――戦乱渦巻く“機神(ロボット)の世界”
ジーランディア。
ジーランディアでは
『鐵皇国』、
『ルミナス王朝』、
『自由都市連盟』の三国が、
大陸の中央にある天を貫く塔
「ガドラスティア」を巡って争い、混迷を極めていました。
異世界からジーランディアに様々なものを呼び寄せ、時にジーランディアから送り出すガドラスティアの力は、
ワールドホライゾンにとっても注目すべきものであり、
泥沼化した戦況を変え、塔の謎に迫るべく三国に介入する事となります。
ワールドホライゾンの特異者たちと共にガドラスティアに辿り着くのは、果たしてどの国になるのか――。
△▼△▼△
――自由都市連盟、とある都市
「はい、山下AADサービスでございます! はい、その日であればフライングカーゴの手配は可能でございます!」
「はい、山下AADサービスでございます! 大変申し訳ございません、その日は弊社のフライングカーゴは埋まっておりまして……翌日であれば手配は可能ですが……はい、はい、では翌日でご予約でございますね!」
「はい、山下AADサービスでございます! はい、はい、アエリウス城塞近くでホログラムライブを行いたい? もちろん、可能でございます!」
「はい、山下AADサービスでございます! はい、場所はどちらまででしょうか……鐵皇国の棹銅の街でございますね? もちろん、喜んでお引き受けいたします!」
先日の一件で自由都市連盟の
現盟主アリス・エイヴァリーから無期限の業務停止命令を下された
『山下運送』ですが……そのオフィスにはひっきりなしに電話が鳴り響いています。
インターネットが普及し、当たり前になっている自由都市連盟ですが、敢えて電話での受付を行っていました。
「やはりあの人のコンサルティングは正しかったな」
その光景を腕組をして見ながら、社長である
山下 悟朗(やました ごろう)は、満足げにうんうんと頷いていました。
現盟主アリス・エイヴァリーの業務停止命令通り、『山下運送』は無期限の休業に入っています。
ですが、急成長の結果、大量に買い入れたフライングカーゴ(飛空艦)は余っています。
そこで山下悟朗の元を訪れた“経営コンサルタント”を名乗る男性
山本 大國(やまもと だいこく)が提案したのは、
「フライングカーゴによるアバターアイドルのデリバリー」でした。
アバターアイドルは、自由都市連盟では老若男女問わず多くのファンを抱えていますが、同時に『自由都市連盟』のアバターアイドルの中でも指折りの人気を博している“チェシャーキャット”をはじめ、現盟主アリス・エイヴァリーが私的に護衛として雇っている“カウンターソルジャー”のマッシュがドハマりしている“まろん・ぐらっせ”に、シンガーソングライターのアバターアイドル“レインボー・詩織”、毒舌が得意な“痛い系”アバターアイドル“アレニエ・サントノーレ”、「神が創り錫たワガママボディ」で有名な“セクシー系”アバターアイドル“汀太夫(なぎさたゆう)”等々、多くのアバターアイドルが日々しのぎを削っています。
スマホやPCがあれば誰でも手軽にアバターアイドルになれることから、飽和状態になりつつある、といっても過言ではありません。
山本大國が山下悟朗に助言したのは、「アバターアイドルを他国へ広めること」でした。
幸い、自由都市連盟で50年以上の歴史を持つ同人誌即売会
コミックサタデー(通称コミサタ)は、自由都市連盟だけではなく、鐵皇国やルミナス王朝にも広まっており、開催日のためだけにわざわざ会場のある首長都市フリーダムシティを訪れるモノノフやベグライターも少なくありません。
アバターアイドルを他国に広める下地は十分にあるのです。
しかし、一方で、アバターアイドルはネット上でしか会うことができません。
そこで山本大國は、3DCG技術を駆使したホログラム映像をフライングカーゴの甲板に搭載することで、フライングカーゴの甲板でアバターアイドルたちがあたかもその場にいるように見せる技術を山下悟朗に提供したのです。
最初は山下悟朗も半信半疑でしたが、山本大國が、現盟主アリス・エイヴァリーと鐵皇国の現皇帝・
覇道 鼎の審査によって選ばれたアバターアイドル、“料理人整備所”こと
行坂 貫とコネクションがあり、同時に自由都市連盟の
リンクス独立連隊の連隊長
焔生 たまや、鐵皇国の
カッキン独立連隊の副長
他方 優を護衛として雇えることもあり、彼らや彼女を通じてアバターアイドルにデリバリーを宣伝したり、時には護衛に就いてもらうなどすることで、『山下運送』は、
『山下アバターアイドルデリバリーサービス(山下AAD)』
として新規事業に乗り出し、これが大当たりしたのです。
特にファンを増やしたいアバターアイドルたちは、『山下AAD』を積極的に利用し、自由都市連盟の他の都市や鐵皇国の都市でライブを行っていました。
「
川上 一夫……俺はどん底から這い上がったぞ。俺を助けて恩を売った気でいるようだが、俺はお前を決して許すことはない。今度こそお前をこの世界に居られないよう蹴落としてやる」
「調子、良さそうですね」
そこへ人懐っこい笑みを浮かべながら山本大國がやってきました。
山下悟朗は懐から分厚い封筒を取り出すと、山本大國だけに分かるように渡します。
ホログラム映像の装置は決して安いものではありません。加えて、行坂貫の宣伝費に、焔生たまや他方優の護衛料も彼に払う必要がありました。
