※※当シナリオは全体的に難易度が高めに設定されております。
シナリオガイド、およびマスターコメントをよくお読みの上、参加をご検討下さい。※※
“灰色の世界”ガイア。
この世界には、星導技術を発展させた七つの大国があります。
その中でも、ギアの発祥の地であるヴィクトリア連合王国と並ぶ星導技術保有国が、
ライン帝国です。
スカイシップを生んだアレクサンダー社を中心に、航空産業に強みを持っていることで知られていますが、
ここ数年はその技術の大部分を軍備の拡大に用いていました。
それを推し進めているのが若き皇帝
レオンハルト一世です。
彼の即位後、国は大きく変わりました。
彼は国中にギアを行き渡らせ、国民が豊かな技術を享受できるようにしました。
しかしその一方で、自分にとって有益にならないものは徹底的に排除し、外交も強硬的な姿勢を貫いています。
また、汽人を重視し過ぎており、生身の軍人を冷遇してもいます。
そのため、国外から警戒されるだけでなく、国内でも不満を抱く者は少なくありませんでした。
そのような状況の中で、「反レオンハルト派」は密かに勢力を拡大していました――。
★ ★ ★
――首都グロースベル。
「先の汽人工廠襲撃・破壊を受け、軍は“敵”の最終目標が陛下だと判断。
現在王宮の警備を強化しています。
首都防衛隊の配置には一見不自然な部分はありません。
“隙間なく”王宮を守るように展開されております」
「なるほど、実に分かりやすい。いい退屈凌ぎになりそうだ」
側近の
レヒトの報告を受けた
レオンハルト一世はにやりと笑いました。
「“ドッペル”を潜らせておきました。アレクサンダー社への依頼も済んでおります。
軍の中で陛下を支持する者は魔物への対処のために北部、あるいは先日の軍事協力に基づきパダーニャに派遣。
例の二人の回収にも成功したとのことです。
これで陛下のお望み通り、国内には“陛下を嫌う軍人”しか残っておりません」
「ドッペルにはこう伝えておけ。『男は殺すな。女子供を徹底的に殺せ』と。
男を殺したところで泣き喚くのは身内だけだが、女子供の死は無関係な者たちの同情も誘う。
大した思い入れがなくとも、周囲に同調して“悪者”を糾弾するものだ」
それを“正義の味方”が駆逐する。人間よりも、統制のとれた汽人にこそ国民を守る力があるのだと。
「この国は余と、余の花嫁のものだ。ちゃんと綺麗にせねばな。
くく、はは、ははははは!」
高笑いするレオンハルトの元へ、
リンクがやってきました。
「陛下、大変ー。あの子、いなくなっちゃった」
悪びれることなく報告する彼女に、レヒトが剣を放ちます。
「見張っておけと伝えたはずよ?」
「ごめんごめん、お姉ちゃん。
そんなわけでボク、捕まえに行こうと思うんだけど……あの子、すっごく強い力を持ってるんだよね、ね?」
愉しそうなリンクを見て、レヒトは察しました。
「俺が行こう」
そう応じたのは、食客である
桔梗院 恭耶です。
「彼女は
アーカーシャを呼び覚ます鍵。それに、陛下には『クーデターへの対処』があるでしょう?」
「そうだな……余は貴様ら“兄妹”を買っている。任せるとしよう」
恭耶は刀型のギアを抜いて空間を断ち――姿を消しました。
★ ★ ★
――ライン帝国北部、北海沿岸。
「ツァウバーフローテ、起動」
アレクサンダー社の新製品である“魔笛”の音が響き渡り、帝国軍人、アレクサンダー社警備部門の社員、
そしてギルドの依頼を受けたウィザードたちがギアを構え、戦闘態勢に入ります。
「ここ最近、魔物が増えて不安がる者もいるが、我々としては実に僥倖。
ふむ、笛の調子もなかなか良さそうだ。
さて、掃除を始めましょうか、皆様」
アレクサンダー社、本社役員の一人である
ハインツ・アレクサンダーが合図を送ります。
魔笛の音色につられ、魔物たちが集まってきました。
海から這い上がってきたサハギンや陸の魔狼といった小物は、圧倒的な武力で蹂躙されていきます。
しかし、変化は突然訪れました。
「何事だ?」
「哨戒中のスカイシップが一機撃墜されました。攻撃元は――」
ハインツが空を見上げると、そこには黒い犬を連れた狩猟者の集団がいました。
彼らの姿はどこかおぼろげですが、スカイシップや地上のウィザードめがけて攻撃を仕掛けてきます。
「ヴィルト・ヤークト……」
それはワイルドハントとも呼ばれる、伝承で語られる存在でした。
ハインツは怯えることなく機械式グラスで観察し、あることに気づきます。
「マナの流れが見える。幻術の類か、使役霊か……いずれにせよ、どこかに術者がいるはずだ。
ウィザードに伝達。術者を探し、無力化せよと。
舐められたものだ。“空の支配者”に、時代遅れの魔法で挑むなどとは……」
★ ★ ★
(あの歯車が飛んでる女は何を考えてるんでしょうか……)
M.G(メグ)は宮殿を抜け、物陰に隠れながら市街を移動していました。
(どうにかして、反レオンハルト派の指導者か、それに準じる人に会いませんとね。
クーデターを起こしても無駄死にするだけだと伝えなければ)
★ ★ ★
「その情報は確かか?」
「はい。この写真の汽人が宮殿から出て行くのを目撃した、と」
「だが……証言者の女、瑞穂皇国からの特使だろう? なぜ陛下ではなく我々に知らせた?」
その頃、反レオンハルト派の軍人はメグの存在を知りました。
「連合王国、メトロポリスで汽人を破壊して回っていたという、危険な汽人。
そして、陛下はそれを匿い、何かに利用しようとしている……」
「どうなさいますか、
ベルガー将軍?」
問われた将軍は、逡巡し……決断しました。
「見つけ次第破壊しろ。だが、我々の優先事項は、あの黒獅子を玉座から引きずり下ろすことだ。
それを忘れるな」
★ ★ ★
「さて、はるばる本社まで足を運んだわけだが……」
ブレイク・マグノリアの事を問い詰めるべくメトロポリス法人に赴いた
キョウ・サワギでしたが、
あちらで門前払いを食らったため、然るべき手続きを経て彼の採用を決めたという本社へ直接乗り込みました。
しかし担当者が北部へ出張中とのことで、情報収集がてら帝国観光を行っていました。
「それにしても、妙に人が少ないね。
軍人がこれだけ張って警戒しているのだから、当然か」
一般市民の姿はほとんどなく、いるのは帝国軍人です。
行政区としてのグロースベルは市内の治安維持をギルドに委託しており、軍とギルドのウィザードの間で連携が行われています。
ただ、現在はウィザードの多くは中心部からは外れた場所を任されていました。
「いわくありげな国だが……暇潰しの時間くらい、平和であって欲しいものだよ」
★ ★ ★
「予定では、春ちゃんらの方が早う着くんやけどなぁ……」
桔梗院 桜華は
瑞野 春緒の一行とは別ルートでライン帝国を目指していました。
しかし何かトラブルがあったのか、合流地点にはまだ到着していませんでした。
水元 環が桜華を見ました。
「……どうする?」
「そやなぁ」
不自然に光る遠くの空へと目を遣り、応じました。
「乗り込む前の準備運動、しよか。二人とも」
桜華は環と、もう一人の弟子である
トワイライトに微笑みかけました。
今、役者は旅の終着点――ライン帝国に集おうとしています。