かつて『悪しきイドラ』によって地球から完全に切り離され、長く忘れ去られていた世界
フラグランド。
元はひとつの大地であったフラグランドは『悪しきイドラ』の切り離しの力、
デッド・スプリットによって分断され、人類は直後に出現した
エグズーダーに生活を脅かされていました。
放っておけばフラグランドは悪しきノイズに包まれ、他の世界にも影響を及ぼしかねない――。
聖歌庁がゲートを繋いだことで行き来できるようになったアイドルたちは、フラグランドから悪しきノイズを払い、世界を救うために旅立ちます。
ばらばらになった欠片を、再び繋ぐために――。
アイドルたちの新たな冒険が始まります。
■□■
――フラグランド:『ウィッシュコネクト』内
「あぁ、緊張してきた……!」
「お前が緊張してどうするよ」
そわそわと身体を落ち着きなく動かしている
ダルトン・ストーンを
ザイン・オールドマンが叱りつけます。
「そうは言いますけど、ザインさんだってさっきからもう何回周囲チェックやっているんですか」
「これは必要でやっていることだ、何せ住民の命預かってるんだからな。
……ま、お前の言う通り、緊張してないとは言わねぇ。
下手すりゃ俺たちがもう一度世界を繋ぐ、その主役になるかもしれねぇんだからな」
端末を開いて周囲の状況を確認しつつ、ザインが腕を組んでしみじみと呟きます。
「到着までおよそ15分です」
「よし、最終チェックだ。現地の整地は済ませているな?」
「はい、ザイン隊長。事前に
ポントリンで調査した、『Frag-Connect』開催に適した場所の周囲は既に整地済みです」
同乗する住民の報告を耳にしたザインとダルトンが、現地到着後の手順を確認します。
事前に確保された場所に『ウィッシュコネクト』と連結された客車を収容後、
『ウィッシュコネクト』を切り離し
『Frag-Connect』の舞台となるステージのパーツが収められたコンテナを牽引、
作業メンバーがステージを組み立てる一方、エグズーダー襲来に備えアダプターを主とする警備隊が『Frag-Connect』終了まで住民を守る、
そこまでの流れと配置するメンバーの確認が行われていきます。
「住民はもちろんだが、彼らが乗っている客車も守らなきゃいけねぇ。アイドルらとの連携をしっかり取れよ」
「わかっています。カルロも彼らと行動を共にし、連携するべきとの意識に至っています。
……個人的には我々と戦っていただくよりは、彼らのライブを聞いてみたくありますが」
ダルトンが冗談めかして口にすると、ザインも違いねぇ、と笑って応えました。
「アメリアとグラ、アイドルたちが存分にライブができるように、仕事を全うするぞ」
「はい!」
「お母様……もう少しでお母様の夢が叶います。
お母様が命を賭して繋いでくださった絆は、今、最高の形で結ばれようとしています」
微笑みを浮かべている
カリオ・ワイズのフォトグラフィーへ、
アメリア・ワイズが語りかけます。
「姉ちゃん、入るよ」
「ええ、どうぞ」
扉が開かれ、アメリアとお揃いに作られたライブ衣装をまとった
グラ・ワイズが入ってきました。
「ふふ、よく似合っているわ。もう何度もライブをしてきたかのような貫禄すら感じるわね」
「や、やめてくれよ。あたしは未だに信じられないよ、姉ちゃんやアイドルのみんなと同じステージに立って歌うなんて」
頭をかいて恥じらう今のグラは、普段の勇猛さはすっかり影を潜め、緊張に震える一人のアイドルとなっていました。
「難しく考えないで、あなたのライブを楽しんでちょうだい。
確かにこのライブは、『Frag-Connect』は分断された世界を繋ぐ、希望の架け橋をかけるという目的があるけれど――。
まずはステージに立つアイドルが楽しく、自分の力を発揮できるのがいいと思うの」
観客も、アイドルが楽しんでいる様子が伝われば、こちらから働きかける以上に楽しんでくれるはず――
先輩としてアメリアがグラにアドバイスをする。
「……ああ、そうしてみるよ。あのステージなら歌える気がするんだ」
出発する前にライブバトルをアメリアと行った感覚を思い出すように、グラが口にしました。
■□■
――フラグランド:『ウィッシュコネクト』を見下ろす地にて
「おやおや、立派なステージを用意して、それはそれは盛大に行おうとしていますね」
組み上がっていくステージを目の当たりにして、
オルガ・フールがククク、と不敵な笑みを漏らしました。
「実際に『Frag-Connect』が開催されれば、世界を分断している『デッドリージョン』にも変化が訪れるでしょう。
個人的には興味深いのですが――」
一瞬、研究者のような表情を浮かべたオルガでしたが、すぐに表情を消して頭に装着した端末を操作します。
「……憎いんだよ。何も知らずにオルガノレウムの恩恵を受けている奴らが」
――この憎しみが八つ当たりであることは知っている。
オルガの周囲から滲み出るように、無数の狼であり鳥であり鮫の姿である、エグズーダーが姿を現しました。
「こいつは取っておきたかったが、奴らには切り札を切らなければ通用しない」
――救いは要らない。とうに過ぎたこと、もう決して取り返せない。
オルガがさらに端末を操作すると、それまでのとは比較にならない広さの『デッドリージョン』が出現し、
巨大な鯨の姿をしたエグズーダーがそこから現れます。
「行け、『PL』。奴らをすべて、喰らい尽くせ」
――幸せに過ごしている者の陰で、絶望の海に沈んだ者の嘆きを知れ――
『!!!!』
雄叫びを上げた『PL』と呼ばれたエグズーダーが、その矛先をオルガに向け迫ります。
「ああ、すまない、ポーラ。食事が必要だったな」
穏やかにも見える顔で頷き、端末から手を離し、オルガは目を閉じます。
――そしてその身体はまるごと、『PL』の開けた口の中に消えていきました。
『――――』
『PL』の全身をオルガノレウムの光が駆け抜けます。
『……行こうか、ポーラ』
『――――』
響くオルガの声に『PL』が咆哮をあげます。
やがて『PL』の周囲を無数のエグズーダーが囲むようにして、一丸となった集団は『Frag-Connect』開催の地へすべてを喰らい尽くさんと迫りつつありました。
■□■
「皆さん。私たちの姿が、見えていますか?
私たちの声が、聞こえていますか?」
一面ライトアップされたステージに立ったアメリアとグラが、今自分たちを見てくれている観客の他、向こう側の観客と手を繋ぐように腕を伸ばします。
オルガノレウムの光がステージに満ち溢れ、世界を分断している『デッドリージョン』へも光が吸い込まれていきました。
(さあて、歴史的瞬間をとくと見させてもらおうじゃないか)
ステージの様子を『ウィッシュコネクト』から見ていたザインは直後、自分の思いが実に脆く、儚いものだったのに気付かされます。
『ザイン隊長! エグズーダーです。これまで確認された種類の他、それらの中心に巨大な鯨の姿をしたエグズーダーが確認されました』
「大ボス登場、ってやつかよくそったれ。大人しく見届けることもできんのか、マナーを教育してやる必要があるな」
吐き捨て、ザインは端末の向こうのダルトンに命じます。
「ステージには絶対近づけるな、ライブどころではなくなる。
俺たちも『Frag-Connect』運営の一員であることを肝に銘じろ!」
『了解しました!』
果たして、アイドルたちは『Frag-Connect』を最後まで開催することができるのでしょうか?
そして世界を、再び繋ぐことができるのでしょうか?