――神多品学園都市、リージョン・ユニバース生徒会室。
「もうすぐ
六華祭か」
副生徒会長代理の
山田 健司(さんた けんじ)が呟きました。
先日、副生徒会長の
高遠 愛美(たかとう まなみ)が失踪した事により、彼は臨時で生徒会入りしたのです。
愛美は治安維持部隊を独断で動かし、学園都市の支配を狙っていたと言われ、失踪したのはそれが発覚してしまったためとされています。
「いざ自分が追い詰められると逃げ出す……見損ないましたわ。
去年、この私を負かせたのが、その程度の女だったなんて。
まあ、山田さんが臨時で入ってくれるのは非常に頼もしい限りですわね」
頭に近未来的な超能力デバイスをつけた少女が嘆息しました。
生徒会書記、
高崎 恋歌(たかさき れんか)です。
「そう言ってやるな。
やり方はともかく、彼女は彼女なりにこの学園都市のことを考えてくれていたんだ。
……話を六華祭に戻そう。
リージョン・ユニバース、楯無高校共に『一次選抜メンバー』は出揃ってる。
あとは、残りの枠を埋めるための予選会をやるだけだ」
年末に行われた
神多品冬夜祭の結果は、その一次選抜メンバーの選出に関わっていました。
例年、六華祭で勝ち上がるのはこの一次選抜メンバーがほとんどなため、冬夜祭が実質的な予選会、本来の予選会が“敗者復活戦”みたいな風潮となっています。
「しかしこの予選会、今年もやる意味はあるのでしょうか」
「忘れたのか?
ミランダ会長は選抜メンバーではなく、予選会からの参加だ。
学業は確かにトップだが、去年の時点では、武力ではアイオライトや皇海の方が目立っていた。
正直、俺も彼女の力には驚かされたよ」
「いないところで言うのも何ですが、ミランダ会長が勝てたのはあの八本足の戦馬のおかげでしょう」
恋歌はあまり予選会に乗り気ではないようで、不在の生徒会長に対する言葉にもどこか棘があります。
「と、超能力学科からメールだ……ふむ」
健司は、興味深げに文言を目で追いました。
学科が4つあるリージョン・ユニバースは各学科から5名が一次選抜メンバーが選ばれていますが、超能力学科代表のうち3名が選抜を辞退し、予選会から参加すると申し出たのです。
「千里眼(サウザンドアイズ)、万華鏡(カレイドスコープ)……それに矛盾(パラドックス)もですの?」
「残っているのは、あの“物質創造(マテリアライズ)”と――“彼女”か。
下手をすれば楯無高校の代表候補が一掃されかねないな」
「それは例年通りではありませんの」
二人がそんな会話をしていると、騎士学科で円卓の騎士の一員である
メイサ・フランシスカ・アルメイダがやってきました。
「……重要な事を伝えに来たわ。
『サディスティック・レイカ』が海外留学から戻ってきた」
「あの狂騎士が!? 年度内は帰ってこないはずではありませんの?」
それを聞いた恋歌が取り乱します。
「予定が変更になったそうよ。軍事学科から傭兵として海外遠征に行っていたヴィル――
ヴィルヘルム・シュナイダーと合流して、そのまま一緒に帰国することになったって。
彼女の性格を考えると、間違いなく予選会に殴りこんでくるわ。念のため、大学部の“湖の君”への応援要請も検討した方がいいわよ」
サディスティック・レイカこと
雲龍寺麗香(うんりゅうじ れいか)は、ナイツとして高い実力を持つだけでなく、彼女が『バルムンク』と名付けた、火廣金から作られた騎士剣を召現の媒介とするブリンガーでもあります。
治安維持部隊の一員で円卓の騎士候補でしたが、不良やドロップアウトを過剰なまでに痛めつけ、それを止めようとする者は味方だろうと喰ってかかるという狂戦士ぶりから、「海外留学」という名目で神多品から遠ざけられてしまっていました。
楯無高校の不良たちからは“LUの吸血姫”と恐れられていたほどです。
また、ヴィルヘルムは軍事学科で高遠 愛美に勝るとも劣らないほどの戦闘能力を有し、特にゲリラ戦に強い実力者です。
「シュナイダーを呼んだのは俺だが……まさか彼女を連れてくるとはな」
「これは想定外ですわ……」
「そう取り乱すことはない。君はもっと自分の“能力”に自身を持ちたまえ。
いざという時は、君が頼りだ」
羨望の眼差しで見つめてくる恋歌を横目に、健司は思案します。
(あの三人を予選に差し向ける必要はないはずだが……一体どういうつもりだ?)
* * *
――楯無高校。
「今年の予選会の会場は、東湖岳ですね。
内容は
スタンプラリー。
ただし、スタンプは押すのではなく、
『制限時間内に所定のチェックポイントに辿り着き、そこで入手する』というものです。
チェックポイントは全部で4か所で、それぞれに各校で5個ずつ、計20個ずつですね。
一次選抜メンバーと合わせて、六華祭の代表は各校40名ずつとなります。
……しかし、楯無高校は40名フルで埋めたことはほとんどありません」
「予選会の時点で、リージョン・ユニバースにやられちゃうから、ってこと?」
宮澤 理香子の言葉に、
高槻 榛名(たかつき はるな)が頷きました。
「六華祭の本戦は総当たり戦ですから、頭数が多い方が有利ですからね。
例年、リージョン側は優秀な生徒の数人をあえて選抜メンバーにいれず、予選から参加させ、“掃除”を行っています。
残念ながら、戦力ではあちらの方に分があり、こちらは選抜メンバーを予選に回すだけの余裕はありません……」
ですが、と榛名は続けます。
「会場が東湖岳ということはンガンダさん――
白虎の巫女である彼が力になってくれると思います。
それに今年は、楯無にも実力が未知数な方々が多くいます。もしかしたら、今年こそは予選の枠を全て確保することができるかもしれません」
それができるかどうかは、楯無高校の生徒である特異者たちにかかっています。