“ヴィラン(悪)”が人々を裏で支配する
ロディニア。
それはここ
カディヤックヒルでも変わらない。
悪事を働くヴィランの中心である“異邦人(エトランジェ)”に成す術を持たなかった人々だが、
勇気を力に変換する
“ブレイブコンバーター”の開発によってヴィランに太刀打ちできる力を手に入れた!
“セイヴァー(救世主)”が勇気を力に変えてヴィランを打ち破る想像(イマジン)の世界となったのである!
■ □ ■
――カディヤックヒル 闘技場地下
「
ガネーシャサージェント様、次回の作戦の決行地点が決定しました」
人間に比べ遥かに巨大なミュータントが、更に目線を上げ、そう恭しく報告しました。
その目には尊敬や畏敬の念ではなく、畏怖や恐怖の色が多く映っています。
「……ご苦労さまです。では、すぐに決行してください。
今回も多くの人間を攫ってきてくださいね? それが
オルグキング様の為になるのですから」
「承知しました。
……しかし、いったいなぜ人間を攫うのでしょうか……労働力にするでもなく
ただ捕らえておくだけというのもわかりませんし……」
ガネーシャサージェントと呼ばれた巨漢のミュータントは、笑みを浮かべると、
ゆっくりと立ち上がります。
「ほう……私の命令に疑問を持つのですか……?」
巨大なハルバードを持つ上司の姿に、部下のミュータントは表情をこわばらせます。
「ひぃぃぃぃぃ!? いえ! そんなことは……!!
ぶ、武器をお収めくださいガネーシャサー……」
しかし、その願いは聞き入られることなく、
ミュータントの体はあっさりと真っ二つに切り裂かれるのでした。
「オルグキング様は強者を求めていらっしゃるのですよ。
攫った者同士を戦わせて強者が生まれればよし。
いなかったとしても、助けに来た者の中にいれば問題ないのです……」
■ □ ■
――カディヤックヒル アンダープレート
「ここがカデヤックヒルか……興奮するねぇ!!」
「興奮する? 何かあったのか狂介」
調査の名目でカデヤックヒルを訪れていた
椚 狂介(くぬぎ きょうすけ)と
フリーデンは、
アンダープレートを練り歩いていました。
「それにしてもなんで僕たちがこんな探索途中の世界に送られたんだろうねぇ……」
「……指令を受けたからには全力で遂行する。それだけだ」
実際、狂介とフリーデンがカデヤックヒルに派遣されたのは、
先入観の無い第三者の意見が欲しいと判断したワールドホライゾンの市長
紫藤 明夜の要請によるものでしたが、
彼女自身、この人選が正しかったのかは疑問に思うところもあるようで、
特異者たちにも声が掛けられています。
「それに、急に来たってそんな都合よく問題なんて……」
「見ろ狂介。あそこでミュータントがいるぞ」
「……あったねぇ」
フリーデンはミュータントを見かけた瞬間、すでにそちらへ向かって駆け出していました。
それを狂介は全身を使って必死に止めます。
「待て待て待て! ここは興奮するところじゃない。
あいつら様子がおかしい。もう少し様子を見ようじゃないか」
現時点で数人のミュータントたちは特に何かをするわけでもなく、
ただただ街を跋扈しているだけです。
カディヤックヒルの人々に比べて一回りも二回りも巨漢なだけに、
ただ歩いているだけでも人々は道を譲り、出来るだけ関わらないようにしようとしています。
「…………しかたない。
だが、何かあれば俺はいくぞ」
渋々了承した様子のフリーデンでしたが、手には武器を持ったまま、ミュータントを睨んでいます。
しばらく監視を続けていると、やがてミュータントたちはお互いを攻撃し始めました。
予想していなかった光景に、フリーデンでさえも一瞬驚きを隠せません。
強靭な肉体を持つミュータント同士が殴り合う、肉と肉がぶつかる音はあまりにも大きく、
遠くで様子を伺っている二人の元にも聞こえてきます。
飛び出そうとするフリーデンを何とか押さえつけながら、狂介が周囲をくまなく観察していると、
興奮したミュータントたちは、わざわざ遠巻きにその様子を見ていた人々の元へ行き、
物足りないとばかりに攻撃を始めたではありませんか!
「何か怪しいねぇ……
ただ騒ぎを起こすだけが狙いじゃなさそうだ……
市民が巻き込まれてしまった以上、フリーデンは撃退に回ってくれ」
「了解した」
「僕は周囲の様子を見てくる」
狂介は人ごみの中へ姿を消しました。
同時にフリーデンは駆け出していました。
殴り合うミュータント達の前に立ちはだかると、殴り合うその拳をいともたやすく受け止めます。
「なんだお前は」
突然現れたフリーデンに驚きながらも、ミュータントは淡々と口を開きました。
「俺の事はどうでもいい。
お前たちの狙いは何だ。言わなければ倒す」
しかし聞く耳を持たないフリーデンは拳を構え、質問を投げかけます。
「なんでそんなことお前に言わなきゃならな……」
「フンッ!!!!」
そう口を開いたミュータントは最後まで話すことなくフリーデンの拳を受け
背後の壁まで吹き飛びました。
「「…………!」」
その様子を見た残りのミュータントは何かを小声で相談すると、
先程までの反抗的な態度を翻し、フリーデンへ笑顔を向けました。
「わかった。しかし、詳しい内容はボスしか知らないんだ。
お前をボスの元へ案内しようと思うがそれでもいいか?」
「いいだろう。話せばわかるじゃないか」
そうしてフリーデンはミュータントと共に姿を消したのでした。
――一方狂介は……
「おいおい、これはまた……興奮するねぇ……」
人の少ない場所を選んで周囲の様子をうかがっていた狂介でしたが、
ミュータントに襲われていた市民が、
次々と鳥かごや虫かごのようなものの中に放り込まれていく光景を目の当たりにしていました。
(ミュータント同士の戦いは陽動、本来の目的はコッチって感じだね……
倒してもいいけど、今は目的を掴むことの方が大切かな……)
「うわ!? 何をする、止めろ!」
台詞が棒読みの演技でしたが、
ミュータントたちは狂介も攫い、拠点へ帰っていくのでした。
(こいつらの拠点に着いたら、位置情報だけでもイマジンレガリアに共有しておかないとねぇ……
虫かごで運ばれるというのも興奮するねぇ!!)