かつて『悪しきイドラ』によって地球から完全に切り離され、長く忘れ去られていた世界
フラグランド。
アイドルたちはフラグランドにある街の一つ、
フィフスシティにて
アメリア・ワイズ、
グラ・ワイズと住民たちと絆を結び、
【Frag-Connect】の開催によって分断された大地に虹の橋をかけることに成功しました。
しかし依然としてフラグランドの他の街と連絡が取れないため、
アメリアとグラ、当初は敵対していたオルガノレウム研究者
オルガ・フールは
アイドルたちと共にこの問題を解決するべく虹の橋を渡り、全部で七つある街を訪れていきます。
三つ目の街、
フォースシティにて住民との交流を目的としたライブイベント
【5-4 Flag-Connect】を成功させたアイドルたちは、
確かな手応えを胸にフィフスシティに帰還しました。
数日後、かつて敵対したアイドルグループ
『プライマリーズ』から正式に、
フォースシティへの入場および先の街である
サードシティへの通り抜けを許可する通知がフィフスシティのアイドルたちへ行われました。
喜びに湧くフィフスシティ。
……ですがここから先はさらなる困難が待ち受けていることを、中心となる人物である三名は強く思っていたのでした。
■□■
――フラグランド:フォースシティ
「この先に伸びる道を進んだ先に、サードシティが見えてきますわ」
「ああ、わかった。わざわざ見送り、ありがとな」
アメリアとグラを見送りに街の外までやって来た『プライマリーズ』のセカンド、
グリーンが口にした後、少し言いよどむ仕草を見せてから意を決して再度、口を開きます。
「……お気をつけください。サードシティにはファーストのマゼンタが向かっています。
敵対するつもりは無いと言っていましたが、マゼンタはファーストの中でも興味心が強く、かつ非常に好戦的なアイドルです。
キリィ様の助力を得て、サードシティで皆様方に何らかの形で勝負を挑んでくる可能性が高いですわ」
隣に居た同じく『プライマリーズ』のセカンド、
オレンジがおや? とさも意外そうな顔をしてグリーンを見ます。
「セカンドとして、話を通すと約束しましたから。力及ばなかったのをそのままにはしておけません」
「ありがとうございます、グリーンさん。
プライマリーズのファースト様との勝負、厳しいものになるとは思いますが楽しんでいきたいと思います」
微笑みを向けてきたアメリアへグリーンが一度は視線を逸らし、しかし首を小さく振ってアメリアと視線を交わし合います。
「皆様が無事に、ワンスシティへたどり着けますように。
またいつか、フォースシティへいらしてくださいね」
「待ってっかんな! 次は負けねぇぞ!」
グリーン、オレンジに見送られ、
『ウィッシュコネクト』に乗り込んだアメリアとグラはサードシティに続く道を進み始めました。
■□■
――フラグランド:フィフスシティ
『グラだ。こっちはフォースシティを発ってサードシティへ向かっている。
グリーンからの情報によれば、マゼンタっつうファーストの一人が既に準備万端って感じみてぇだ』
モニターの向こうのグラに頷いたオルガが端末を操作し、別のモニターに該当する人物であるマゼンタを映し出しました。
「サードシティはひときわ高い防壁で囲われ、外から中の様子を伺うのは難しい。
ポントリンからなら確認できなくもないが、キリィがサードシティに出てきているとなれば話は別だ」
マゼンタの隣にキリィを並べ、オルガが険しい顔を浮かべます。
『キリィさんはお母様同様、優秀なアダプターなのですね』
「ああ。カリオと同じアダプターライセンス【Supreme】を頂いている。
カリオがそうだったように、キリィも異世界に対する認識を得ているだろう。
俺たちがここまで来られたのはアイドルたちの力に依るところが大きかったが、ここからは簡単には行かないだろうな」
『なるほどな。けど、あたしらだって前までのあたしらじゃねぇ。向こうがやるつもりってんなら、受けて立つ。
……ま、穏便に済めばそれが一番だけどな』
グラの声にアメリアも同意の頷きを返します。あくまで世界を再びひとつに繋ぎ直すためであり、世界を敵に回すつもりは無いのだ、と。
