――地球、小笠原諸島近海。
真の女王器とも呼ばれる、十二星華と女王のためのイコン
ゾディアックは、
小笠原海溝のはるか底に沈んでいるという情報が、契約者たちの協力のもと判明しました。
日本の協力もあり、場所についてある程度の検討はついているものの
それでも範囲は広く、深さも相当なものであるため、捜査は難航。
アムリアナ女王は、ロイヤルガードを含む契約者たちに広く協力を求めていました。
ゲルバッキーによれば、ゾディアックは剣の花嫁に反応して自分の居場所を示し
十二星華であればよりそれは顕著になる――とのことですが、
「圧倒的な広さと水圧。
ゾディアックはまるで“二度と見つけられないよう”水中に棄てられたのでしょう。
でも、それでも……」
どこか思いつめたような表情をしているアムリアナ。
探索のためにもぐっていたイコン・ガネットごしの視界は暗く、ライトの光もあまり遠くまで届かないようです。
――そのとき!
『海底から何かが急速に近づいています!
これは……
ペンギン!?
巨大なペンギンがこちらへ突撃してきます!!』
ガネットのパイロットはそう報告すると、近づいてきたペンギンに弾き飛ばされました。
バラバラにならなかったのは幸運なほどの勢い、そしてその姿に、
ティセラ・リーブラは驚愕します。
「あれは……
ジュウニシマツシリーズ!
完成していたんですの……?」
「なんですぅ、その鳥の言い間違いみたいな名前は……?」
エリザベート・ワルプルギスが問うと、ティセラは真剣な面持ちで答えました。
「ジュウニシマツは剣の花嫁、そして十二星華に対抗するために作られた
鳥類型生物兵器……あれはおそらく、そのペンギンタイプですわ」
「ゾディアックを守ってるのかしら……」
サーハ・アルベールがそう言い、
金鋭峰は首を振りました。
「だとしても、我々の任務に変更はない。
立ちふさがる障害を排除し、目標物を手に入れる」
――ですがその瞬間、彼らの乗っている母艦に
けたたましい警報が鳴り響いたのです!
■ □ ■
――小笠原諸島、近海
洋上に並ぶアメリカの艦隊は、日本との同盟に基づき
女王たちの乗る船を守るように展開していました。
しかし。
『“真の女王器”は我々鏖殺寺院がいただく!!』
ドォン!
「沈められた……!?」
巨大な蠅のようなイコンが唐突に空中に出現したかと思うと、
ミサイルで船を真っ二つに破壊してしまいました。
それは、空中を警戒していた
辻永翔でさえ反応できないほどのスピードでした。
『
シュヴァルツフリーゲ・レクス……
ゲルバッキーの420億をすべてつぎ込み、“星の棺”から得た設計図をもとに作り上げたこの機体なら
契約者どもに後れを取ることは……ない!』
(埼玉の遺跡で奪われたのは、あれだったか)
コリマ・ユカギールの頬に汗がにじみます。
「イコン部隊をすぐに出して。
女王にロイヤルガードの派遣を要請してもいい――なんとしてもこの場を守るわよ」
そして
御神楽環菜は、契約者たちにも協力を求めたたのでした。
■ □ ■
――いっぽう、小笠原諸島の
嫁島。
「やっと着いたな」
「久しぶりの帰省ですし、羽根を伸ばしたいところですけど――」
リアム・ヤマハと
聖凛・アームルートの二人は
故郷(発見場所)である嫁島に、フェリーでのんびり到着しました。
とはいえ、彼らは
ゲルバッキーからあることを頼まれてこの島にやってきていました。
ゲルバッキーは嫁島は聖凛が眠っていた神秘の島であり、
ゾディアックのヒントがあるのではないかと考えていたのです。
(ここになら、おそらく俺が失った記憶も
何らかの形で残っているはずだ。伝説とか、あとおまんじゅうとかに)
「おまんじゅう……?」
聖凛が傾げたその首元に、いきなりゾンビがかみつきました!
「グオオオオッ!」
「これは……!?」
聖凛はとっさに、光条兵器の力でゾンビを真っ二つに斬りました。
なんと嫁島は、
ゾンビのうろつく死の村となっていたのです!
(安心しろ、ここにいる死人はソウルアベレイターがナラカより召喚したいわばエキストラ。
地元の人は公民館に避難している。
だが、ほうっておけば全員死人だろうな)
そしてゲルバッキーは、リアムたちにナノマシンで作ったおまんじゅうを差し出しながら言います。
(嫁島の古老たちを守れ……そうすればゾディアックの装備、
まあ今風に言うと
6Gウエポン「上弦」と「下弦」を開発できる)
「待ってたぜ光るワンちゃん!」
「お前は……
ソウルアベレイター!」
嫁島をゾンビで埋め尽くしたのは、ナラカから転生してきた
ソウルアベレイターのひとりでした。
(名札からすると「阿部怜太」さんか!)
「ああ、契約者の肉体を手に入れて
はやりの英雄になってやった!」
ソウルアベレイターの力は以前よりも増しており、英雄と呼ぶにふさわしいものであることは
誰の目にも明らかでした。
「ゾディアック、こちらも欲しいからな。
それさえあれば“あいつら”とも戦えるんだろ?」
そして、ソウルアベレイターの放ったその言葉に
ゲルバッキーはいきなりブチ切れました。
(はあ!? 何お前らやろうとしてるの!?
ぜってえ、許さないから!)
「おい、あいつらって何だよ?
っていうか、何の話をしてるんだ……?」
「そんなこと言ってる場合じゃないです!
今はとにかく、嫁島の人を守らないと!」
■ □ ■
――こうして。
シャンバラ、鏖殺寺院、そしてソウルアベレイターが入り乱れ
ゾディアックをめぐる争奪戦が幕を開けたのです!