人が“闇”に抗う剣と魔法の世界
ローランド。
グラン・グリフォン都市同盟を中心に暗躍していた闇組織『双頭の蛇』
その正体はデルク王国の前身である旧デルク帝国帝家の生き残りが、
国を取り戻すべく
“知の魔王”イスレロの知恵を借りて立ち上げた「人の王と魔王」の組織でした。
デルク王国の第三王子
エドヴィンは旧帝国の末裔であり、
学術都市プレジールの考古学者
ガヤルドとして人界に来ていたイスレロと共謀。
魔導剣“ソウルイーター”を完成させ、現王家への復讐を成すべく正体を隠して革命を扇動します。
しかし彼の真の目的は魔王と並ぶ力を手にし、人界を支配することでした。
死闘の末にソウルイーターは破壊され、エドヴィン王子も冒険者たちの手で倒されたことで、野望は打ち砕かれました。
デルク王国の革命も阻止されましたが、デルク王家は断絶。
奴隷を中心とした反乱軍と王国との間で一応の和解は成立していますが、
未だ王都は混乱の渦中にあり、改革は前途多難です。
エドヴィンと共謀していたイスレロ、「助っ人」としてイスレロの元にいた
ミリアは生き延びましたが、その後の消息は不明。
ヴェイロン、イスレロ、ミリア。
北部地方に立て続けに魔王が現れたことが引金となったのか……一連の出来事の裏で、
“かつての英雄”が復活を果たそうとしていました。
それは人族にとっての希望か、それとも――。
■ □ ■
――ダレストリス帝国、オケアノス宮殿。
「錚々たる顔ぶれが揃ったものだね」
「だが、これだけの者たちがいれば朕の悩みの種もなくなる。期待しているぞ!」
ダレストリス一世は王宮に集めた冒険者たちを見回しました。
冒険者時代からの戦友、
“金色”のゴールディ。
レガリス奪還の功労者、そして相当の蛇の陰謀を阻止した
『アカツキ』の
アストと
モニカ、
bold}『雷電の三連星』の一員であり、プリシラ王国第四公女
シャロン・P・ライトフィールド。
それぞれのパーティの他メンバーは、来るべき時に向けて“試練”に挑みに行ってます。
そしてダレストリス一世の両隣には、契約精霊の
サラマンドラを肩に乗せた近衛騎士
ビッグ・Mと、
侍女の
ラクロアが控えています。
レガリス王国での魔王ヴェイロンとの戦いの末期、
帝国もまた崩壊の危機に陥りましたが、多少の影響こそ残ったものの、
その後は特に大きな事件は起こっていませんでした。
しかし今、ダレストリス一世を悩ませるものがありました。
それが
『魔海賊』です。
「海賊に魔も人もないと思います、です」
教会のクレリックである
キキがぼやきますが、
とりあえずこれまでの海賊と区別するためにそう呼称しています。
帝国成立以前、ノースエンド海は海賊の支配領域でした。
沿岸都市国家は長く略奪に悩まされていましたが、
ダレストリス一世は彼らも海賊もひっくるめて「魔障壁を超える」というロマンで纏め上げ、帝国を築きました。
しかし彼を面白く思わず、未だ独立勢力として暴れ回っている者たちは少なからずいます。
このところは大人しくなっていましたが、ヴェイロン軍の残党が合流したことで再び活性化し始めました。
グラン・グリフォン都市同盟の大商会、マリオン商会との商談が成立したダレストリス帝国ですが、
流通のためにも海の安全確保は必須です。
「悪い意味で人と魔族が手を取り合ってしまったのだ。
それに奴らの今の拠点も厄介でな。無敵艦隊で総攻撃を仕掛けることができない。
……青の大精霊の眠りを邪魔したくはないのだよ」
以前調査した海底神殿。
魔海賊はそこに居ついてしまっているのです。
遺跡のある無人島は周囲を巨大なクラーケンやシーサーペントで固めており、容易には近付けなくなっています。
これを打ち倒すには念入りな準備が必要な上に海軍だけでは厳しいと、有力な冒険者を集めることにしたのです。
