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カナン。
シャンバラの北東部、エリュシオンの南西部に位置する国です。
約束の地といわれるこの国は
世界樹セフィロトの化身であり豊穣と戦の女神
イナンナと
それを補佐する神官の力により、国は緑にあふれる豊かな国
――でした。
しかし、征服王
ネルガルがイナンナを封印し、
その力をわがものとしたことで国は乱れていました。
西カナンの
ドン・マルドゥーク、そして南カナンの
シャムス・ニヌア。
二人の領主は契約者の協力を得てネルガルへ反旗を翻し、
カナンの再生がようやく始まったのです――。
■□■
シャムス。
――なに? 父さん。
いいか。
この世で大切なのはな、絆だ。
――絆?
そう、絆だ。
俺とお前の絆。母さんとお前の絆。
そして……エンヘドゥとお前の絆だ。
■□■
――カナン上空、
飛空艇
エリシュ・エヌマの艇内。
「黄金のイコン……
ギルガメッシュ。
本当に、おとぎ話で聞いた通りだ」
「ふふ、そうでしょ?」
自慢げに胸を張る女神
イナンナ。
その視線の先にあるものを見て、
シャムスは驚きをあらわにしていました。
「このイコンとエリシュ・エヌマがあれば、
神聖都の砦も落とせるかもしれねぇ。
そうすれば、
ネルガルにとられてる人質――」
「
ドンちゃんの家族も助けられるかもしれない、ってわけね」
十二星華の
セイニィが期待を込めて言います。
しかし、
ドン・マルドゥークは首を横に振りました。
「いいえ、以前も言ったでしょう。私の妻子は、おそらくもう」
「まだわかりませんわ」
「……人質は、生かしておくから価値がある……」
ティセラや
パッフェルの励ましにも、彼らしくない、弱々しい笑みを浮かべるばかりです。
彼は人質に取られている妻子の命を諦めて、カナンを“約束の地”へと再生させるために立ち上がったのでした。
「私のことよりも……シャムス殿。
おそらく妹と戦うことになるあなたの心中をこそ、察するに余りある。
本当に、このギルガメッシュに乗るおつもりか?」
気づかわしげなマルドゥークに、シャムスは沈黙をもって答えとしました。
妹であっても、立ちはだかるのであれば戦うまで――
彼……あるいは彼女の覚悟は、マルドゥークと同じなのです。
「……我々には、心強い味方がいます。
それにまもなく、我々の手にも
アンズーが届く。
ひとりで戦っているわけではありませんぞ、シャムス殿」
「……ああ。感謝する、マルドゥーク」
「もう、辛気臭すぎだってば。
あんたたちがそんなんじゃ、みんなの士気が下がるわよ?」
サーハがそう言うと、マルドゥークとシャムスは頷きます。
「そうだな。これから皆で、あの美しきカナンの姿を取り戻すのだ。
見据える先は、希望でなくてはな」
■□■
――
神聖都の砦。
「連中やっぱり、こちらへ向かってるようですねぇ」
ぼろきれのようなローブで身を隠した男――魔女
モートは、くつくつと不気味な笑いを立てました。
そして彼の笑い声を聞いていたのは、“白騎士”の異名通り純白の鎧をまとう
エンヘドゥ・ニヌアです。
「……手筈通り、我々“純白の翼”が姉さんたちを迎撃しますわ。
モート、あなたは――」
「ひゃひゃひゃ……あなたに言われずとも、人質を奪われないよう備えはしてあります。
あれは
ニンフ様の秘蔵の手駒、そう簡単にはやられませんよ。
そちらが下手を打つようなことがなければねぇ」
「そのために、これを持ってきたのでしょう」
そう言ったエンヘドゥの視線の先には――
ギルガメッシュと瓜二つの
白銀色に輝くイコンがありました。
「イコン、
エンキドゥ……神官長に伝わる神像。
これで――やっと姉さんを」
「ええ。やっと倒せるんですよ。あの憎たらしいお姉さんを」
そう言って、モートはニタニタと笑いながら、手の中にある
黒水晶を転がします。
(まったく脆いものですねぇ、人の心というものは――
いわんや、双子の絆をや。
せいぜい、兄弟機でつぶし合ってもらいましょう。
いざとなれば、
エンキドゥの自爆装置もあることですしねぇ……)