――神多品学園都市、リージョン・ユニバース敷地内、神多品総合病院
“鶴千番長”万座 彰(まんざ あきら)に敗れた
“猛虎番長”猫沢は、
“呑龍番長”赤城 望(あかぎ のぞみ)に担がれて神多品総合病院へ運ばれました。
重傷を負っていたため、ICU(集中治療室)で治療が行われ、容体が安定した今は一般病棟へ移されています。
「
宮澤 理香子から話は聞いた。
水上を人質に取られていて、万座から一方的に攻撃されていたそうだな」
「……そうだニャ」
「なぜ言ってくれなかった! 俺達は友だろう!? そんな卑怯な振る舞い、楯無四天王として許せるわけなかろうに!」
「……言えるはずにゃいニャ。
オレを脅したあの時の万座は既に正気を失っていたニャ。言えば美弥子の危険が危にゃいニャ」
意識を取り戻した猫沢は、赤城から質問攻めに遭っていました。
猫沢の戦いぶりが不可解だったのは一目瞭然です。
特異者達はその理由を調査し、タレント学科の
水上 美弥子(みなかみ みやこ)が行方不明になっており、
万座に捕らわれていること、彼女が人質となっていたため、猫沢は脅されていたことを突き止めました。
そして、美弥子が何故猫沢の人質足り得たのかも、おおよそ分かりました。
特異者が収集し、まとめた内容を理香子から聞いた赤城は、自ら聞くことにしたのです。
「猫沢、貴様と水上は……」
「……
兄妹ニャ。うちは貧乏だけど子だくさんで、美弥子は子供の時に水上家にもらわれていったニャ。会えばケンカばかりするけど、あれは美弥子が俺に余計な心配を掛けさせまいと思っていたことは分かっていたニャ。オレも美弥子を守れる漢になるために番長になったのに、オレのせいで美弥子を危険に晒してしまったニャ……」
「貴様の事情は分かった! 番長だって人の子、失敗することは多々ある! 失敗したら取り返せばいいだけのこと。そこで、だ、猫沢、貴様はどうしたい?」
「どうしたいって、美弥子を助けて四天王の座を取り戻に決まってるニャ!!」
猫沢の返答を聞いた赤城は破顔しました。
彼の口からそのことを聞きたかったのです。
「なら話は早い! もう一度万座に番長ファイトを申し込め。そして貴様が戦っている間に水上を助ける。少なくとも、貴様が番長ファイトを申し込む間は、水上は人質としての価値があるから万座も下手なことはできないはずだ。貴様にはまた少し痛い目を見てもらうことになるがな」
「それは構わにゃいが……美弥子が捕まっている場所は分かるにょか?」
「ああ。宮澤が言うにはおおよその見当はついているそうだ。後はお前がもう少し養生してから……」
「それはダメニャ! 今日にでも申し込むニャ!」
赤城の提案を跳ねのけると、猫沢はベッドから這って抜け出し、床に降りました。
容体が安定したとはいえ、まだ重傷を負っているのは変わりありません。足元がふらついています。
「そんな悠長なことは言ってられにゃいニャ。理由は分からないが、万座は既に正気ではにゃかったニャ! 道を踏み外した外道ニャ! そんな外道がいつまでも美弥子に手を上げないわけがないし、一日でも楯無四天王を名乗らせるのは、楯無四天王の名折れニャ!」
「分かった! また俺が見届け人になろう! 番長ファイトのセッティングは俺がやる。貴様は少しでも傷の回復に努めるんだ」
点滴の管を外す猫沢を手伝いながら赤城は肩を貸し、二人して病室を抜け出しました。
――神多品学園都市、某所
「万座、
あの人からの差し入れ、持ってきたよ」
吾妻 鼎(あがつま かなえ)は両手に重厚なジュラルミンケースを持ってその場所にやってきました。
そこには楯無四天王の一角となり、舎弟を増やした“鶴千番長”万座の姿がありました。
リージョン・ユニバースに短期留学したことで一時期舎弟の数を減らしましたが、短期留学で得たサイオニックの力と、この間の番長ファイトの内容はどうあれ、四天王の一人になったことで舎弟に加えてもらいたい不良が増えたようです。
