芸能界のバベルの塔にて、混乱を引き起こした首謀者の正体が自分だと自白した
仙道 にあ。
しかし
木 馬太郎校長はじめ、
“芸能人”の称号を冠するアイドルたちの進言により、
記憶の混濁がある様子のにあを落ち着かせることを優先させることになったのでした。
「と言うわけで、えー……。
本日は皆さんに異世界ピクニックを楽しんで……えー、頂くのですが……」
自身の本体である世界樹の前に立つ人間の姿の木校長。そのにこやかな顔に、雨が容赦無く打ち付けます。
「生憎の天気ではありますが、ゲートの向こうは晴れていることを信じましょう!
さ、皆さん。これからいくつかの世界にゲートを繋ぎますので、お好きな世界を楽しんでくださいね」
世界樹が大きく口を開け、異世界への扉を開きます。
そこへ足を踏み入れて行くアイドルたちは知る由もありませんでした――
ゲートの先はいずれも更なる暴雨に見舞われていることなど!
★☆★
――セブンスフォール、カンタレーヴェ王国。
ここしばらく降り続いて止まない雨を王宮の窓から見上げ、王国の若き王である
リンアレルは表情を曇らせました。
彼女の隣に寄り添うウィザード、
ファラムートも難しい顔で腕を組みます。
「川の氾濫、主要な遺跡の沈没……被害は甚大じゃ。
深刻な浸水により住処を離れざるを得なかった人々の受け入れも直に追いつかなくなる。
この止まぬ雨によってこの国が失うものは多いじゃろうな」
「はい。けれど今ならまだ、間に合います。
“ウタ”の力を行使するんです。たとえ、わ、私一人でも――」
少し震えながらも決意を固めた様子のリンアレル。
ファラムートが慌てて彼女の思惑を聞こうとしたところ、王宮の大扉が乱暴に開かれました。
「リンアレル、俺はアイドルとしてはまだ頼りねえか?
俺だけじゃねぇ、お人好しは知る限りでも山ほど居るだろうが」
校長に頼まれピクニックの引率を頼まれたらしいびしょ濡れの
クロシェルは、
同じくびしょ濡れになりつつも頼もしいフェスタのアイドルたちを引き連れていたのでした。
★☆★
――ネヴァーランド、神塔付近。
塔を揺らすほど激しく猛威を振るう雨は、大地さえを抉り、崩し、流れ出させました。
やがて崩壊してしまった墓場にはいくつもの影が蠢き始めます。
「ま、ママ、なの……?」
雨雲に覆われた空の下、墓場からゆっくりと歩みだした亡骸たち。
その一体を見て、ネヴァーランドの引率を引き受けた
レイニィ・イザヨイが声を震わせます。
白骨となった彼女の亡くなった母親が、苦しみもがきながらレイニィに近付いてきたのです。
「どうして、だって彼らは死んでしまったはず……。ああ、皆よく覚えているよ。
僕の愛する人間達。ああ、トニー、ノート、ウェンディ……」
神様もひどく動揺した様子で、一人一人の名を呼びながら亡骸たちに手を伸ばそうとします。
しかしその手を止めたのはかつてネヴァーランドに死を創り出した
†タナトス†でした。
「よく見ろ、彼らはもう生きてもいない。動く骨や肉の塊だ!
スターの皆、こんなことは頼みたくないけど……手を貸してほしい。
ネヴァーランドに、再び“死”をもたらさなければ」
★☆★
――オルトアース、“超玩都市”オキナワ。
大雨が続き海が荒れ狂うオキナワでは、多くの市民が家に閉じこもった切りになっていました。
「キミは、子供達に未来と夢を与える側の存在だと思っていたがね」
降りしきる雨の中で怒りに声を震わせているのは、オキナワではドクターKとして親しまれている
ドクタークルークでした。
彼の脳内にはいつもの幼い声が、今日は少し残念そうな声色で響き渡っています。
『予定が変わったんだ、力が戻るのが意外と早くてさ。
ちまちまとオモチャで世界を変えてもらうより、一旦すべてを洗い流した方が早いんだ。
ほら、明日雨が止む頃にはこの街はもう実験完了だよ』
ドクの足元には捨てられたDマテリアルの残骸が落ちていました。
つい先日、彼が特別にカスタマイズした一点ものを嬉しそうに持ち帰った少年の笑顔をドクは思い返しまします。
『技術の結晶と言える素晴らしいオモチャも、子供や未来を尊ぶきみのことも好きだったのは本当だよ。
だけど僕とあるじ様が見据えるのはそれより何百年、何千年先の世界なんだ。ごめんね』
「……させるものか。子供の夢は、技術者の夢はここで終わらないよ。
それはアイドルも同じさ!」
消えゆく声へと吠えながら、ドクは携帯端末からある着信履歴を表示させました。
★☆★
――ビーストラリアだけはこんな時でも晴天、
平和です。
木 花子と
仙道 にあはサバンナでのんびりと日向ぼっこをしていました。
「お日さまぽかぽかで光合成日和です……♪」
「光合成、これから流行るにゃ~。猫のびーすと界隈ではもうトレンドらしいよっ」
そんな二人を見守るのは、ビーストラリアの引率に立候補した猫の頭を持つ芸能神
バス=テトでした。
バス=テト曰く、校長とオニャンコポンの話を聞いてにあに興味を持ったとのことです。
「他の世界は大変らしいニャ。
不吉な雨……まるで何者かがこれから引き起こす災厄の準備でもしているよう……。
ま、そんな事より、花子とにゃんこ。ビーストラリアの遺跡も見て回らんかニャ」
「んにぃ、にゃんこににゃんこって言われたっ。
でも許すよ、あなたは何だか“あるじ様”と同じ匂いがするにゃ!」
無邪気に笑うにあに、バス=テトも微笑みながら瞳孔を細めました。
「……“あるじ様”。確かにどこかで聞いた……懐かしい響きだニャ」