新たに発見された小世界、
フラグランドや
パトリアを冒険してきたアイドルたち。
さらには聖歌庁やグランスタからの依頼を受け、
ワンダーランドに向かう者もいました。
その水面下では、グランスタと聖歌庁がそれぞれの思惑を垣間見せていることに気付くアイドルもいたことでしょう。
★☆★
――グランスタ本部。
総裁である
烏扇 統夜直々の招集に応じたアイドルたちは、
グランスタが所有するとあるシークレットライブホールに集められていました。
「我々で手を組み、共にいざ聖歌庁の悪逆を止めようじゃないか」
烏扇は壇上からアイドルたちを見回すと、ニヤリと表情を歪ませました。
長く彼と付き合いのあるフェスタ生であれば、その見覚えのある笑顔の裏には何か企みがあることに勘付くことでしょう。
しかし今回は彼の側にとあるゲストがいたのです。――ネヴァーランドの創造主である、
神様その人でした。
「僕からもお願いだ。これはいつもの悪ふざけじゃなくて、わりとマジのやつ」
神様が眉尻を下げながら珍しく真剣なトーンで呼びかけました。それを見て、烏扇は言葉を続けます。
「……聖歌庁は重大な隠蔽をしている。しかもそれは芸能界も容認、ひいては協力していると考えられるだろう。
1つ目は、奴らは
また新たな小世界を既に発見していること。
2つ目は、その世界に彼らにとっての“邪悪”が潜んでいるとみなして、
そこに住まう罪無き民もろとも世界そのものを消滅させる気でいることだ」
「僕もネヴァーランドを一度リセットしようとした身だ、他人事に思えない。
それに……彼らが消したい人物は多分僕の縁者でもあるんだ。うん、ママと言ってもいい」
聖歌庁が世界を消滅させる? 創造神のママ……??
ホールに様々などよめきと戸惑いが生まれたのを見て、神様は「ちょっと~」とおどけてみせました。
「確かに僕は創造神だけど、じゃあ僕はどうやって生まれたのって話じゃ~ん。
僕だって創られたのさ、世界を創る存在として。遠い遠い昔――遠い遠い
“アゴン”で」
アゴン。はるか昔、小世界パトリアを人工的に創り出した世界であることが分かっています。
にわかには信じがたいことに、神様曰く彼もまたその世界で生み出され、世界を作るいろはを学んだとのことでした。
もっとも、あえて消されている記憶も多いらしく「僕自身も創世実験の一つだったのかな~」と本人は能天気に笑っています。
神様のペースになり始めた空気を察したのか、烏扇がゴホンと咳払いをして再び話を戻しました。
「で、だ。聖歌庁が狙っている小世界はそもそもその所在が特殊らしく、現状行き方も分からない。
しかしその世界への繋がりのヒントもまた、アゴンに残っていると踏んでいる」
「そのアゴンの場所はね、じゃじゃ~ん。ママに貰った『天地創造の書』の奥付に載ってるっぽいでーす!
だけど見てよ、超ワケありな見た目してるでしょ」
神様が取り出した古びた本には、光の鎖が幾重にも巻かれていました。
どうやら奥付を見るのにもまた苦労しそうだということで、フェスタのアイドルが応援に呼ばれたようです。
烏扇は再び前に出て、両手を広げて高らかに演説を締めくくります。
「私は悲劇を止めたいのだ。件の世界とも、ひいては“邪悪”とも――我々ならばきっと上手くやれるのではないか?
お前達に教えられたことだ、フェイトスターアカデミー。真の平和を目指そうではないか!」
演説を終える烏扇の瞳は、やはり野心にメラメラと燃えていたのでした。
★☆★
――聖歌庁。
グランスタに疑問を持ったフェスタ生から情報を得た
マルベル・クロルは露骨に嫌そうな顔をしました。
「……はーっ、コッチからはノーコメよノーコメ。
あのマナシジャを引き入れた時点でフェスタはアタシ達に危険視されてるの、忘れてナイわよね?
更生させるカラ今回も許してアゲテ~なんて言われるノは今度こそカンベンしてほしいワケ!」
いつもに増してピリピリしている様子のマルベルは心なしか少しやつれているように見えます。
彼女がアイドルたちを案内した先は、聖歌隊の広いレッスンルームのようでした。
今回、アイドルたちが聖歌庁に呼ばれたのは訳があるのです。
「アンラが目を覚まさなくなって、3週間になる」
レッスンルームの一角のベッドに横たわる、痛ましくやせ細った様子の
アンラ・マンユ。
そして険しい顔で彼女の側に立つのは
白陽 秋太郎でした。彼はアイドルを前に「夢は見ているか?」と続けました。
「以前、アンラはよく悪夢を見るようになったと言っていた。
お前達の中にも身に覚えがある者はいるだろう。地球だけでない、
世界を問わず悪夢が人々を蝕み始めている。
彼女はその元凶を探るべく悪夢にもう一歩踏み込み――引き込まれた」
時折、アンラは自嘲的な笑い声のような、或いは助けを求める泣き声のような苦しげな寝言を漏らすようでした。
彼女が悪夢の中で孤独に戦い続けているのが伺えます。
そして、悪夢に介入してアンラを目覚めさせることが今回の依頼でした。
「その“悪夢”にとってアンラは特異な存在らしい。
彼女は招かれるように入り込めたが、お前達が悪夢に到達するほど深く眠るには一筋縄では――」
秋太郎がぴくりと言葉を止めました。アンラがうわ言のように「秋太郎」と名を呼んだのです。
「どうやらずっと、イドラを生み出した頃の夢を見ているようだ。……私が、彼女に何もしてやれなかった頃の。
…………これ以上見ていられない。どうか、アンラを夢から連れ戻してやってくれ……」
いつも高圧的で感情の見えにくい秋太郎が珍しく見せた人間らしい表情に、アイドルたちは息を飲みます。
そしてその切実さは、このミッションの難しさも表していたのでした――。