かつて『悪しきイドラ』によって地球から完全に切り離され、長く忘れ去られていた世界
フラグランド。
元はひとつの大地であったフラグランドは『悪しきイドラ』の切り離しの力、
デッド・スプリットによって分断され、
人類は直後に出現した
エグズーダーに生活を脅かされていました。
アイドルたちはフラグランドの街のひとつである
フィフスシティにて
アメリア・ワイズ、
グラ・ワイズと住民たちと絆を結び、
『Frag-Connect』の開催によって分断された大地に虹の橋をかけることに成功しました。
しかし、これで問題が解決したわけではありませんでした。
フラグランドにはフィフスシティの他、全部で七つの街があるのですが、虹の橋がかかった後も他の街と連絡がつかないのです。
『ポントリン』のネットワークでも、接続を拒否されてしまっています。
この問題を解決するためには、直接他の街を訪れる必要がありました。
アイドルたちはアメリアとグラ、当初は敵対していたオルガノレウム研究者
オルガ・フールと準備を整え、
ついに虹の橋を渡って新たな一歩を踏み出します。
一行が最初に訪れる街は、
シクスシティ。
アイドルたちへどんな出来事が待ち構えているのでしょう――。
■□■
――フラグランド:シクスシティ
「シクスシティの皆さん、私はアメリア・ワイズです。
私達はフィフスシティから来ました。シクスシティへの入場を希望します」
『……え? ワイズってあのカリオ・ワイズさん?』
対応した声にアメリアが一瞬、表情を強張らせすぐに胸に手を当て表情を戻し、はい、と返答します。
『それに今、フィフスシティって――いえ、今判断を下すのは早計ね』
門の向こうから通信を行っている者の声を落とした呟きを、三人は聞き逃すことなくしっかりと耳にしました。
『門を開放します。街に入ったらその場で待機してください、迎えの車を出します』
「ありがとうございます」
通信が切れ、やがて門が音を立てて開き出します。
「警戒されていますね」
「まずは様子を見ようって感じか」
「……行きましょう、今のシクスシティがどうなっているか、確かめなくては」
動きを止めた門をくぐり、三人が街の中へ立ち入ります。
再び門が音を立てて閉まり出し、そして前方から一台の車がやって来ました。
車は三人の前で止まり、そして二人の男女が車から出てきました。
「ようこそ、シクスシティへ。僕は
スガー・ビーンズです」
「私は
サルト・ビーンズです」
「あたしはグラ・ワイズだ。……もしかして、二人はきょうだい?」
「はい、僕が兄でサルトが妹です」
「そっか。似た者同士だな、あたしたち」
表面的には穏やかな会話を交わし合った三人と二人が車に乗り込み、街の中心部を目指します。
「聞き返すようで大変失礼ではありますが……皆さんはフィフスシティから来られたのですね?」
サルトの問いにアメリア、グラそしてオルガが頷きを返します。
「ありがとうございます。
フィフスシティはデッド・スプリットの発生地であり、滅んだものと聞かされていましたので、正直今も驚いているのが本音です」
「情報源はどこから――いえ、おおよそ検討はつきますが」
「ワンスシティです」
スガーの返答に三人がああ、やっぱり、と言うような表情をしました。
「カリオさんのことは偉大なアダプターとして、街の多くの住民が記憶しています。
そんなカリオさんの子供であるアメリアさんとグラさんのことを信じたい気持ちはあります。
……ですが、この街もそうですし、おそらくフィフスシティ以外の街は何らかの形で
ワンスシティから支援を受けているんだと思います」
「お二人が今すぐに街の住民から受け入れられる状態にはない、というのが本音です。
……すみません、こんな話をこのような場所で」
「気にすんな。こいつのおかげで覚悟はできてる」
グラがオルガの脇腹を小突くと、オルガが一瞬呻くような声を上げ、コホン、と咳払いをして取り繕います。
「オルガ博士はオルガノレウムに詳しいのですよね」
「そうですね。少なくとも彼女よりは、大分」
意趣返しとばかりにオルガがグラを不敵笑いで見下げながら口にし、グラが「てめぇ……」と拳を握って怒りを露わにします。
「ふふ。お二人はまるで、歳の離れた兄妹のようですね」
「ええ、手がかかる兄と妹ですわ」
「「誰が!!」」
互いの協力で車内の空気がある意味では良くなった後、車は目的地に到着したようで停止しました。