「だが性急な行動はかえって我が国を危険に晒す。
だから貴様たちも慌てることはなく、万全の準――」
言い終わる前に、ダレストリス一世は強大な魔力を察知しました。
宮殿の天井が崩れ、光の柱が降り注ぎます。
ビッグ・Mが防御しますが、受け止めきれずに吹き飛ばされてしまいます。
「魔王アクロノヴァ……いるな」
光の中から、黒に身を包んだ女性が現れました。
その色とは裏腹に、彼女が身に着けている全てに強大な輝神の加護が宿っています。
「私の記憶にあるアナスタシアはもう少し可愛げがあったんだが……場所を変えるとしよう」
いつの間にか王の間に姿を見せた
アクロノヴァが杖をかざし、空間を操作しました。
風景が変わり、王の間にいた者たちは平原に投げ出されます。
「も、もしかしてあなたが
“黒”のアナスタシアさん? その人、魔王だけど敵じゃな……」
「魔族は存在が罪。人界に不要だ。……排除する」
シャロンが説得しようとしますが、黒のアナスタシアは聞く耳を持ちません。
「キッド、冒険者。まずは此奴を止めねば魔海賊云々の前に国が滅びるぞ。
幸い、私の知るアナスタシアほどの力はない。……とはいえ、私も今の状態では少し荷が勝つがな。
話をするなり状態を確かめるなりするのはその後だ」
■ □ ■
――ダレストリス港沿岸。
「海賊だ! いや、違う……違わない、魔族の海賊だ!!」
オケアノス宮殿が黒のアナスタシアの強襲を受けた頃。
レガリス王国とダレストリス帝国を結ぶ連絡船に、件の魔海賊が乗り込んできました。
「あの光……教会が送り込んだ何かだろう。くくく、先に裏切者の方を始末してくれるとはな」
ダレストリス帝国が魔族も受け入れていることは、魔海賊も把握しています。
空を奔る光を確認し、教会は帝国を魔族と共謀するものとして裁きにきたのだと魔海賊の偵察隊は判断しました。
「我らが長に報告せねば。喜べ下等な人族ども。
このエイビス海賊団が三巨頭、
アロスネグロがお前たちを楽園に連れていってやろう」
襲撃者のリーダー格であろう魔族は、イカ足のような触手が髪の毛のように生え、粘ついた皮膚を持つおぞましい姿をしていました。
彼はリザードマンと人族の海賊を従えています。
「それは困るわね」
大きなトランクを携えた商人らしい少女が言い放ちます。
直後、イカ人間のような魔族は仲間であるはずのリザードマンに襲われました。
少女の指先から、リザードマンに鋼糸が伸びており、それに操られたようです。
「グラス。あとは頼んだわ」
それは商談を終えた
ベアトリス・マリオンでした。
護衛として“購入した”
グラス・テネーブルに後を任せ、
船員や冒険者の協力を仰ぎつつ乗客の安全確保に移ります。
「ヤツは……」
「あなたは確か、皇帝陛下の部下の……知ってるの?」
「おそらく、魔王イスレロの実験体だ。クラーケンと合成されたのだろう」
ベアトリスの疑問に、
ジギーが答えました。
「私と同じだ。だが……この国を脅かすなら容赦はせん」
■ □ ■
――ダレストリス領、“寄らず”の森。
「魔女の住む森、だったか。皇帝の話だと精霊の祠って場所があるって話だが……」
「それを見つけるところから試練は始まってる、だったかしら」
サラと
テッド、
レミと
エクレールは、精霊の試練を受けるべくこの森にやって来ました。
「シャロンとゲッカみたいになる必要はねぇが、これから先も魔族と戦うことにはなるだろう。
魔力や元素ってのをもっと肌で感じられるようになっとかねぇとな」
歩いているうちに四人は洞窟に辿り着きました。
テッドが先行して様子を見に行きます。
「中で道がいくつかに分かれてるな。……ん?」
戻って来たテッドは、何者かの視線に気づきました。
「どうしたの~?」
「誰かがオレたちを見てた。
“寄らず”って言われてるような場所だ。用心はした方が良さそうだぜ」