地球に出現した空の大陸、パラミタ。
その辺境、シャンバラ地方。
シャンバラの民は、
古に滅びたシャンバラ王国の復活を願い、
地球から来た契約者たちと手を結びました。
そして復活に不可欠なのは
国家神でもある女王の存在でした。
契約者たちは女王復活に必要と言われる
女王器の一つ
“スレイブオブフォーチュン”を入手。
そして、シャンバラ復活を阻止しようとする
テロ集団
鏖殺寺院の拠点を制圧しました。
しかし、鏖殺寺院の首魁
アズールは
闇の力を持って逃走。
そして、空京は闇に包まれました。
■□■
シャンバラ大宮殿。
瘴気の中でも光り輝く宮殿ですが、
その中では契約者たちがあわただしく動いていました。
「ルミーナ、市民を避難を最優先で頼むわ。
薔薇学生の献血運動や、団長の縁談、
ろくりんピックスタジアムの落成式、みんな延期にして」
御神楽 環菜が各所に指示を出します。
空京を包む闇を構成する瘴気は、
契約者以外が長期間吸い込めば命の危険もあります。
「アズールを逃さなければ、良かったのじゃが」
「うう、大ババ様と一緒にお詫びしますぅ」
イルミンスール魔法学校の校長の
エリザベートと副校長
アーデルハイトが首を垂れます。
「空京が闇に包まれたのは
地下にある瘴気が漏れだしたせいよ。
この場所を首都とした限り――
いいえ、シャンバラ王国を復活させようとする限り、
いずれ起こる事態だったわ」
地球人でもパラミタの拒絶を受けることなく
安全に暮らせる大都市空京ですが、
その基盤となる巨大な結界は、
邪悪な存在を封印するためであったことは
予測されていたのです。
「黄昏の神殿で捕らえた鏖殺寺院のメンバーによれば
アズールは空京地下にある
“墓所”で、
鏖殺寺院の神を復活させようとしているらしい。
墓所にある
聖冠クイーンパルサー。
それを起動させることが鏖殺寺院の神の復活の
条件だということだ。
しかし、空京の地下は広大かつ濃密な瘴気の空間。
そのどこに墓所があるのか探索しなくてはならない。
そして墓所を開くには
黄金の鍵が必要。
黄金の鍵はゴアドーの大怪獣が持っていたといいます」
シャンバラ教導団の
金鋭峰の分析に、
「大怪獣?
であれば、先日――」
と薔薇の学舎の
ジェイダス観世院が言葉を挟みます。
「ええ。
ご存じの通り
大怪獣は再封印されています。
が、その大怪獣より出てきた男、
ガイアという巨人がパラ実の四天王として
シャンバラ大荒野の西部
“列車の墓場”を根城にし、
数千の蛮族を率いているようです。
黄金の鍵はそのガイアが持っているようですが、
簡単には渡してくれないでしょうね」
「鍵がなくとも理子のスレイブオブフォーチュンがあれば、
最悪墓所への扉を強引に開くことは可能よ。
でも、時間はかかるし
鏖殺寺院側が神を復活させる可能性が高まるわ。
同時に聖冠はシャンバラの女王復活にも
必要な女王器。
起動させることで、女王器の入手と
鏖殺寺院の神と呼ばれる存在の復活も阻止できる。
そうすれば、空京にも空を取り戻せる。
失敗すれば、このまま闇に没するわ」
こうして、黄金の鍵の奪取、
空京地下の探索、
そして聖冠起動のための作戦が始まったのです。
■□■
そして、空京の地下空間にある墓所では。
「契約者たちがここに来るまでは時間がかかるだろう。
その間に聖冠を起動させれば、
大いなる闇、救世主――我らが神であるあのお方が降臨なされる。
そして邪悪なる地球の者たちをこのシャンバラより
消滅させーーシャンバラは我らの神によって
真の復活を果たすのだ!」
鏖殺寺院の首魁である
アズール・アデプターが声をあげます。
――オオッー!
信者たちと共に応じつつも
幹部の
スティグマータは、
(アズールは技術は一流でも魔力は二流。
聖冠の起動には時間がかかるだろう。
それに黄昏の神殿のポータルを握られた以上、
地球からの増援は期待できない。
いや、地球側は最初からこちらの計画に
興味はなかったのだろう。
地の利と時間は我々に有利とはいえ、
あまりに無謀な計画だ)
と危惧していたのです。
ですが、そのあとスティグマータは笑みを浮かべました。
(それでも私も見えたいのだ。
古代シャンバラを滅ぼしたあのお方を。
そのためなら、この肉体に刻印を刻むこともいとわん)
■□■
その上部、空京市街では多くの市民が
地球とパラミタをつなぐ
巨大エレベーター
天沼矛へ向かっていました。
最新設備である天沼矛であれば、
瘴気の影響を受けずにすむというのです。
その避難活動を手伝うヴァルキリーの女性
ジークリンデがいました。
彼女は避難する市民たちと逆方向に向かう
ショットガンを持った美少女を見かけました。
「どこへ向かうの?
今は避難した方がいいわ」
「あ、ええと……。ボクは大丈夫です。
空京の地下に向かって、
少しでも皆の手助けをしたいんです」
彼は
桜田 静雄を名乗り、その場を立ち去りました。
(あの子……男の子だったのね。
とても儚くて美しい。
……闇を引き寄せてしまいそうなくらい)