「来たかキヒャヒャ! これで俺は、いや俺達はもっと強くなれるぞ!」
鼎の置いたジュラルミンケースを万座は待ってましたとばかりに奇声を上げて開けます。
そこには
黒光りする籠手のようなものが数個入っていました。黒曜石製でしょうか。万座の舎弟達も見たことのない、黒い光沢を放っていました。
「万座さん、それは?」
「あるお方が俺の強さに惚れてくれた、
“アポカリプスアームズ”っつぅ新兵器だ」
「アポカリプスって、リージョンの奴らが言ってる、鈿女(うずめ)様のことっすよね?」
「なんでも、
シャドウが受けた攻撃が記録されているらしくてな、その攻撃が俺達もできるようになるっつぅシロモノらしい」
「マジっすか!? もしかして俺達でもブリンガーやサイオニックの能力も使えるとか!?」
「そうらしいぜ。お前らもどんどん付けて強くなれ! キヒャ、キヒャヒャ!」
万座が言うと、舎弟達はこぞってアポカリプスアームズを付けました。
何人かは腕を回してみたりと調子を確認していましたが、
「うわっ、何だこれ!? 助け……ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」
その中の1人が叫び声とともに、身体をアポカリプスアームズから広がってきた影に浸食されて消えてしまったのです。
カラン……とアポカリプスアームズは何事もなかったかのように、床に落ちて乾いた音を響かせました。
「そうそう言い忘れてたが、気をしっかり持たねぇと、アポカリプスアームズに食われるぞ、キヒャヒャ!」
「食われるって……どうするよ」
「でも、実際付けてる奴もいるし」
「これスゲェぞ!」
万座はアポカリプスアームズに舎弟が食われていく様を愉しそうに見た後、取って付けたかのように注意を言いました。
先程の惨事を見ていた舎弟達は付けるのを躊躇しましたが、無事に付けた舎弟の一人がサイコボルトを使用している姿を見ると、諦めきれずに付けていきました。
「そいつは戦えは戦うほど強くなるからな!」
「万座、呑龍番長から、猛虎番長がリベンジしたいって番長ファイトを申し込んできてるけど、どうするんだい?」
「キヒャ! 受けるに決まっているだろう! 俺には仔猫ちゃんが付いているからな」
鼎が、猫沢から番長ファイトの申し込みがあったことを告げると、万座は笑いながら別室へと来ました。
そこはベッドなどが置かれた学生向けのワンルームマンションの一室のようになっていて、ベッドの上に水上美弥子の姿がありました。
軟禁されているようで、食事は与えられているみたいですが、精神的な疲労が顔に色濃く出ていました。
「いや……近寄らないで……」
「水上がここにいる限り、俺が猫沢に負けることはねぇ! キヒャヒャヒャ!」
「万座さん、こんな可愛い子を前にお預け食らってる俺らのことも考えてくださいよ」
最初は気丈に振る舞っていた美弥子も、長い軟禁生活ですっかりしおらしくなっており、借りてきた猫のようです(実際にはさんぜんねこですが)。
そのギャップが舎弟達の加虐心に火を付け始めてしまっているようです。
「俺が猫沢に負けることはねぇし、水上を猫沢に返すつもりもねぇしな。そろそろ食い時か」
「いや……止めて……いやぁぁぁぁぁ!!」
(万座も自我を保てなくなってきているようだね……強化のし過ぎとあの方に報告しておかないとね)
――神多品学園都市、リージョン・ユニバース、KTSテレビ
リージョン・ユニバース校内にスタジオを持つ、神多品学園都市のローカルテレビ
「KTSテレビ」は、猫沢と万座の番長ファイトのリベンジマッチを、19時のニュースとして放映しました。
万座の初の防衛戦ですので、注目度も高まっています。
また、楯無四天王の紅一点の
スケ番“朱鳥”榛東と、新たに四天王に加わった
“舶来番長”朝倉 蓮の防衛戦ということもあり、特にまだ未知数の能力を秘めた朝倉の戦いには注目が集まっていました。