それでも後数か月、この売り上げが続けば十分元が取れるようになりつつあります。
「確かに受け取りました。しかし、申し訳ございません、私も生憎とルミナス王朝にはコネクションがありませんで……」
「いえいえ、自由都市連盟と鐵皇国のコネクションをご紹介頂いただけでも十分です。ルミナス王朝へは、このサービスが軌道に乗ったら私自ら版図を拓きたいと思っているんですよ」
「それは素晴らしい! そこまでは協力できませんが、陰ながら応援していますよ」
山本大國もルミナス王朝にはコネクションがないようで、今のところ、『山下AAD』のデリバリーエリアは自由都市連盟と鐵皇国のみとなっていました。
『ジーランディアでビッグになり、川上 一夫をこの世界に居られないよう蹴落とす』
未だにこの野心を抱く彼は、山本大國への支払いが終わった後は、自らの手でルミナス王朝への版図を開拓しようと本気で考えていました。
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「あなたたちが山下悟朗を始末出来なかったお陰で、ダミーカンパニーを14失うことになりましたが、
より面白いことができそうですよ」
『山下AAD』から出た山本大國は、2人の人物と接触していました。
「ダミーカンパニーを14まで辿って調べ上げ、全て潰したのですか……盟主アリス・エイヴァリー、思っていたよりも切れ者のようですわね」
「むしろ、“複製人士”のル・フェイが技量的にお荷物で、それと一緒に戦って特異者の足止めをしたんだから、キミの技術不足が悪いんだよ。それでボクたちの足は掴めそうなのかな?」
「少なくともこの倍は調べないと、足元にも及ばないくらいには念を入れてありますよ。“複製人士”に関しては耳の痛い話ですね」
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山本大國がいう「より面白いこと」は、早くも現実のものとなりました。
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――鐵皇国、国都・鐵の城
「棹銅の街の民が、守備隊である“夕闇団”とモノノフを攻撃しているのですか!?」
『しかもうちの連中も何人か混じってる上に、カッキン独立連隊副長の他方優が扇動しているんですよ!』
覇道鼎は、棹銅の街の守備隊である“夕闇団”のリーダーから救援要請を受けていました。
アバターアイドルのホログラムライブを聞いていた市民が突然暴徒と化し、“夕闇団”やモノノフに襲い掛かってきているというのです。
しかもその中には“夕闇団”のメンバーやモノノフもおり、扇動しているのは他方優だといいます。
「他方優に限ってそのようなことはないと思いますわ。例えば“複製人士”であるとか……直ちに救援を向かわせますわ! 民は……」
『姫様の言いたいことは分かってる。無力化するよう努めるが、他方優が機動兵器を出している以上、限界はあるぜ』
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――自由都市連盟、首長都市フリーダムシティ
「アエリウス城塞近くの街の市民が、アエリウス城塞を攻撃しているのですか!?」
『それだけじゃない。焔生たまが機動兵器を持ち出してる』
同じ頃、アエリウス城塞でも同様に、アバターアイドルのホログラムライブを聞いていた市民が暴徒化し、アエリウス城塞を攻撃し始めたという連絡を、アリス・エイヴァリーはマッシュから聞いていました。
加えて、本来であればアエリウス城塞を守るはずのソルジャーたちも暴徒に加わり、それを扇動しているのが焔生たまでした。
「アエリウス城塞が陥落すれば、“白き静謐”は首長都市フリーダムシティを落としやすくなります。応援を送りますので、何としてももたせてください。ただ」
『分かってはいるが、相手が相手だからな、期待はしないで欲しい……とはいえ、俺も焔生たまが裏切るとは考えにくい。“複製人士”の可能性もあると考慮すべきだろう』
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――ルミナス王朝、王都スプレンダ・ルミナス
「国王バルタザール、我が国民が他国で暴徒と化しているとの報が入ってまいりました」
「ああ、聞いてるぜ。何でも
アバターアイドルのホログラムライブを聞きに言ってた国民らしいな」
司祭
ソラン・ラッグスは棹銅の街やアエリウス城塞近くの街で起こった暴徒の第一報を現国王
バルタザール・ルミナスに伝えると、彼も別ルートでそのことを知っていたようでした。
「暴徒と化したのも解せんし、鐵皇国と自由都市連盟だけで起こっている、というのもどうにもな」
「アバターアイドルのホログラムライブに何か秘密があるかもしれません。カレンが得意とする
呪歌に近いと感じています」
「呪歌か……だとするとちょっと面倒だな。とはいえ、民が関わっている以上救援は出す。そして二国に恩を売っておく」
「国王バルタザールの御心のままに」
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鐵皇国、ルミナス王朝、そして自由都市連盟からワールドホライゾンへ連絡が入り、特異者たちへ応援が要請されました。
どの国に協力するかはあなた次第。
あなたの行動(アクション)が、各国の未来を左右するかもしれません!