束の間の休息期間を経て、先日突然フェイトスターアカデミーに現れたマナPこと
紫麝愛。
彼女がアイドル達に要求したのは、
無条件降伏と全ての小世界の譲渡という突飛なものでした。
さらに、フェスタに駆け付けてその場を一旦収めた
聖歌庁はどうやらマナPが何者か知っているようです。
★☆★
――聖歌庁にて、重要な会談が行われる時にのみ使用される特別聖堂。
白陽 秋太郎らが用意した“商談”の場には、聖歌庁のせめてもの抵抗か、
参加を希望したアイドルや関係者の席も多く設けられていました。
「いかにも、私はマナシジャ。元芸能神で間違いありません。
と、言ってもそれは私ももっと若かった頃……この地球の人間が言葉を使い始めた時代くらいの話ですけど」
少し照れたように頬に手を当てるマナPの発言に、秋太郎は非常に緊張した様子で眉を顰めます。
アンラ・マンユによれば、マナシジャとは地球の芸能を司る神々の世界“芸能界”創世期に名を残す大いなる存在。
今の芸能界でも神話扱いされるほど古の存在であること、不思議と彼女の記録が残っていないことから、芸能界出身者でも彼女自身を知る者は非常に少ないようでした。
――ただ、創世期時代の芸能神はいずれも世界一つの興亡を好きに出来るほどの力を持っているそうなのです。
「それで、どうするんです? こちらには
人質――こほん、熱いファンが大勢いることもお忘れなく」
「要求は全ての小世界と言ったな。小世界を地球に取り込んだとして、それが何になると言う?」
「えっ。えへへへ……実は
推しへのプレゼントなんです!」
「……ハ? 何だと?」
さすがの
烏扇もマナPのふざけているような答えには面食らったのでしょう、
コートと共に取り戻しかけていた貫禄がまた一瞬剥がれた顔をしました。
「シヴァ様――あっ、私の推しくんなんですけど、この前害悪ファン達に押しかけられて活動休止してしまったんです……
けれど私は彼の『TO(トップオタ)』。誇りにかけて、きっと彼をまた輝きの下に連れ戻すって決めたの」
「……その手土産に、この地球を有用な世界に仕立て上げて捧げようと?」
「あらあら、『茶の間』のくせに知ったような口を利くんですねっ」
――
シヴァ。
ワールホライゾンの総戦力をもって退けられた、
「三千界統合機関」のトップです。
三千界の各世界を有用なものだけを残して崩壊させようとしてきた統合機関については、
ワールホライゾンに出入りするアイドルは聞いたことがあるかもしれません。
「そ、そんなことのために……? マナP、あなたという人が私にはもう分からない――」
「でも、でもっ。マナPにはやっぱり深い考えがあって、それが地球にとっては良いことなのかも!」
「なっ、アルカ……!?」
初めてマナPの本性を目の当たりにしたグランスタアイドルである
八咫子は驚愕しますが
この場で
アルカだけは頑なにマナPの肩を持とうとします。
「そうですよぉ、警戒しているようですが私は地球には何も害は為しません。
むしろ地球の人や資源は出来るだけ損なわず、より価値ある世界に高めようとしてるのに」
「では望み通り世界の価値の話をしようか、ナァ?
小世界を失うのは、かえってこの世界の価値を損ねるのではないか?」
そこで再び烏扇が声を上げ、マナPは少しだけ驚いた顔をしてから目を細めました。
「……それは大変興味深いご意見です、少しだけ聞いてあげてもいいですよ。
推しくんへのプレゼントに悩む時間って、愛にあふれていて何より幸せですもんね♪」
★☆★
「――うん、上手く時間を稼げることになったようね。
いい? マナ様が動けない内にやっちゃう重要ミッションは二つ。
監禁されている行方不明者たちを奪還すること、華乱葦原を取り戻すことよ!」
聖堂での様子をイヤホンで聞きながら、別所に集まったアイドル達に声を掛けるのは
アンラ・マンユでした。
「ただ、行方不明者の居場所を突き止めてくれた
イドラの騎士ってヤツによれば、彼らは精神に重度のダメージを負ってるみたい。
おまけに
SHINJAってヤツがこちらの動きに勘づいたみたいで妙な動きをしてるらしいわ。
邪魔されちゃたまったもんじゃないけど……」
「高次の悪神とやらが心配症さんだな! そやつには我々が対処に当たろう」
複雑そうな顔をする者が多い中、
トラウが敢えて空気を読まずに高笑いをしました。
そして、それに先に応えたのは相棒の
イザークではなく
ハルの明るい声です。
「私がユニゾンするからには辛気臭い顔はやめてよね、ショータイムなのよ!」
「少し考えていただけだ。グランスタの新たな看板として推された真蛇を、俺達でも超えられると証明できるなら……
少しでも
スピカを安心させてやれるかもしれない」
取り戻したいもの、連れ戻したい人がいる者たちも、サミットの開始を待っていよいよ大きく動きだします!