かつて『悪しきイドラ』によって地球から完全に切り離され、長く忘れ去られていた世界
フラグランド。
元はひとつの大地であったフラグランドは『悪しきイドラ』の切り離しの力、
デッド・スプリットによって分断され、
人類は直後に出現した
エグズーダーに生活を脅かされていました。
アイドルたちはフラグランドの街のひとつである
フィフスシティにて
アメリア・ワイズ、
グラ・ワイズと住民たちと絆を結び、
【Frag-Connect】の開催によって分断された大地に虹の橋をかけることに成功しました。
しかし、これで問題が解決したわけではありませんでした。
フラグランドにはフィフスシティの他、全部で七つの街があるのですが、虹の橋がかかった後も他の街と連絡がつかないのです。
『ポントリン』のネットワークでも、接続を拒否されてしまっています。
この問題を解決するためには、直接他の街を訪れる必要がありました。
アイドルたちはアメリアとグラ、当初は敵対していたオルガノレウム研究者
オルガ・フールと準備を整え、
ついに虹の橋を渡って新たな一歩を踏み出します。
シクスシティを訪れたアイドルたちは、
【6.LIVE Fes】を通じて繋がることができました。
大盛り上がりを迎えたイベントから一夜明け、朝の光が街を照らしていきます――。
■□■
――フラグランド:シクスシティ
開放的な間取りの一室へ、グラがあくびをしながら入っていきます。
部屋には既にアメリアとオルガ、さらにはシクスシティの代表を務める
スガー・ビーンズと
サルト・ビーンズが着席していました。
「おはよう、グラ。よく眠れた?」
「おはよう、姉ちゃん。あぁ、昨日はいいライブができたからな」
アメリアの隣に着席したグラの手元に、朝食が運ばれてきました。
「おはようございます、皆さん。昨日はお疲れさまでした」
「あれほど盛り上がった
コン・パフォーマンスは初めてでした。
フィフスシティの皆さんと一緒にライブができて、今ではとても良かったと思います。
勝手ではありますが、皆さんの朝食を用意しました。どうぞ、召し上がってください」
「ありがとうございます、スガーさん、サルトさん。では……いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
談笑を交えながらの、朝食の時間が過ぎていきます。
「エグズーダーより回収した装置の解析ができましたので、皆さんにお伝えします」
朝食を終えた各自の手元に飲み物が置かれ、オルガがコーヒーを一口啜った後、先日シクスシティを襲ったエグズーダーに関して判明したことを一行に説明します。
「解析の結果、
デ・アダプターであることが判明しました。
デ・アダプターとは我々、オルガノレウム研究に携わる者が
“オルガノレウムを取り出すことができるもの”の総称として命名したものです。
建物に設置すればその建物は
ポントリンからオルガノレウムを供給されなくとも自立稼働が可能となり、
また生物が装着すれば
アダプターになることができます」
目の前に置かれた装置を、各々が静かに見つめます。
アダプターがここ、フラグランドでは希少種でありとても有用な力を持っているからこそ、
その力を得ようとする研究が盛んに行われそして成果物としてデ・アダプターがある、それはある意味自然なことでした。
「これがエグズーダーに着けられていた……ということは、エグズーダーもアダプターになるのですか?」
「アダプターの定義は
“オルガノレウムを自発的に取り込み、取り出すことができるもの”です。
そしてこの装置にはオルガノレウムの取り込み機能が組み込まれていません。
装置の稼働にはエグズーダー自身のオルガノレウムを使用するようになっています」
質問したアメリアの表情に陰が落ち、グラがなんてことを言うんだ、と視線でオルガを責めます。
「
フォースシティには私のような研究者が居る、ということでしょう」
「よく言うぜ……ん? 今、フォースシティって言ったか?」
呆れた表情を浮かべたグラが直後、フォースシティという単語をオルガに聞き返します。
「このデ・アダプターにはフォースシティの情報が残されていました。
製造は別の街だとしても、調整はフォースシティで行ったものと思われます」
「……穏やかじゃねぇな。ここと同じようにはいかなそうだ」
「そうね……何かいい方法はないかしら」
敵対の意思をあらわにしている街に、シクスシティの時のような対応は望めないでしょう。
「いい方法かどうかはわかりませんが、シクスシティとフォースシティはポントリンで繋がっています。
ポントリンを通じてフォースシティの住民と交流を図ることができれば、門前払いは避けられるのではないでしょうか」
スガーの提案に、オルガが腕を組んで応えます。
「確かに交流を図ることはできますが、その場合ワンスシティから報復を受ける可能性があります。
ワンスシティの技術力がこちらを上回っているのはほぼ確実ですから、どんな報復を受けるかわかりません」
言外にシクスシティを巻き込みたくない、と告げるオルガへ、サルトが立ち上がり身を乗り出して告げます。
「それでも、協力させてください。
私は【6.LIVE Fes】を通して皆さんに、もう一度世界をひとつに繋ぐ可能性を見ました。
皆さんならきっと、分断されてしまったフラグランドを繋ぎ直すことができると信じています」
サルトの言葉にアメリアが微笑み、グラが照れくさそうに笑い、そしてオルガが頭を抱えつつ重々しく口を開きます。
「……やるだけ、やってみましょう。シクスシティに被害が及ばぬよう、ポントリンを調整します。端末をお借りできますか?」
「わかりました。準備しますので少々、お待ちください」
スガーとサルトが共に頷き、必要な準備のために席を立ちます。