「ここは……ステージですか?」
「はい、その通りです」
降りた先に見えたのは、フィフスシティにあるのとはタイプの異なる、しかししっかりとステージとわかる建造物でした。
「シクスシティでは
『コン・パフォーマンス』といって、住民同士の意見の相違をライブ勝負で競うが日常的に行われています」
「街の実際の運営はワンスシティに依る所がほとんどですから、ある意味住民のストレス発散にもなっているんです」
「なるほど……ここにとっちゃ大事なイベントなんだな。で、競うネタはなんだ?」
「
『朝食はご飯かパンか』です」
「…………はい?」
サルトの至極真面目な表情で呟かれた回答に、アメリアとグラが揃って目を丸くしました。
「あはははは……なんか、緊張が解けてスッキリしたぜ」
「ふふ、そうね。どんな街か不安だったけど、大丈夫みたいね」
フィフスシティへの帰路を走るウィッシュコネクトの車内は、行きと比べて弛緩した雰囲気が漂っていました。
あの後――『朝食はご飯かパンか』を決めるライブイベント
【6.LIVE Fes】の概要を確認した一行はフィフスシティに戻り、
準備を済ませた後当日に再び訪れることを約束してシクスシティを後にしました。
「ライブイベントの開催は三日後ですか。
イベントに参加するアイドルは『ご飯派』『パン派』に分かれてライブを行うとのことですが……
第三の派閥を形成するのも面白いかも知れませんね」
「おっ、いいなそれ。どうした、あんたにしちゃセンスのある意見出すじゃねぇか」
「おや、ようやく私のセンスを理解できるようになりましたか。遅かったですね」
「てめぇ……頭きた。一発殴らせろ」
グラの拳とオルガの手甲がぶつかり激しい音を散らします。
「本当に、手のかかる兄と妹ね。ふふふ」
後ろで繰り広げられる兄妹喧嘩を微笑みと共に見守り、アメリアはライブイベントにお世話になったアイドルたちを招待しようと心に決めます。
(皆さんには住民のために、や街のために、私のためにライブしてもらっていました。
今度は、ただ純粋にライブを楽しんでもらいたいと思います)
■□■
そして三日後、再びシクスシティをフィフスシティの一行が訪れます。
今度はフィフスシティと共に歩んできたアイドルたちも一緒です。
「判定にはこれを使って! みんなのライブが街を守ってくれるわ」
ハルが
ドクタークルークから託されて持ってきた
『OL.ハルモニアゲージ』が二本、ステージに設置されます。
これは今日のライブイベント、『朝食はご飯かパンか』の判定に使われると共に、街を
エグズーダーから守る力にもなるものでした。
「私はどっちにしようかな……ご飯のもちっとしたのも、パンのふっくらとしたのもどっちも捨てがたいなぁ。
ま、私は食べないんだけど――」
「た、大変だ! 街の向こうから大量のエグズーダーの群れが、こっちに向かってくる!」
街の見張りを担当していたアダプターが血相を変えてステージに飛び込み、辺りの空気は一変します。
「そんな、エグズーダーはもう来ないんじゃなかったの!?」
「話が違う! ……まさか彼らが街に来たから……?」
住民の中にはやはりといいますか、フィフスシティから来たアイドルたちを訝しむ視線もありました。
「チッ、いいタイミングで現れやがって。街に被害が出たら俺たちのせいって事になっちまう!
行くぜ兄ちゃん! 俺たちでエグズーダーを撃退して、街を守るんだ!」
「ふぅ、どうしてこうなったのでしょうね……。
一番気に入らないのは、今の私の立ち位置を私自身がそれなりに気に入っていることでしょうか」
デバイスを展開した
火野アラタに急かされ、やれやれとため息を吐いたオルガが『デ・アダプター』を装着し後に続きます。
「皆さん、安心してください。街は強固な門で守られています。
フィフスシティから来たアイドルの方々が、防衛に動いてくれています。
彼らを信じ、街の力を信じ、私達はライブイベントを楽しみましょう」
街の代表でもあるスガーとサルトの言葉は重く、住民たちは少しずつ落ち着きを取り戻していきます。
「まるであたしたちみたいだな」
「ええ、そうね。……行きましょう、グラ。
私達のアイドル力、見せつけていきましょう」
「ああ!」
ライブ衣装をまとったアメリア、グラが互いの手を取り、ステージへ踏み出します――。
新たな一歩を踏み出した先、新しい街でアイドルたちは、どんな歌を奏でるのでしょう――。