(二人には悪いが――そうはならないだろうな)
一人オルガは心の内でつぶやきました。
直前にモニター越しに相まみえたキリィからは、何があっても自らの思うものを成し遂げようとする意思が強く感じられたからです。
「俺はポントリンでサードシティへの接触を試みるつもりだ」
『失礼とは思いますが、大丈夫ですか?』
アメリアの問いにオルガは、自らを嘲るような笑みを浮かべるだけでした。
「お前たちだけ、猛獣の檻の中に放り込むような真似をするつもりは無い。
心配するな、ここには十分な設備がある。それに……ここは俺にとってもホームだからな」
『へっ……そうだぜ、姉ちゃんとあたしのホームだ。ちゃんと帰れるように守ってくれよな?』
グラの声にオルガがふん、と息を漏らしたところで、サードシティが目前に迫っている旨を伝える機械音声が聞こえてきました。
『いよいよ、か』
『では、行ってきますね』
短く、決意を込めた声を最後に、二人からの通信が切れました。
「…………」
少しだけ、真っ暗になったモニターを見つめていたオルガが気持ちを切り替えるように首を小さく振り、手のひら大サイズの台座のような装置を起動させます。
オルガノレウムの光が集まりそこに現れたのは、
『ポントリン』のマスコットキャラクター、
POLINでした。
「力を貸してくれるか。ポリン」
「あい!」
頭を撫でられたポリンが笑顔で頷き、ポントリンへのアクセスを行います。
「お前に言われずとも、こちらから会いに行ってやるさ。キリィ……!」
■□■
――フラグランド:サードシティ
高い防壁に覆われた街、サードシティ。どこか硬い雰囲気を漂わせる街の中で最も高く、そして街の中心に位置する建物の一室にて、
赤のコスチュームに身を包んだ『プライマリーズ』のファースト、
マゼンタ、そして
ワンスシティの長を務める
キリィが顔を合わせ、何かについて話をしていました。
「ご協力感謝いたします、キリィ様」
「礼には及びませんよ、マゼンタ。
正直なところ『デッド・スプリット』以降、住民には十分な娯楽を提供できていなかったように思います。
あなたが持ち込んだプランは住民をきっと、楽しませることができるでしょう」
「ふふ、光栄ですわ。
……あら、本日のゲストがいらっしゃったようですわね」
マゼンタが端末を操作すると、モニターにアメリアとグラの姿が映りました。
二人は今、
マゼンタシスターと呼ばれているマゼンタの管轄下にあるアダプターに囲まれるようにして、マゼンタとキリィの居る建物に向かっています。
「これから始まるプランの説明を、妹たちにさせています。
さあ、ここまで来ることができますかしら?」
そう口にするマゼンタの表情は、二人が勝負に勝ち、自分の下へやって来るのを心待ちにしているようでした。
(……いいえ、二人はここへは来ませんわ。カリオの遺児である二人は今や、フラグランドの希望となりつつあります。
それは私にとって非常に、都合が悪いのですよ。ですので――ここで消えていただきます。不幸な事故で、ね)
一方でキリィは、穏やかな笑みの裏に黒い感情を隠していたのでした。
「止まったみたいだな。俺たち随分落ちてたよな?」
「そうみたいね。なんだかわからないけど、やってやろうじゃないの。さあ、ショータイムよ!」
火野アラタの問いに
ハルが答え、扉に手をかけます。開いた先の空間へ足を踏み出したところで、一行をまばゆいスポットライトの光が照らし出しました。
『さあ! 勇敢な挑戦者は奈落の底を翔け上がり、舞台に上がることができるのか!?
【TRAP CELLAR】、これより開幕となります!』
アナウンスが一行の耳に届き、眩しさから解放された一行は目の前にステージが広がっていることに気づきました。
「先程説明を受けました通り、私たちが相手アダプターとの勝負に勝ち続けることでマゼンタさんとキリィさんに会うことができます」
「ようやくだな。いいぜ、あたしらは負けねぇ!」
ステージへ駆け出す一行。
アイドルたちは無事天辺まで到着し、マゼンタとキリィと会うことができるのでしょうか――。