「すげぇな、そんなことまでできんのかよ」
「実際にするのは私ではありません。
POLINです」
「POLIN……あっ」
オルガの言葉の意味を悟ったアメリアが口に手を当て、遅れてグラも同様に口をつぐみます。
(ワンスシティに行かねば、俺の目的は達成されない。
そのためなら何だって使ってやる……たとえ娘であってもな)
■□■
――フラグランド:フィフスシティ
街の中心に位置するステージ、
(∫C)Wish Stageにて。
「おかえり、アメリアちゃん、グラちゃん。元気な顔が見られて嬉しいわ」
「はい、ただいま、です。カインさん」
「みんなの声、受け取ったぜ。ちゃんと帰るのは先になるかもしれねぇけど、みんなが居るからさびしくねぇな」
「俺たちでできることは精一杯やります、皆さんもどうか頑張って!」
『おかえり』の言葉をかけてくれた
カイン・ヤングへアメリアが笑みを浮かべて頷き、
街の住民の言葉を届ける手伝いをした
フィリップ・ポーと
ソーン・ジョブへグラが感謝を口にします。
「フィフスシティとシクスシティがポントリン上でも繋がったことで、このように会話を交わし合ったり、ライブで交流を図ることができるようになりました。
急な申し出でしたが、必要な作業を行っていただきありがとうございます」
「へっ、改まって礼を言われるのは不思議な気分だが、悪くねぇ。
なぁにこの程度、大した手間でもねぇ。これでフォースシティとも交流できるかもしれねぇってワケだろ?」
ザイン・オールドマンの声にオルガが頷き、言葉を続けます。
「シクスシティの協力で、ポントリン上にいま皆さんが立っているステージを置きそこでのライブをフォースシティの住民が観られるようになっています。
演者の皆さんがステージでライブを行えば、まったく同じ光景がポントリン上でも展開される、簡単に言えばそういうことです」
いま、ステージにはアメリア、グラ、オルガと街の住民たちが一堂に会しているように見えていますが、実際は先の三名はまだシクスシティに居ます。
お互いが離れた場所にあってもまるでそこに居るかのようにしてくれるのは
ポントリンのおかげでした。
「ここフィフスシティとシクスシティのステージ、そしてポントリン上のステージの光景は繋がっていると思っていただければ。
ただ、観客の来場には制限をかけています。フォースシティの住民をフィフスシティ、シクスシティに招き入れるのは今の段階では危険ですので」
「まぁ、そうだな。けど交流がうまく行ったら、また昔みたいに気軽に話せるようになるといいな」
カインド・ムードの声に、皆がそれぞれ同意の頷きを返しました。
『――! ――!』
直後、警告を知らせる音が皆の耳に届きます。
「これは――ウィッシュ・ゲートからか。……ザインだ、どうした?」
『橋の向こう、フォースシティ方面からエグズーダーの集団がやって来ました!
集団の先頭にはアダプターの存在も確認できました。おそらくは彼らがエグズーダーを従えているものと思われます!』
「本格的に仕掛けてきたってワケか。ダルトンとカルロを向かわせておいて正解だったな」
『隊長! こちらでも拠点からの報告を受けました。あと数分で拠点に着きます!』
ザインがつぶやいた直後、アイドルと住民たちが築いた橋頭堡である拠点、
ウィッシュ・ゲートへ移動していた
ダルトン・ストーンと
カルロ・ストーンが通信を送ってきました。
「よし。二人はウィッシュ・ゲートに到着後、シクスシティから来る仲間と連携を図りつつ
アーチ・ザ・レインボウ防衛を最優先に行動せよ」
『『了解!!』』
橋は自分たちが守る、という強い意思を秘めた返事を最後に、二人からの通信が切れました。
「フォースシティが攻勢に出たということは、ポントリン上でも何らかの妨害行動を行う可能性があります」
「みんな、力を貸してくれ!」
「わかった! ライブの邪魔はさせないぜ!」
ポントリンでのライブを安全に行うため、アメリアとグラ、オルガがそれぞれ必要な準備に取り掛かります。
慌ただしくも各自がなすべきもののため、行動を開始しました――。
■□■
――フラグランド:アーチ・ザ・レインボウ、シクスシティ、フォースシティの中間地点
「ここまで来れば、向こうも私達に気づくでしょうね」
「――ああ、そのようだぜ」
緑色に発光するスーツをまとった女性、
グリーンに頷き、
橙色に発光するスーツをまとった女性、
オレンジが首を振り向け促せば、彼女らを観測するドローンが浮遊していました。
「いいのか? これだけの戦力なら橋を落とすことだって出来たと思うぜ」
「そうでしょうね。でも私達は侵略者でもなければ、ましてや悪役でもない。
あくまで正義の執行者として、対する正義を有する者を屈服させる――それでこそ私達
プライマリーズの存在理由よ」
「この場にはアンタとアタシしか居ないけどな」
「……、パープルはサードシティに出張中ですからね。
でも、ここでフィフスシティを屈服させることができれば私達も晴れてファーストの仲間入りよ! もうセカンドなんて呼ばせないわ!」
悔しさを滲ませるグリーンを、オレンジがやれやれ、と呆れた様子で見つめていました。
「……コホン。それでは、参りましょう」
咳払いを一つしてから、グリーンがドローンに向けて名乗りを上げます。
「我が名はグリーン! フォースシティの守り手、そしてフラグランドのアイドル、プライマリーズのセカンドメンバー!」
「同じく、オレンジ」
オレンジが投げやり気味に名乗りを上げ、グリーンがもう、と言いたげに頬を膨らませてから、気を取り直してドローンにビシッ、と指を突きつけます。
「さあ、フィフスシティの皆さん! かかっていらっしゃい!」
アイドルたちはこの危機を脱し、フォースシティと交流を持つことができるのでしょうか――。