが同じように目を覚まします。
「確かあたしたち、サードシティで……。母さんが起こしてくれたのかな」
グラの声にそうね、と頷いて、アメリアはカリオのステージを見つめていました。
(お母様のライブは、いつでも素敵……。
私はまだ、お母様の見せる景色を皆さんに見せられていません)
「あら、そんなことはありませんよ。
アイドルの皆さんのライブは、楽しく見させてもらっています。もちろん、アメリア、グラ、あなたたちのライブもね」
いつの間にかライブは終わっており、カリオの優しげな笑みと共に発された言葉にアメリアとグラが感情を詰まらせます。
「キリィのことは、ごめんなさい。私はキリィが私のスケープゴートになっていたのを知っていながら、黙認していたのです。
それはキリィの身体と精神に、大きな負荷をかけてしまいました。
彼女が変わってしまった理由は様々あると思いますが、だからといって私の罪が許されるものではありません。
私の歌を聞いて、フラグランドに来てくださったアイドルの皆さんも、私達の事情に巻き込んでしまってごめんなさい」
「そうね……まぁ、なんやかんや私達、巻き込まれてばっかりだからあまり気にしてなかったわ。
とりあえず、助けてくれてありがとね」
「ああ、助かったぜ……って俺たち、生きてるのか? それとも死んでるのか?」
アラタの問いにカリオが答えます。
「皆さんは眠っているだけで、しっかり生きていますよ。この場で死んでいるのは、私だけ」
「お母様……」
「母さん……」
泣きそうな顔をするアメリアとグラへ笑みを浮かべて、カリオが告げます。
「トワイスシティは『吸眠の街』。ここで眠るアダプターはオルガノレウムを吸い上げるための礎となり、フラグランドの繁栄を支えているのです」
オルガの妻と娘が受けている境遇が、街全体で行われているのだと知ったアメリアとグラは息を呑みます。
「計画を止めなかった私にどうこう言う資格はないのですが……やはりこのような形は間違っていると思います。
できれば皆さんの手で、キリィを止めてもらいたい。……皆さんにとって意外な方々も、力を貸してくれるそうです」
そう言ったカリオが手招きすると、三人の女性がステージに現れました。
「よう! グラ、起きてっか!」
「あ、あんたはオレンジ、それにグリーン……どうしてここに」
「皆様を助けに来ましたわ。トワイスシティの解放も。
……ですわよね、マゼンタ様」
グリーンの視線を受けたマゼンタがええ、と頷き、アメリアの前に立ちます。
「サードシティでは皆様の素晴らしいライブ、見させていただきました。
今わたくしたちが行動を起こしているのは、きっとあなた方のライブがきっかけだったのだと思います。
そう――“目覚めさせて”くれたのですよ」
「私たちのライブが、“目覚め”……」
何かを感じ取ったように胸に手を当てるアメリアへ手を差し伸べ、マゼンタが告げます。
「さあ、今度はトワイスシティの観客に、わたくしたちのライブバトル――いえ。
ライブコンチェルトをお届けいたしましょう」
■□■
――フラグランド:セブンスシティ
「やあ、来てくれたんだね。
セブンスシティは君達を歓迎するよ」
『覚生の街』
セブンスシティを訪れたアイドルたちを出迎えた
フィール・ヴァリーが手招きし、街の中へ招待します。
「以前来てもらった時は言えなかったけど、ここにはオルガノレウムが絶えず吹き出している場所があるんだ。
まぁ、パワースポットみたいなものかな」
案内された先、滝が逆流するかのような場所でフィールは、アイドルたちに向けて告げます。
「僕のような非アダプターは、この場所はただオルガノレウムが吹き出している場所でしかない。
でも、
君達なら何かを感じ取り、何かを創り出してくれるんじゃないかって思うんだ。
ここは好きに使っていいよ。その代わり僕に、君達の可能性を見せてほしい」
まあ、それがお代かな、とフィールは軽く笑って言いました――。
アイドルたちはトワイスシティを“目覚めさせ”、ワンスシティへたどり着くことができるのでしょうか――。