姿をくらましていた
飛燕まいんが突然現れ、フェスタのお昼の放送をジャックした翌日。
校内はまいんの話題で持ちきりでした。
※
「主役級の歌声」参照。
「サブスクでも、まいんちゃんの新曲が聞けるよ!」
「まいんちゃん、今日のお昼の放送もジャックしてくれないかな~」
昨日まいんが強制的に放送した新曲はこれまでにない魅力に溢れており、多くのフェスタ生の心を掴んだのです。
★☆★
そんな浮足立った雰囲気のフェスタに、お昼休みがやって来ました。
「じーっ」
中庭のテラス席では、
戦戯 嘘が
イオニアを見つめています。
「そんなにジロジロ見られたらご飯食べづらいよ。とりあえずあなたも座ったら?」
「はふ! それでは失礼するのよっ!」
イオニアの前にしゅたっと座ると、嘘は鼻息荒く質問を浴びせます。
「あなたが謎の転校生?」
「なになに? もしかして私、有名人になっちゃった? おもしろーい!」
「謎の転校生なんて、新たなる物語の始まりって感じなのよ!
気になってしょうがないから、秘めている謎をとっとと白状するのよ!」
「うっわぁ。フェスタの焼きそばパン、美味しいね〜。
ねえ、嘘。あなたもランチ持ってるんでしょ? 一緒に食べようよ」
「イオニア……さすがは謎の転校生。非の打ち所のない、陽キャなヒロインっぷりなのよ」
舌を巻きながら、嘘が素直に自分のランチを広げると――
『ぴえん♪ みんな、昨日ぶり。
超かわエンジェル໒꒱まいんちゃんのゲリラ配信ライブが始まるよー』
校内じゅうのスピーカーから、まいんの新曲が爆音で流れ始めました。
「きゃーっ! ジャックきたー!」
「まいんちゃーん!!」
教室のモニターや生徒たちの携帯にはまいんの姿が映し出され、一気にフェスタが賑わいます。
配信画面には、すでに好意的なコメントや絵文字が止めどなく流れています。
「むぅ……みんな、まいんのガチなファンになってるのよ」
すると画面の中のまいんが、満面の笑みを浮かべてこう言いました。
『みんな、
転生したまいんを気に入ってくれたみたいだね♪』
「て、転生!? 異世界で無双的な!?」
「違う違う。彼女のはただの比喩よ」
「???」
混乱する嘘に、イオニアが説明を続けます。
「あのね、すごく大雑把に言うと――
あの子は
天使の血を引く末裔にして
天才アイドルの子ども、
さらに
大物女優の生まれ変わりになっちゃったの!」
「後付け設定盛りすぎなのよ!」
「そう、後付け。
それを可能にするのがデスティニアの技術なの。
実際に生まれ変わったわけじゃないけど、結果的には転生したようなもの、ってこと」
「つまり異次元的な魅力を放ってるのは、デスティニアで設定モリモリにしてきたから?」
「ナイス要約! そんな感じだよ。さすが嘘!」
「んふふ。これがオタクの理解力なのよ♪」
嘘とイオニアは意気投合した様子で、ハイタッチをします。
「で? イオニア、なにか作戦があるのよ?」
「作戦っていうか、このままは良くないから……」
イオニアは食べかけの焼きそばパンを一気にほおばり、まいんにメッセージを投げかけます。
『まいんちゃん! ライブ対決しよっ! いますぐ!』
「まいんとライブ対決!?」
「あの子、才能におぼれて危険な状態なの。止めないと。
このままじゃフェスタのみんなも、
アイドルとしての自分を見失っちゃう。
それに……あんな凄い子とライブ対決できるなんて、これはまたとないチャンスだよ!」
イオニアの瞳は、いきいきと輝いています。
『まいんとライブ対決?
ぴえ……まだそんなこと言ってるアイドルもどきが校内にいるんだ。
みんなはもう、アイドルなんかじゃない。ただのまいんの引き立て役。
超かわエンジェル໒꒱まいんちゃん最高!! って言うだけのモブキャラ。
散々まいんにひどいことしたフェスタは、それくらいの扱いがちょうどいいよね?』
ひどい言葉であるにも関わらず天使のような声色は聞くものを魅了し、画面はまいんに賛同するコメントや絵文字が溢れています。
今や校内の大半のフェスタ生たちが夢中でまいんの配信に見とれています。
ですが。
もちろん、全員がまいんに魅了されているわけではありません。
この状況に危機を感じ、立ち向かおうとするアイドルがフェスタには残っています。
『私も、ライブ対決する!!』
『俺とも対決だ! まいん!』
『今すぐ、野外ステージで対決よ!』
イオニアに続き、真っ向対決をのぞむコメントが次々とまいんに投げかけられます。
『ぴえ、無謀だよぉ~……今のまいんは完璧なアイドル、一番星の生まれ変わりだよ?
それでも勝負したいっていうなら、野外ステージで待ってるね。
ファンのみんなも、まいんの応援に来てね~』
まいんは余裕で微笑み、配信を切断しました。
「まいんちゃんの生ライブが見れちゃう!」
「早く野外ステージへ行こう!!」
こうしてフェスタじゅうの生徒が、校内の野外ステージへと大移動を始めました。
★☆★
ちょうど同じ時間帯の、東京都内のとある臨海地区。
この一帯に怪しい集団が現れ、人々に迷惑をかけている――と、聖歌庁に一報が入りました。
おしゃれな臨海ホテルでは……
「支配人! 海の見えるチャペルがいつの間にか不気味なお化け屋敷になってます!」
「なんという恥……! 誰にも気づかれぬようシートで覆ってすぐに元に戻せ!」
商業ビルの室内型遊園地では……
「ホラーなコスプレ軍団が現れ、内装を全てお化け屋敷っぽくしちゃいました!」
「なんだと? 不人気すぎだったお化け屋敷を先日やっと撤去したばかりなのに。
なんの嫌がらせだ。とにかくすぐに、元に戻せ!」
他にも……
「路上で勝手に、心霊写真集(同人誌)を販売するなーっ!」
「観光名所の“海が見えるポスト“を、“霊界ポスト“に改装したのは誰だ!?」
「ホラーコスプレの撮影会? もうそういうのは誰も喜ばん。よそでやってくれ!」
ドレッド・カルチャーの扱いはだいぶ様変わりしており、
誰もこの状況を怖がったり怯えたりせず、非情なほどに、あからさまに迷惑そうです。
「くそー。ひどい塩対応だ」
「もはやドレッド・カルチャーは下火どころか、人類の汚点なのか!」
「こうなったら、もっと過激にせめていくしかないな!」
一連の迷惑行為の首謀者は、
ドレッド・ファンクラブと名乗るドレッド・カルチャー推しのアイドル集団でした。
(ちなみにドレッド・プロダクションの残党たちは皆それぞれの生き方を模索している最中で、今回は無関係のようです。)
彼らはドレッド・カルチャーに対するあまりにも冷たい世間の反応に、焦りと苛立ちを隠せないようです。
★☆★
事態をだいたい把握した聖歌庁から、フェスタに応援要請が舞い込み、すぐに嘘が立ち上がりました。
「ドレッド・カルチャー推しのアイドル達……これは厄介なのよ。
一回推しをこじらせると、予後が悪いものなのよ。大惨事になる前に、なんとかしなくちゃ!
イオニア、みんな、後は頼んだのよっ」
こうして嘘は、一目散に野外ステージを後にしました。
「さあ……あとはあの子の登場を待つばかりね」
イオニアと同志のアイドル達は、まいん派の生徒でごった返す野外ステージを見回しました。